ねえあたし知ってるよ
中庭の空気は、まだ鉄の匂いを残していた。
桐生と明星の間合いは再び開き、誰も踏み込めない均衡が続く。
その外側で、俺たちは息を潜めていた。
「……あの二人、まだやるのか」
誰かが小さく呟く。
「やるだろうな」
神代は視線を外さない。
「どちらも“引く理由”がない」
確かにそうだ。
桐生は勝てると踏んでいる。
明星は――興味を持っている。
それだけで、続く理由になる。
そのとき。
――ピンポンパンポーン。
唐突に、アナウンスが割り込んだ。
「特別放送を開始します」
「……?」
全員の視線が、スピーカーへ向く。
「本ゲームの目的について、補足説明を行います」
空気が変わる。
嫌な予感がした。
「本ゲームは、市の財政再建および人材選抜を目的として実施されています」
「……は?」
誰かが声を漏らした。
「……人材、選抜……?」
俺の中で、何かが軋む。
「本市は深刻な財政難に直面しており、従来の手法では解決が困難と判断されました」
淡々と続く声。
「そのため、本ゲームにより“優秀な個体”を選別し、将来的な国家資源として活用します」
「……ふざけてる」
思わず声が漏れた。
人を――
クラスメイトを、ただの“資源”として扱っている。
「なお、本計画は国家承認済みです」
その一言で、背筋が冷えた。
「国内外の関係機関が観測を行っており、映像は一部を除き非公開で取引されています」
「……取引?」
「世界各国の首脳、および上位層が本ゲームを視聴しています」
沈黙。
理解が、追いつかない。
俺たちは今――
見世物になっている。
画面が並ぶ。
巨大な会議室。
無数のモニターに、同じ映像。
中学生たちの殺し合い。
その一つに、桐生と明星の戦闘が映し出されている。
「……興味深いな」
低い声。
アメリカ大統領、トランポ。
椅子に深く腰掛け、腕を組んでいる。
「この“無敵の人”とかいうやつ」
画面を指す。
「規格外だ。だが――扱いにくい」
「同意する」
別の声。
ロシアのぺーチン大統領。
無表情で映像を見つめている。
「制御不能な駒は、戦力としては不安定だ」
「だが、破壊力はある」
「短期決戦向きだな」
淡々とした分析。
「こちらの少年の方が興味深い」
フランスのマカロン大統領が、別の画面を指す。
そこには、一人の男子生徒――雨宮恒一が映っていた。
「目立たない。だが、全体を見ている」
「……ああいうタイプが最後まで残る」
トランポが頷く。
「アメリカ的にはイマイチだな。大胆さが足りない。だが、中々しぶとそうだ。」
「いや」
ぺーチンが否定する。
「最終的に勝つのは、あの男だ」
視線は、神代へ。
「感情を排した判断。無駄がない」
「だが、対人能力が弱い」
マカロンが指摘する。
「集団を動かせなければ、票で負ける」
「……ならば」
トランポが笑う。
「“票を持つ者”と組めばいい」
「あるいは――」
ぺーチンの視線が、再び明星へ向く。
「“無敵”を使うか」
「それはリスクが高い」
マカロンが首を振る。
「制御できない」
「だが、成功すれば最短で終わる」
短い沈黙。
そして。
「結論として」
トランポが言う。
「現時点で最も“優秀”なのは――」
「……まだ判断が早い」
マカロンが遮る。
「ゲームは始まったばかりだ」
「同意する」
ぺーチンが頷く。
「だが、一つだけ確実なことがある」
全員の視線が、同じ画面へ集まる。
そこには――
再び距離を詰める、桐生と明星。
「この中に、“使える人材”がいる」
「……クソが」
誰かが吐き捨てた。
アナウンスは終わっている。
でも、その内容は、消えない。
「俺たち……見られてるのかよ……」
「しかも、商品みたいに……」
ざわめきが広がる。
怒り、恐怖、混乱。
全部が混ざっている。
「……」
俺は、何も言えなかった。
ただ。
はっきりと理解した。
このゲームは――
終わらせても、終わらない。
勝っても。
生き残っても。
その先で、また何かに“使われる”。
「……関係ない」
神代が静かに言った。
「?」
「今考えることじゃない」
冷たい声。
「まずは、生き残る」
「……」
「それ以外は、全部後だ」
正論だ。
でも。
「……ああ」
俺は頷いた。
今は――
ここで死なないこと。
それだけに集中するしかない。
「……♪」
そのとき。
また、あの鼻歌。
視線を向ける。
明星が、ゆっくりと構え直していた。
さっきの放送なんて、どうでもいいみたいに。
「……続き、やりましょうか」
桐生が笑う。
「望むところだ」
再び、衝突。
金属音が響く。
俺はその光景を見ながら、強く思った。
この中で“選ばれる”のは――
誰だ。




