十二億の夢
<プロローグ>
「おっと…… 言い忘れるところだったぜ。最後に一つ。
今度の奴らの狙いが分かった。どっかのシェアハウスが標的だとさ。
お前らには関係ない話だが伝えておこうと思ってよ。
何でもうっとうしいのがいるから潰そうってことだ。
誰だろうな。俺たちには関係ないが標的ぐらい教えてくれても…… 」
ついに潜入者から重要情報を得る。
「いつだそれは? どこのシェアハウスだ? 」
「おいおい落ちつけよ。どこかは具体的には知らされてない。
だが今夜決行なのは確かだ。どうした浮かない顔をして?
貧乏人の話などどうでもいいだろう? それよりもあっちは今日決行するぜ」
そのために潜入させたがもしシェアハウスの件が本当なら構ってられない。
どうする? どうすればいい?
<現在>
僕の名前は京堂武蔵。
シェアハウスの住人だ。
「おい武蔵! 貸した百円はどうした? 」
一週間前にくれたお金を返せとセコイことを言う隣人の勉。
と言ってもシェアハウスだから隣の家ではなく隣の部屋だ。
「でもほら…… 勉がアイスをおごってくれるって…… 」
「うるせい! 今パチンコでイライラしてるんだから言うことを聞け! 」
どうも気分屋でギャンブラーでケチだ。だから困ってる。
今にも襲い掛かる勢い。いやパチンコで負けたのは僕のせいじゃないし。
大体パチンコで負けるのは普通で勝つのが稀。でもそんなこと言えない。
負けた奴に言えば火に油を注ぐことになる。
「こら勉君! いい加減にしてよ! 」
一つ上のお姉さん的存在の永利。あだ名はもちろんエイリアン。
自己紹介の時に笑顔でそう呼んでくれと言ったが誰一人呼んでない。
どうやら永利には二面性があるらしい。別に構わないけどね。
化粧は濃いけどスタイルはいいし頭は少しだけ悪い。
難しいことは僕がどうにかしてあげている。
「うるせい! 永利はこいつに甘いんだよ!
そりゃあ百円ぐらい本気じゃないさ。でも返せない理由があり得ないんだ」
それは初耳だ。って僕のことだが。
勉の奴は何をそんなに怒る必要があるんだ? 仲間じゃないか。
シェアハウス仲間にギャンブラー仲間。
つまらないことで雰囲気を壊す者はこのシェアハウスには置いてけない。
と言っても奴の方が歴が長いので一応先輩だから何も言えないが。
「はいはい。困ってるんだからそれくらいに」
「こいつは宝くじに金を突っ込んだから金がないとさ」
勉はしつこく迫る。正直に言ってるんだからいいだろう?
それくらいにしてくれないと困ってしまう。
永利の僕に対する評価が下がったらどうする?
結婚する前提で一緒に住んでるんだからさ。
「おいそれってホントか勉! 」
また厄介なのが…… シェアハウス四人目の黒岩さんだ。
昔女遊びしまくって奥さんに刺されたと噂の十歳以上離れたここの古株。
大家さんを抜かせば最年長だ。先輩面をするんだけどちょっとね。
当然女癖が悪く永利にいつでも手を出そうとするろくでなしだ。
僕にはよくしてくれるので悪くは言えないが本性を知る勉たちは煙たがっている。
ただ存在感がないのでシェアハウス内のトラブルはあまり聞かない。
「そうだよな武蔵」
「ああ…… でも今回のは十二億の方。ロトじゃない」
実は僕は宝くじマニアを自称していて宝くじもロトもナンバーズにも詳しい。
一番好きなのはビンゴかな。やっぱりあれが一番ワクワクする。
一番早さを売りにしてるクイックも一度だけ。
でも宝くじははずせないよね。毎回のように買っている。
今回は絶対当たると全額をベットした。
その結果が今明らかになる。
「それで当たったのか? 」
「今確認作業中…… 」
ワクワクの瞬間。
しかし十分もして青い顔をしてる僕を見て皆離れていく。
そう今回の賭けは失敗。十二億は夢に終わった。
それから月日が流れ新たな抽選日。
今回だけはどうしても当てなければならない。
もう資金が底を尽きかけている。
残るのは借金のみ。それでは宝くじ人生が終わってしまう。
宝くじ売り場で最後のチャンスに賭ける。
「購入ですか? 」
「いえ…… 確認をお願いします」
今まで自分の目で確かめるのを信条としていた。
しかし今回ばかりは当たらないとどうしようもない。
逆に言えばハズレは許されない。それが僕に課せられたもの。
何として今回だけはと思い自分で確認しようと思ったが無理だった。
恐怖で目が霞みナンバーが歪む。
これではたとえ当たっていても間違って勢いで破いてしまいそう。
それだけは避けようと他人に頼る。
一番やってはいけないことだがそれでも結果さえよければ問題ない。
シェアハウスの者たちには頼れない。
万が一当たったら奴らに一部をご祝儀として渡すことに。
それだけじゃない。僕が金持ちになったと知って仕掛けて来ないとも限らない。
それが第一に恐れてること。祝儀ぐらいやるさ。
貧乏人にくれてやるさ。でも奴らは信用ならない。
特に勉が一番信用ならない。永利も付き合ってくれない限りあり得ない。
黒岩など教えなくても嗅ぎつけてきそう。
そう言う奴らさ。信用していながらも心の奥では疑っている。
それが人間だろう。僕は偽善者ではないので正直にそう考えている。
「あの…… お客様? 後ろがつっかえていますので早くお願いします」
うーん? いつものおばちゃんじゃないぞ。少し若い女の人だ。
この人を信じていいのか? すべてを任せていいのか?
そんな疑問が脳裏に浮かぶ。でもここは信じよう。
売り場の人だってそこまで人間腐ってないよね。
「確認お願いします! 」
もう任せるしかない。勝利の女神は意外にも近くにいる。
「では…… 」
緊張の一瞬。一等ならもう思い残すことはない。
はずれていても思い残すことなく逃げてしまおう。
「どうです? 」
「おめでとうございます。当たりです」
あっさり言うからはずれたと思ったが当たりだそう。
もしかして感情がないのか? それとも興味がないのか?
「それで払い戻しはいくらに? 」
なぜか数字が表示されない。これはどう言うことだ?
この重要局面でシステムトラブル発生?
「実は…… 」
どうも言い辛いよう。そうか後ろに人が並んでいるので配慮してくれてるよう。
これはありがたい。と言うことはまさか……
まさかのまさかが起きたのだろうか?
「初めての経験ですか? 」
「ええそれはもう」
「まさかまだナンバーの確認をしてない? 」
「はい。だからあなたに確認を頼んだんです」
「では後日水銀の方に改めてお越しください」
どうやら本当に高額配当らしい。しかもどうも一等っぽい。
「あの今からでは? 」
「本日は一時間もせずに閉まりますので明日以降にお願いします」
そう言うと次の方と言ってもう相手にしてくれなくなった。
本当に立派な人だ。こんな僕のために徹底してくれる。
これは多少包むべきだろうか? それが流儀では?
しかし迷惑になるかもしれない。ここは思いを封じ大人しく帰るとしよう。
続く




