第百四十五話 骨董品
「ようこそおいでくださった。婿殿……いや、ゾフ王陛下」
「お初にお目にかかります。お会いできて光栄です。レイラ大女王」
「ご覧のとおり、現在のアーベルト連合王国は異邦者によって多くの土地を奪われ、死傷者と国外に逃げ出す者たちも多い。財政的にも厳しく、大したおもてなしもできぬが……」
「今はどの国も戦時です。お構いなく。もうすぐ決闘の儀が行われるので、私は楽しみにしていますよ」
「我が姪クラリッサの夫であるゾフ王陛下には、決闘の儀に参加する資格があります。これまでの戦果に相応しい活躍を期待しています」
「お任せください(あれ? 微妙にプレッシャーをかけられた?)」
クラリッサと国境付近での結婚式を終えた私たち一行は中王都の王城に到着し、玉座の間でレイラ大女王との謁見を果たした。
レイラ大女王は四十歳を超えているようには見えないほど若々しく、所謂『美魔女』といった風貌の人だった。
異邦者の襲来前に夫を病で亡くしており、今は独り身だそうだ。
最初は異邦者に対し一方的にやられてしまったが、どうにか踏み留まっており、為政者としてはかなり優秀な人なんだと思う。
惜しむらくは、異邦者に対抗できる高性能な魔晶機人を用意できなかったことだろう。
もっともそれは、他の国も同じなのだけど。
それに加えてアーベルト連合王国の場合、新型の魔晶機人を用意できなかったのは代々続く鎖国政策のせいでもあり、彼女にはどうにもできなかった点も考慮しなければいけないだろう。
だからアーベルト連合王国には、新しい政策を実現してくれる新女王、及び王が必要なのだと思う。
「ゾフ王陛下のこれまでの活躍については、このアーベルト連合王国にまで聞こえております。決闘の儀では、大活躍ことは確実でしょう」
「頑張ります(やっぱり変なプレッシャーをかけてくるな。家臣たちの手前か?)」
たとえ王とはいえ、余所者を国内に迎え入れ、決闘の儀に参加させるのだ。
保守的な家臣たちの反発が大きく、私が大王になってくれないと困るということか。
実際、玉座の間に集まった貴族たち……ほぼ全員が女性……から驚きの声があがる。
だがルール違反ではないので、反対の声をあげないだけだ。
「(この期に及んで、まだ初代大女王が決めた鎖国政策に拘るのか……)」
どの世界でも、古くからの決まりを変えることに抵抗がある人は少なくないということだ。
「ところでクラリッサ、そなたは決闘の儀に参加しないと聞いたが……」
「はい。私の夫が参加しますので。一つの家から二人参加するのは不公平でしょうし……」
「それもそうか。では、決闘の儀が始まるまでしばしの休憩を」
レイラ大女王との謁見を終えた私たちは、王城の隣にある迎賓館へと向かった。
決闘の儀が終わるまでは、ここが生活の拠点となる。
「アーベルト連合王国にも、迎賓館なんてあったのね」
「鎖国しているが、定期的に外交使節は訪れるので、当然迎賓館はあるさ」
「それもそうね」
部屋の豪華な調度品を確認しながら、リンダはクラリッサの説明に納得したようだ。
今の戦況だと、この迎賓館の維持も大変そうだけど。
「で、決闘の儀なんだけど、私はなにに搭乗すればいいのかな?」
「決闘の儀でのみで使われる魔晶機人があるので、全員がそれに搭乗して戦います。機体の持ち込みはできません。純粋に操縦技量のみを比べるので」
「機体性能に差があっては駄目か」
「はい」
純粋に腕を競うものなので、搭乗する魔晶機人は、王将地下の競技場内に安置された専用の魔晶機人を使うのだと、クラリッサが教えてくれた。
「つまりは旧式だと?」
「ええ、今、異邦者たちと戦っている機体よりもさらに古く、性能も悪いですね。見てみますか?」
「見たい。クラリッサ、妾も案内してくれ」
「私も見たいです!」
リリーとヒルデは、長年鎖国を続けているアーベルト連合王国の古い魔晶機人に強い興味があるらしい。
私も事前に自分が搭乗する機体を見ておきたいので、みんなで決闘の儀で使う魔晶機人を見に行くことに。
クラリッサの案内で、王城の地下にある競技場へと向かうと、そこには自分の機体を持ち込んで模擬戦をしている操者たちがいた。
「私の従姉妹や遠縁の者たちで、決闘の儀に参加する予定です」
「まあまあかの(クラリッサに比べると、かなり劣るが……)」
リリーの操者評は、とても正確だ。
クラリッサは留学や実戦経験のおかげでだいぶ腕を上げたが、彼女の従姉妹たちはクラリッサほど腕を上げられなかった、ということか。
「エルオール様、かなりの骨董品ですよ、これ」
ヒルデが、決闘の儀で使う魔晶機人を見つけた。
ワクワクしながらあちこち見ているので、マニアが喜ぶ骨董品を見つけたのと同じ感覚なのかもしれない。
「どれどれ……」
どうせ私たちは機体を持ち込んでいないので、ここで練習できない。
早速安置された機体を見に行くが、八体置かれた魔晶機人は、グラック家で使っていた魔晶機人よりもさらに古いように見えた。
「エルオール、大丈夫か?」
「みんなこの古い機体に乗るのなら、条件は同じだ。問題ないさ」
機体性能の差がないのなら、技量で勝つ。
ただそれだけのことだと、リリーの問いに答えた。
「しかし、古い機体ですわねぇ」
「かなり古い年代の地層から出土したと聞きている」
「納得ですわ」
ケイトも、博物館に来たような感覚で八体の古い魔晶機人を眺めていると、そこに自主訓練をしていた、クラリッサたちの従姉妹たちが近づいてきた。
「性能のいい新型機ばかりに乗っているゾフ王陛下では、この古い機体をちゃんと動かせないのでは? 私たちは古い機体に慣れていますから」
突然、挑発的な言葉をかけられてしまった。
クラリッサの従姉妹たちは、よほど自分の技量に自信があるようだ。
「イシュタル、陛下に対してその口の利き方は無礼だろう!」
クラリッサが挑発的な言葉を吐いた女性操者を叱るが、やはりなんとなく顔が似ているな。
「決闘の儀の参加者かな?」
「陛下、私の従姉であるイシュタルです」
「古い機体は扱いが難しい。より優れた操縦技術が必要となるが、新型機ばかりに乗っているゾフ王陛下が戸惑わないか心配だったのですよ」
「心配してくれてありがとう。だけどあなたも、本番まで古い機体に乗れないのは同じだ」
八体の古い魔晶機人は決闘の儀でしか使われないし、事前にこれで練習するのも禁止だそうだ。
神聖なものとされる決闘の儀で、万が一にも不正を防ぐためなのと、どうせこの機体で異邦者と戦っても戦果を出せないからだろう。
見た目だけで、古くて低性能なのがわかるのだから。
「この古臭いのがいいんですよねぇ」
「新しい機体もいいが、こういう古い機体も味があっていいのぉ。欲しくなってきた」
ヒルデとリリーは、共にマニア的な性格を有しているようだ。
仲良く一緒に、決闘の儀で使う古い魔晶機人について熱く語っているのだから。
「(クラリッサの従妹のあの言いようは、アーベルト連合王国の腕前偏重主義の現れだな)」
「(私は命がかかっているから、性能がいい機体の方がいいけど)」
腕のいい操者が評価されるのは悪いことではないが、アーベルト連合王国の場合、古い機体しか用意できないので、腕前を重視するしかないように見えなくもないのだ。
その結果、常に新しい機体で戦う私たちに対し批判的というか、古い機体で頑張っている私たちの方が凄いと思ってしまう。
「(これは下手をしなくても、精神論に繋がるよなぁ……)」
「(よくない傾向ですね。アーベルト連合王国の大女王になるのであれば、戦略的に物事を考える必要があるのですから)」
艦隊を預かることが多いアリスも、クラリッサの従姉の言動を危ういと思っているようだ。
だか彼女がそうなってしまったのも、アーベルト連合王国が高性能な新型機を用意できなかったからだ。
「(魔晶機人の操縦が下手でも、新しい魔結晶機人なり、高性能な武器、弾薬を用意できる人が王になった方がいいんだけど……)」
伝統とはいえ、優れた操者が王になる仕組みというのは、平時ならともかく戦時には向かない?
いや、これまでの戦い方なら特に問題なかったのか。
せいぜい数機〜数十機の魔晶機人が、領地や利権争いで短期間戦うくらいの戦争や紛争なら、腕のいい操者がいた方が有利なのだから。
「古い機体でゾフ王陛下がどう戦うのか。楽しみにしています」
「別に、操縦方式が違うわけではないのでしょう?」
「ええ……」
「じゃあ、古い機体だろうと新しい機体だろと、そんなに変わらないかな。対決を楽しみにしています」
どうやらイシュタルたちは、私が高性能な新型機ばかりに乗っているから戦果を挙げていて、腕前自体は自分たちの方が上だと思っているようだ。
「(そこを客観的に理解できていない時点で、エルオールに勝てぬと思うが)」
リリーは優れた操者だからこそ、少し彼女たちの訓練を見ただけで、イシュタルたちの技量を見抜いてしまったようだ。
「(別に、下手な操者が高性能な新型機に乗っても、戦果を挙げていれば問題ないんだけど)」
「(なかなか、そうは考えられないんじゃない? それは、操者でなく王の視線だから)」
異邦者と総力戦を戦っていると、腕のいい操者を揃えるのが難しいのであれば、性能のいい機体を揃えるた方が戦略的だと考えてしまう私は、かなり異質な考えをしているように見えるのか。
「(それを、私が知る限り一番優れた操者であるエルオール様が口にするのが一番の驚きですけど)」
ケイトはそう言うが、これは前世で総力戦的な戦争に明け暮れていた影響かもしれない。
「……帰るか」
決闘の儀が行われる競技場は、気合を入れて訓練をしているイシュタルたちが独占しているから、ゾフに戻って外で訓練をすることにしよう。
「少し訓練してから、中王都観光といこう」
「せっかくの新婚旅行だものね。しっかり思い出を作らないと」
「エルオール、お土産はなにがいいかの? 今回はお留守番の、ユズハとライムに頼まれておってな」
「リリー、お土産は帰る直前に買った方がいいんですよ。荷物になりますし」
「確かに、ヒルデの言うとおりじゃ!」
「夫君、そろそろ行きましょうか」
「そうだね」
私たちは競技場をあとにしたが、イシュタルたちは気合を入れて訓練を続けていた。
私も油断して負けないようにしないと。




