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第8話 南へ向かう

荷物をまとめ、宿を出た。


「それでは、これから最初の目的地であるジュノーラへ向かいましょう」

ベネがそう言う。


「……なあ、ベネさん」

「如何なさいましたか、ジェミロンさん」


ジェミロンは頭を掻く。

「ジュノーラは、歩いて4日もかかるんだ。今日は何処まで行くんだと思ってさ」


それに対してナナミは驚いた。

「4日もかかるんだ!?」


「それでしたら」

ベネは懐から地図を取り出す。


「今日はモネンまで行きましょう。歩いていく距離でしたら、ここまでが一番よいところでしょう」


モネンと言われる街はゼノラから南南西の位置、距離にして約3分の1のところにあるみたいだ。

それには、ジェミロンも納得をしてくれたようだ。


―――こうして、一行はゼノラを後にした。


▪▪▪


街を出ると、草原地帯になった。


(見慣れない風景って、なんか斬新だな……)


そう見渡しながら、ナナミはそう思う。

最初は不安だらけだったけど、二人が居れば安心だし。


「さっきから、やけに眼を輝かせているな」

ふとジェミロンが言った。


「え、そうかな」

「そうそう。……まあ、住んでる所が違えばそう思うのも分かるけどな」


(……そう言えば)


ナナミは買って貰ったカバンの中を漁る。

それから一枚の写真を取り出した。


「あら、何ですの?」

ベネが言ってきて、ジェミロンと共に顔を覗き込む。


「これ、御守にって持ってた風景写真です」


地元の棚田を写した写真だ。

ちょうどこっちの世界に引き込まれた時に着ていた服に、入れていたのだ。


「まあ、そうなんですね。綺麗な風景ですわ」

ベネが言う。


「その、タナダってなんだ?」

ジェミロンが聞いてくる。


「棚田ってね、お米を作る田んぼを斜面に段々としているのを言うんだよ」

「へえ、そうなんだ。でも何でそれを御守に?」


ナナミは写真に眼を落とす。

「私のお祖父ちゃんが言っていたの、『日本の風景には、神々が宿っている』って。それで、良い感じの風景を見つけたから、写真にして御守にしているの」


「『神々が宿る』、か。そういや、ジャン爺も似たような事を言っていたな」

「そうなの?」


ナナミがそう言うと、ジェミロンは頷いた。

「『山々や川、海には神様が宿っておるから蔑ろにするな』、とさ」


「そう言う考えには、世界は関係無いのかもしれませんね」


そうベネが言った。

―――確かに、同じ考えを持っていてもおかしくはないのかな。


▪▪▪


歩き始めてから、数時間。

途中で休憩を挟みながらも、中間宿 (街間にある宿街) に着いた。


中間宿と言われてもピンとこなかったが、日本みたいな車社会ではないから道中にそういう場所がないといけないのは何となく分かった。


「まだ日が落ちるまでに時間はありますし、少し腹ごしらえをしてから出ましょう」

ベネが言うと、二人は頷く。


寄った中間宿の中で、唯一である食堂に入ろうとした時だ。

中から怒鳴り声が聞こえてきた。


「お、お客さん、勘弁して貰えますか……!」

「んだと、テメェ!俺を何様だと思っている!」


三人が慌てて入ると、ガラの悪そうな若者の二人組が店主に襲いかかろうとしている。


「……危ない!」

ナナミが、手を出そうとした一人を止める。


「何だァ、ネエちゃん。俺たちの邪魔はすんじゃねえよ」

もう一人の方がいう。


「お前ら、表出ろ。話はそれからだぞ」

ジェミロンが言う。


「……お前、ジェミロンか!」

ナナミに掴まれた人が、そう言う。


「おいネオ、ジェミロンじゃタチが(わり)ィ。そそくさと出よう!」

そう言い残して、二人は食堂を出ていった。


▫▫▫


食堂の店主に話を聞くと、二人組の若者にマナーの注意をしたところ形相を変えて騒ぎ始めたという。


「……でも、二人組の片割れはジェミロンさんを知っていたようですけど」


ベネが言う。

それは、ナナミもちょうど思っていたところだ。


「ああ、アイツはかつての友さ。最近じゃ、悪いことばっかりしているから度々注意をしてんだがな」

そうジェミロンが言う。


(それにしては、浮かない顔をしているな)

表情を見て、ナナミは思った。

……だが、今は多分話して貰えないだろう。


「ま、まあ……アイツら去った訳だし、ご飯でも食べようか」

ジェミロンが言うと、二人は頷いた。

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