第百四十六話 決闘の儀開始
「何度見ても古風な機体よね。これが八体かぁ……」
「決闘の儀で壊れてしまう機体も出るので、予備も含めてこのくらいの数は必要なのだ。ただ……」
「いくら古い機体で、大女王を決める大切な儀式に使うにしても、戦力不足であるアーベルト連合王国が、八体もの機体を無駄にするのはよくない?」
「そういう意見は根強い。改造して、半分でもいいから前線に出したいと言う者もいる」
「ヒルデ、これを改修したとして、異邦者相手に通用するものなの?」
「ちゃんと改造すればゾフ王国の魔晶機人改のようにできますけど、正直なところアーベルト連合王国の技術力では……」
「あまり変わらないか……」
「はい。もしかしたら、飛行パーツ不足も影響しているのでは? 異邦者との戦いで、飛行パーツを装備していない機体なんて使えませんし……」
「今ある機体の飛行パーツの確保と整備で手一杯か」
「飛行パーツの整備で手を抜くと、墜落して最悪操者を失いますからね。飛行パーツ自体も発掘、修理をしないと増えませんし、こんなに古い機体に装着する余裕がないのでしょう」
リンダとクラリッサ、ヒルデが、八体の古い機体について話をしているが、ちょっと辛辣なので、アーベルト連合王国の操者たちが顔をしかめさせている。
そんななか、ついに大女王を決める決闘の儀が始まった。
闘技場の端には参加者が搭乗する古い魔晶機人が並べられているが、あらためてよく見てみるとボロ……古いな……。
「よく言えば骨董品?」
「決闘の儀に使う神聖なものとされていて、このまま維持する決まりなのです」
クラリッサがリンダにこの機体の事情を説明しているが、これを前線に出すのはやめた方がいいと思う。
「性能はともかく、もう少しちやんと整備すればいいのに……。ずっとゾフ王国基準で整備された機体ばかり扱っていたので、陛下がこれに搭乗すると聞くと不安になりますから」
ケイトだけでなく私たち全員が、『この機体、ちゃんと整備されているのか?』と疑問に思っていた。
アーベルト連合王国の技術力が低いのは仕方がないとしても、整備に関してはいくらでもやりようがあったからだ。
「整備で手を抜かれると、新しい機体や武器も使いこなせませんからね」
ヒルデも、八体の古い機体をよく見てから首を横に振った。
整備状況が悪いなんてものじゃないからな。
ゾフ王国製の魔晶機人改や新型火器は高性能ではあるが、しっかりメンテナンスしなければすぐに使えなくなってしまう。
整備に手を抜くのが当たり前の国に供与しても、すぐに使えなくなってしまうので意味がないのだから。
「動かしている間に壊れぬといいの」
「さすがにそこまで酷くは……」
「夫君、その時は無理しないでくださいね」
「壊れたら動かないから大丈夫だと思う」
「あらあら。ゾフ王陛下はまっさらな新品の新型でないと、操者として力を発揮できないようで大変ですね」
突然私に話しかけてきたのは、クラリッサの従姉であるイシュタルだった。
彼女からすると、私は優れた新型機に乗っていたから大きな戦果を挙げられただけでなく、常に最高の整備状態の機体に乗れたから今の評価があると思っているのだろう。
「確かにこの機体は古く、整備状態も決してよくないですが、常に新型でしっかりと整備された機体に乗れるなんて思う方が間違っています」
「決闘の儀で使うんだから、せめてちゃんと整備しようよ」
一朝一夕でアーベルト連合王国の技術を上げるのは難しいにしても、整備体制を整えることはできるはずだ。
機体の整備状態が悪いのを、操者の腕前でなんとかする。
これまでのアーベルト連合王国はそうしてきたようだが、戦争に根性論、精神論を持ち込むのは危険な気がしてならない。
「異邦者との戦いは長く続く。整備体制がしっかりしていないと、のちに一気に崩れると思うけど……」
「アーベルト連合王国の選ばれし操者たちは、いかなる機体でも巧みに使いこなせますから問題ないです」
「(そう思うしかないのですね)」
アリスの呟きには、憐れみの感情も混じっていた。
アーベルト連合王国の操者たちも、ちゃんと整備された機体に乗りたいのだろうがそれを上に言えず、その結果、状態が悪い機体を乗りこなせる操者を評価する空気が広かったのだと思う。
新型機に関しても、手に入らないからこそ『古い機体で戦果をあげてこその操者』という評価に繋がったはずなのだから。
「(本当、こういう精神論って危ないよなぁ……)」
現にアーベルト連合王国は、国土の半分を喪失している。
今ここにいる操者たちは、『なんとかやってきた』じゃなく、『今のところ生き残っている』に過ぎないのだから。
「ゾフ王国の操者たちも、機体が新しかろうと古かろうと、整備状態が悪かろうと、普通に乗りこなせるけどね」
戦っている時に機体が壊れることもあるので、そういう想定でも訓練をしているからだ。
普段は戦果が落ちるし、貴重な操者を失いかねないから、実戦に整備不良の機体なんて出さないけど。
「常に恵まれた環境にいるゾフ王国の操者たちが、古く、整備状態が悪い機体で戦い続けてきたアーベルト連合王国の操者に勝てると思いませんけど」
「(そう思わなきゃ、やってられないのね)」
「……」
リンダの想像は間違っていないと思うけど、本人たちは決してそれを認めないだろうな。
「機体の状態は同じなんだから、実際に戦ってみればわかるさ」
「なにより、アーベルト連合王国の大女王は初代より一人の例外なく女性なのです。他国の、それも男性がなれるはずがりません!」
「それはどうかな? これまでずっと続いていたことが、これからも続く保障はないのだから。現に、アーベルト連合王国建国以来、国土の半分を異邦者に奪われたら前例はあったかな?」
「っ! 私が大女王になれば、すぐにアーベルト連合王国は国土を回復できます!」
私の発言に激怒したイシュタルは、その場から立ち去ってしまった。
「陛下、申し訳ありません」
「いい悪いに関係なく、前例がないことに不安を感じる人は多い。大王の誕生をなんとしてでも阻止したいのだろう」
「サクラメント王国にも、あの手の輩は少なくなかったがの」
「このままでは、ラーベ王国の二の舞ですけどね」
「リリーとケイトの言うとおりだと思う。陛下には大王になっていただかないと」
「エルオール、そろそろ決闘の儀が始まるみたいよ」
決闘の儀の開始時刻になると、闘技場にレイラ大女王が姿を見せた。
彼女の前に決闘の儀に参加する操者たちが横並びとなるが、思っていたよりも人数が少なかった。
「八名、機体の数だけか……」
「今回の決闘の儀は、異邦者から国を守りながらの開催だ。あきらかに技量不足の志願者は事前に落とされている。ゾフ王陛下は例外だが」
隣に立つイシュタルが、事情を教えてくれた。
意外といい人なのかもしれない……いや、私は腕が悪くても選考で落とされずに参加できたって言いたいのか。
彼女らしい物言いだ。
これまでに開催された決闘の儀は、希望者全員が参加できたのか。
だけど今回は国土の防衛もあるので、事前に予選というか選考があった。
シード扱いの私を除くと、残り七名がアーベルト連合王国のトップ七ということになるのか。
「現在アーベルト連合王国は未曾有の国難にある。残念ながら余ではこの状況を打開できなかった。ゆえに責任を取って余は退位する。この状況を打破できる新たな大女王及び大王を余は望む」
レイラ大女王の口から『大王』というワードが出たので、参加者たちの視線が一斉に私に向いた。
わかってはいたことだが、私が優勝すれば私がアーベルト連合王国初の大王になるという事実にあらためて気がついたのだろう。
レイラ大女王の挨拶が終わり、すぐに決闘の儀が始まった。
「一回戦! エルオール殿とサーシャ殿!」
決闘の儀はトーナメント戦で行われるようで、トーナメント表を見ると、イシュタルとは決勝戦まで行かないと対戦できないようだ。
「サーシャは、私の又従妹です」
「親戚多いね」
「エルオール様、機体の状態に気をつけてくださいね」
クラリッサから対戦相手の情報を軽く教わって指定された魔晶機人に乗り込むが、シートも状態がよくないようでお尻が痛い。
決闘の儀に参加している者たちからしたら、あきらかに招かれざる客である私の機体だけイタズラされている可能性をヒルデが抱いてチェックしていたが、『どの機体も等しく状態が悪いです』という結論だった。
異邦者と戦う機体の修理と整備が最優先で、決闘の儀でしか使わない機体の整備には余計に手を抜いているのだろう。
「(もし整備不良で戦っている最中に壊れたら、勝敗に考慮されるのかな? まさかね)」
もし私がそうなった場合、これ幸いとそのまま負け判定が出そうなので、慎重に機体を動かしていく。
「(幸い私は、整備状態が酷い機体の操縦にも慣れているし)」
前世では訓練の一環として、こんな機体で模擬戦闘を沢山こなしていた。
アマギとフィオナのバックアップが完璧なので、実戦でいきなりこんな酷い整備状態の機体に搭乗したことはないけど。
実戦でも、かなり破損した機体を長時間動かすなんて無茶もやっているから、イシュタルたちが思っているほどの優位性はないんだよなぁ。
『いくぞ!』
「ご自由に」
サーシャという少女も、わざわざかかってくる時に声をかけなければいいのに。
「(そのボロを、いきなり全力で動かして大丈夫なのかな?)」
サーシャは模擬剣を構えると、いきなり全力で斬りかかってきた。
このボロい機体をいきなり全力で動かすのは危険……もしそんなことをして負けると大変なので、私は機体に負担をかけない動きに徹する。
『なっ!』
サーシャの突進を、特に機体の関節に極力負担をかけないように最小の動きでかわしつつ、足を使ってサーシャの機体を盛大に転ばせた。
突進の際の勢いが残っていたため、サーシャの機体は盛大に転んでしまう。
その際に、機体からかなり嫌な音がした。
どこかの関節か人工筋肉がダメージを受けたはずだ。
『まだだ! あれ?』
「やっぱり……」
ろくすっぽ整備していなかったうえに、イシュタルが言うほどアーベルト連合王国は機体を丁寧に扱っていない。
そのツケが今やってきたようで、サーシャの機体は膝のダメージが限界を迎えて立ち上がれずにいた。
「右膝の関節部分が完全に壊れたみたいだな。起き上がれる?」
『クソッ! 右足が……。ああっ!』
サーシャは懸命に立ち上がろうとするが、やはり完全に右足の膝が壊れてしまったようだ。
立ちあがることに失敗し、再び派手に転倒してしまった。
「じゃあ、悪いけど……」
私は機体に装備されている模造剣を抜き、サーシャの機体の眼前に突きつけた。
『……参りましたした』
私はサーシャの攻撃を避けただけなのに、勝利してしまった。
盛り上がらないことこのうえないが、元々状態が良くない機体を全力で動かせばこうなっても仕方がない。




