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【完結】すべて予定通りなので、苦しむのはあなた達ですけど?  作者: 逆立ちハムスター


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約束された絶望の夜に、私は密かに歓喜する

轟音とともに、分厚いマホガニーの扉が吹き飛んだ。

木端微塵に砕け散る豪奢な彫刻の破片が、スローモーションのように宙を舞う。そこへ、嵐の夜の冷たい雨風が容赦なく吹き込んできた。

稲妻が夜空を真白に染め上げ、私たちのいる大広間を照らし出す。その閃光のなかに浮かび上がったのは、銀色の重甲冑に身を包んだ、帝国が誇る近衛騎士団の威圧的なシルエットだった。


「逆賊、ウァレリウス公爵とその一族! 皇帝陛下暗殺未遂の容疑により、此度、一族郎党すべてを拘束する! 抵抗する者にはその場での斬り捨てを免ずる!」


氷のように冷たく、そして鋭い声が大広間に響き渡る。

悲鳴を上げて床にへたり込むメイドたち。青ざめた顔で震える執事。

誰もが絶望の淵に立たされたような、息の詰まるような重苦しい空気が空間を支配していた。


――ああっ、たまらない!

私は、震えるメイドの背中を撫でて宥めるふりをしながら、心の中で盛大なスタンディングオベーションを送っていた。


完璧だ。完璧すぎる。

外の雨の強さ、扉が破られるタイミング、近衛騎士団長の怒号の響き、そして雷鳴の落ちる絶妙な間。

どれをとっても、私の大好きな大長編ロマンスファンタジー小説『皇位の簒奪者と偽りの百合』の第一巻、プロローグの描写そのままである。


「馬鹿な……! 我らウァレリウス家が陛下に弓を引くなどと、何かの間違いだ! 私を、私を今すぐ陛下のもとへ連れて行け! 直接申し開きをさせていただく!」


私の父であり、現ウァレリウス公爵であるユリウスが、血走った目で叫んだ。普段は温厚で冷静な父が、髪を振り乱し、必死の形相で騎士たちに詰め寄ろうとする。

その悲痛な叫び声に、私の心臓は別の意味で高鳴った。


(わあ……! ユリウスお父様のあの台詞、生で聞けるなんて! 小説だとここで『老いた獅子が檻の中で吼えるような悲哀があった』って描写されるんだけど、本当にその通りだわ! 声優さんがアフレコしてるみたいに完璧な発声!)


「父上、下がってください! こいつらは話を聞くつもりなどありません。……ルキア、お前は私の後ろへ」


銀色の長剣を引き抜き、私を庇うように前に出たのは、兄のカッシウスだった。

普段は文官として帝国図書館に勤める温厚な兄が、今は殺気を放ち、私と父を守るために死を覚悟した目をしている。彼の震える背中を見て、私は感動のあまり涙が出そうになった。


(カッシウスお兄様、なんて美しい兄弟愛……! でもダメよ、お兄様。ここで騎士団長に斬りかかったら、第二巻でお兄様が活躍する『帝国図書館防衛戦』のフラグが折れちゃうから。ちゃんと大人しく捕まってね!)


私は、表面上はひどく怯えた令嬢の顔を作りながら――実際、前世の私の顔の筋肉はこれほど器用に動かなかったはずだが、今は見事に『悲劇のヒロイン』の表情をトレースできている自信があった――、カッシウスの背中をそっと掴んだ。


「お兄様……ダメです。剣を収めてください。ここで刃を交えれば、それこそ反逆の意思ありと見なされてしまいます」


私が震える声でそう告げると、カッシウスは振り返り、絶望と悲しみに満ちた瞳で私を見た。


「しかし、ルキア! お前はまだ十七になったばかりだ。あのような恐ろしい地下牢に入れられれば、お前の細い体ではとても……ッ!」

「私は大丈夫です。私たちが無実であることは、神様が一番よくご存知のはずですから」


私たちが無実であることも、この後、私が地下牢に入れられることも、そして――最終的に、私がこの世界のヒロインとして、最高のハッピーエンドを迎えることも。


私は、自分が前世で擦り切れるほど読み返し、台詞の一つ一つ、描写の一言一句まで暗記しているこの小説の世界に転生したことに気づいた日から、ずっとこの日を待ちわびていた。

裕福な公爵令嬢としての恵まれた生活は楽しかったけれど、やはり物語の歯車が動き出すこの瞬間の高揚感には敵わない。


周囲の者たちは、本気で一族の滅亡を危惧し、絶望に打ちひしがれている。

無理もない。皇帝暗殺未遂などという大逆罪を被せられれば、普通なら拷問の末にギロチン行きだ。

しかし、私はまったく心配していなかった。むしろ、遊園地の絶叫アトラクションの順番待ちをしているような、ワクワクとした期待感で胸がいっぱいだった。


なぜなら、この『皇位の簒奪者と偽りの百合』という作品は、徹底して「残酷描写・流血描写なし」を貫いた、非常にクリーンなロマンス小説だからだ。

どんなにシリアスで絶望的な展開になろうとも、ヒロインである私に直接的な身体的苦痛が与えられることは絶対にない。

地下牢に入れられても、ネズミに囓られたり、凍えるような寒さに震えたり、鞭で打たれたりすることは「設定上」あり得ないのだ。小説の描写でも『冷たく硬い石の床』という表現はあっても、『ヒロインが身体的な痛みに悶える』ようなグロテスクなシーンは一度たりとも描かれなかった。

だから私は、完全に安全な特等席で、この大迫力のフルダイブ・シリアスドラマを心ゆくまで堪能できるのである。


「美しい兄妹愛だな。だが、反逆者に情けをかけるわけにはいかない」


その時、近衛騎士団が左右に割れ、一人の青年が歩み出てきた。

彼が足を踏み出すたびに、硬質なブーツの音が大広間に響く。

濡れた黄金の髪。氷のように冷たく、しかしどこか憂いを帯びたアメジストの瞳。軍服の上に羽織った漆黒の外套が、彼の長身をより一層際立たせている。


皇太子、アウレリウス。

この物語のヒーローであり、私を地の底に突き落とし、そして後に私を愛し、共に玉座へと歩むことになる男だ。


(きたあああああああっ! アウレリウス殿下! しかも雨濡れ差分!!)


私は内心で絶叫した。

公式の人気投票で、この『プロローグの雨に濡れた非情な殿下』のイラストは、堂々の第一位を獲得した大人気シーンである。それが今、私の目の前で、フルカラーの現実として存在しているのだ。

滴る雨の雫が彼の高い鼻梁を伝い、整った顎のラインから落ちる。その一連の動作のすべてが芸術的だった。

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