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境界の双子〜二つの雷鳴が響くとき〜  作者: ユーディ
第二章 黄昏の再会、砕かれた誓い
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第二章6 『月下の密会』

過酷な運命の歯車が、月明かりの下で最悪の形となって噛み合います。

両陣営の思惑が交錯する中、姉妹の対話が決裂し、最大の悲劇が訪れる

1. 抜け落ちた王将


「……何だと? 皇女殿下とカイル殿の姿がないだと!?」

昼国の最前線防衛拠点『暁の砦』。

深夜の作戦会議室に、近衛騎士団長ジーグの怒号が響き渡った。巨大な円卓を囲んでいた将校たちの顔から、一斉に血の気が引く。

「は、はい! 治療室を見張っていた衛兵が昏倒させられており……アリア殿の証言によれば、お二人は『この戦争を終わらせる』と言い残し、密かに砦を抜け出されたと……!」

報告に駆け込んできた前衛隊長レオンハルトは、残された左目を大きく見開いて震えていた。

「馬鹿な……! あの満身創痍の体で、護衛もつけずに夜国の陣へ向かったというのか! あの甘すぎるお姫様は、自分がどれほど危険な真似をしているのか理解していないのか!」

ジーグは分厚いオーク材の机を拳で叩き割った。

「光帝ソル陛下からの勅命を忘れたか! 『シオンの首を獲れ。さもなくばカイルを処刑する』だぞ! 殿下はあの修羅と対話し、あわよくば救済しようなどという狂った夢想に囚われているのだ!」

「将軍! いかがなさいますか!? 追撃部隊を編成しますか!?」

レオンハルトの問いに、ジーグはギリッと奥歯を噛み鳴らした。

「……大軍を動かせば、夜国の監視網に引っかかる。少数の精鋭のみを連れて出撃する。レオンハルト、お前と、結界魔術師長ルミス、そして動ける重装兵を十名集めろ! 何としても殿下を連れ戻す。……万が一、殿下が敵将に情けをかけ、光の国の威信を傷つけるような振る舞いを見せた場合は……」

ジーグの眼光が、冷酷な光を帯びる。

「……陛下の命により、私がこの手で『神穿鴉』を討つ。カイル殿ごと貫いてでもな」

一方、黄昏時の西側、夜国陣営。

こちらもまた、異常な事態に密かに揺れていた。

「……神穿鴉様が、お一人で天幕を出られただと?」

副長ゼッカは、天幕の入り口を塞ぐ鉄鬼ドレッドを見上げながら、不快そうに顔を歪めた。

「護衛のガルムも、オーガも連れずにか。……一体どこへ向かわれた」

「ヒヒッ。ゼッカ先生、ご心配には及びませんよ」

ゼッカの足元の影から、這うように姿を現したのは影潜りカエレンだった。彼は舌なめずりをしながら、ニヤニヤと笑っている。

「我らが姫君は、光のお姫様との『逢引き』に向かわれたのですよ。緩衝地帯の古代闘技場コロッセオへね」

「ほう……? 昼国の第一皇女と、単独で接触を?」

「ええ。光の姫さんは、軍隊を置いて、死に損ないの騎士一人だけを連れてやってきました。……どうします? 俺たちが裏から手を回して、光の姫さんの背中から毒矢でも撃ち込みましょうか?」

カエレンの提案に、毒娘ニムが暗闇から顔を出し、「賛成! 騎士の男には、私の新しい神経毒を試したいわ!」と無邪気に手を挙げた。

だが、ゼッカは冷たく首を横に振った。

「ならん。神穿鴉様は『これは私とあの子の遊びだ』と仰った。我々が勝手に手出しをすれば、あの御方は味方であろうと容赦なく日蝕の雷で消し飛ばすだろう」

ゼッカは義眼を不気味に光らせ、夜の闇を見つめた。

「だが、万が一の事態に備え、我々も極秘裏に闘技場を包囲する。カエレン、ニム、そして呪詛師マラディを呼べ。……昼国のネズミどもが嗅ぎ回っているやもしれん。神穿鴉様の『お遊戯』を邪魔する奴らが現れたら、音もなく始末しろ」

両陣営の思惑が、月下の闘技場へ向けて、静かに、そして凶悪に収束し始めていた。


2. 闘技場コロッセオの対峙


蒼い月明かりが、崩れかけた古代闘技場の石柱を青白く照らし出していた。

かつて平和な時代に、光と闇の民が剣を交え、互いの力を称え合ったという神聖な遺跡。その中央で、十五年の時を経て、対極の運命を辿った双子の姉妹が向かい合っていた。

「……お姉ちゃん。話しに来たの」

黄金の鎧を身に纏うリオナは、武器を持たず、両手を広げて立っていた。

彼女の背後には、右半身の激痛を『太光』の魔力で強引に抑え込んでいる聖騎士カイルが、いつでも剣を抜ける体勢で控えている。

対する夜国の死神、シオン。

漆黒の軍服。顔の半分を覆う鉄仮面。左半身は精霊獣と融合し、黒い獣毛と鋭利な鉤爪に覆われている。彼女の影からは、巨大な精霊獣ハクが実体化し、三つの目でリオナを威嚇するようにグルルと喉を鳴らしていた。

「……話しに来た、だと?」

シオンの仮面の奥から響く声は、絶対零度の冷気を帯びていた。

「エルム村の惨状を見たはずよ。私は三百人の丸腰の民を、虫けらのように消し飛ばした。お前が守るべき昼国の民をね。……それなのに、まだそんな甘い言葉を吐くの? 『お姉ちゃん』などという、反吐が出る呼称を使って」

シオンの左腕から、チリチリと紫金の雷が漏れ出す。

「私を殺しに来たのではないのなら、今すぐ立ち去りなさい。お前のその綺麗事を聞いていると、ハクの腹の虫が鳴って仕方がないのよ」

だが、リオナは一歩も引かなかった。

「逃げない。……トーマスから、全部聞いたわ。バルザーク公爵邸での出来事。お母様のこと。……あなたが、どんな地獄を一人で歩いてきたのか」

その言葉が出た瞬間、シオンの周囲の空気がピシリと凍りついた。

ハクの唸り声がピタリと止まり、シオンの獣の瞳孔が、極限まで細く収縮する。

「……誰に、聞いたと?」

「お姉ちゃんは、私を恨んでいるんでしょう。私が光の国で愛されて、幸せに笑っている間……あなたは暗い塔に閉じ込められ、お父様から暴力を受け、お母様を殺された。……あなたが不浄だと迫害されたのは、私の中にある『闇』を、あなたが全部背負ってくれたから……!」

リオナの瞳から、大粒の涙が溢れ出した。

「ごめんなさい……気づけなくて、ごめんなさい! あなたが『神穿鴉』なんて恐ろしい名前で呼ばれるまで、血と泥に塗れて戦っていたのに……私は、何も知らずに……!」

リオナは、石畳の床に膝をつき、シオンに向かって深く頭を下げた。

「だから、もう終わりにしよう。私があなたの罪を半分背負う。光の国があなたを裁くなら、私が一緒に裁きを受ける。だから……もう、一人で暗い場所にいないで、お姉ちゃん……!」

それは、リオナの魂からの叫びだった。

自己犠牲すら厭わない、純度百パーセントの『愛』と『救済』の申し出。

だが。

その言葉は、シオンの心に届くどころか、彼女の精神の最も脆く、最も醜い部分を、鋭利な刃物で滅多刺しにする行為に他ならなかった。

「……あ、はは……」

シオンの喉の奥から、乾いた笑い声が漏れた。

「あははははは! アハハハハハハハハッ!!」

狂気を孕んだ哄笑が、蒼い闘技場に木霊する。

シオンは自らの顔を覆い、腹を抱えて笑い、そして――次の瞬間、その笑い声をピタリと止め、地獄の底から這い出た怨霊のような声で囁いた。

「……傲慢ね」

ドズォォォォン!!

シオンの足元の石畳が、爆発的な魔力によってクレーター状に陥没した。

「罪を半分背負う? 一緒に裁きを受ける? ……ふざけるな。お前に私の何がわかる!!」

シオンの全身から、日蝕の魔力が黒い竜巻となって噴き上がる。

「私はお前のために地獄に落ちたわけじゃない! 私は私が弱かったから、母を殺され、狂った父をこの手で殺した! 私が人を殺すのは、夜の国の理に従っているだけだ! なのに、お前は……お前は!!」

シオンの鉄仮面の奥、右目から、一筋の血の涙が流れ落ちた。

「なぜ、私を真っ向から否定してくれないの! なぜ、この汚れた私を『悪』だと罵って、その正義の剣で貫いてくれないの! お前が私を『可哀想な姉』として同情するたびに……私のこの惨めな十五年間が、ただの滑稽な喜劇に成り下がるのよ!!」

シオンが本当に欲していたのは、救済ではない。

完璧な光の象徴である妹からの、絶対的な「罰」と「断罪」だったのだ。

自分が妹の身代わりになったという事実すら、彼女にとっては呪いだった。妹が自分を哀れむこと。それは、シオンの歩んできた修羅の道を否定し、彼女の存在意義を根底から破壊する、最も残酷な『光の暴力』であった。

「もういい……。お前のその吐き気のする光、私がこの手で完全に消し去ってあげる」

シオンが獣化した左腕を振り上げる。

ハクが咆哮と共に巨大化し、リオナに向かって漆黒の顎門あぎとを開いた。

「来ます、リオナ様!」

カイルが瞬時に前に飛び出し、聖剣『ソル・ブレイカー』(リオナから預かったもの)を構え、『太光』の防壁を展開した。

「言葉など不要! 絶望の淵で、私が味わった孤独を呪いながら死ねェッ!!」

対話の道は、完全に閉ざされた。

血を分けた姉妹の、殺意なき妹と殺意に狂う姉の、悲しき死闘が幕を開けた。


3. 神殺しの紫電、激突する双極


「ハァァァァッ!!」

シオンの踏み込みは、物理法則を無視した神速だった。

一瞬でカイルの目の前に転移した彼女は、魔剣『雷月』を上段から振り下ろす。

ガァァァァン!!

カイルが聖剣で受け止めるが、その衝撃だけで闘技場の石柱が数本吹き飛んだ。

「ぐぅぅっ……! 重い……ッ!」

カイルの靴底が石畳を削りながら後退する。シオンの剣撃には、彼女自身の魔力だけでなく、背後のハクが捕食した無数の魂の重さが乗っているのだ。

「そこを退け、騎士! 私の用があるのはその女だけだ!」

「退きません! 貴女がどれほど彼女を拒絶しようと、彼女の愛を傷つけることは僕が許さない!」

カイルは右半身の火傷の激痛を無視し、魔力回路を限界まで強制起動させた。

『太光・白夜の陣』

カイルの全身から眩いばかりの光の刃が無数に放たれ、シオンとハクを包み込む。

「小賢しい光ね……ハク、喰らいなさい!」

ハクが影を広げ、カイルの光刃を次々と飲み込んでいく。だが、カイルの狙いは攻撃ではなかった。光刃は目眩ましであり、彼はその隙にシオンの懐に潜り込み、柄当てによる物理的な打撃をシオンの鉄仮面に叩き込んだ。

ガキンッ!!

シオンの仮面にヒビが入り、彼女の動きが一瞬だけ止まる。

「リオナ様! 剣を抜いてください! 今の彼女には、言葉は届きません! 貴女の光で、彼女の魔力を相殺するしかない!」

カイルが叫ぶが、リオナは震える手で腰の短剣を握りしめたまま、足がすくんで動けなかった。

「だめ……私には、お姉ちゃんを斬れない……!」

「……騎士風情が、私の顔に傷をつけたわね」

シオンの仮面の奥から、地獄のような殺気が膨れ上がった。

「ハク。……遊びは終わりよ。神のいかずちを見せてあげる」

シオンの獣化した左腕と、ハクの巨体がドロドロに溶け合い、一つに融合し始めた。

空に浮かぶ蒼い月が、不気味な紫色に染まり上がる。

シオンの全身に呪いの刺青が浮かび上がり、彼女の魔力は、第一皇女軍を蹂躙した時のそれを遥かに凌駕する、まさに「神を穿つ」次元へと到達した。

「消え去れ。――『紫雷・神穿しらい・かみうち』!!」

シオンの魔剣から放たれたのは、線ではない。

闘技場全体を飲み込むような、巨大な「紫金の閃光の波」だった。

触れたものを灰にするのではなく、存在したという因果そのものを消滅させる、夜国の最大奥義。

その標的は、立ちすくむリオナの心臓へ向けて真っ直ぐに放たれた。

「お姉ちゃん……!」

リオナは死を悟り、ギュッと目を閉じた。

だが。

その圧倒的な死の波の前に、純白のマントが翻った。

「――誓ったはずだ。君の光は、絶対に消させないと」

カイル・ヴァン・アストラル。

彼は、自身の命を燃やし尽くして生み出す究極の光の盾『絶対守護・聖光の神盾イージス・オブ・アストラル』を展開し、シオンの放った『神穿』の雷の真正面に、身を挺して立ち塞がったのだ。


4. 黄金の盾、散る


ズガァァァァァァァァァァァァッ!!!

光と闇の極大魔力が衝突し、闘技場の大地が天に向かって隆起した。

轟音と閃光が吹き荒れる中、カイルの展開した光の盾が、紫金の雷と凄まじい軋轢を生む。

「ぐ、ああああああああっ!!」

カイルの口から、大量の血が噴き出した。

神穿の雷は、盾をすり抜け、彼の肉体を直接侵食していく。右半身の火傷が呪いによって黒く炭化し、光の魔力を生み出していた回路が次々と焼き切れていく。

「退け! 退きなさい、騎士! お前が死ぬ理由はない!」

シオンが叫ぶ。彼女の目的はリオナの光を消すことであり、この見ず知らずの騎士の命を奪うことではなかった。シオンの心の中の「人間」の部分が、無関係な者の尊い自己犠牲に動揺していた。

「……退く、ものか……!」

カイルは、両足の骨が砕ける音を聞きながらも、決して膝を突かなかった。

「彼女の……リオナ様の流す涙が……どれほど温かいか、貴女は知らないだろう……! その光を……愛を否定する貴女の闇など……僕が、全部引き受けてやる……!!」

カイルの命の炎が、最後の輝きを放つ。

彼はシオンの雷を真正面から受け止めながら、右手に握った聖剣を、渾身の力でシオンへと投擲した。

「――っ!?」

光の矢となった聖剣は、雷の波を掻き分け、シオンの顔面を直撃した。

ガシャァァァン!!

シオンの顔の半分を覆っていた鉄の仮面が、完全に砕け散った。

同時に、雷の衝突による大爆発が闘技場を包み込み、三人はそれぞれ吹き飛ばされた。

煙が晴れた月下。

「カイル……? カイル!!」

リオナは、石畳の上に倒れ伏したカイルの元へ這いずって向かった。

カイルの体は、もはや見る影もなかった。

白銀の鎧は溶け落ち、右半身は炭化し、左胸には致命的な呪いの穴が空いている。彼の生命力は、風の前の灯火のように、今にも消えようとしていた。

「いや……いやぁぁっ! カイル、目を開けて! アリア! 誰か、誰か治癒魔法を!!」

リオナがカイルを抱きしめ、自身の黄金の魔力を必死に注ぎ込む。だが、神穿の呪いを受けた肉体は、光の魔法をすり抜けてしまう。

「……リオ、ナ様……」

カイルは、血に濡れた指で、そっとリオナの頬に触れた。

「泣かないで……ください。……僕は、貴女の騎士として……誓いを、守れ……た……?」

「守れたよ! 守ってくれた! だから死なないで! 私を一人にしないで……カイルゥゥッ!!」

カイルは、霞む視界の中で、愛する人の顔をしっかりと目に焼き付けた。

「……貴女の、その美しい光で……お姉様を……救って、あげて……」

ふっと、カイルの指から力が抜け、地面に滑り落ちた。

その瞳から光が消え、彼を包んでいた『太光』の魔力が、夜風に吹かれてサラサラと金色の粒子となって天へ昇っていく。

昼国最強の聖騎士であり、リオナがすべてを捧げて愛した男、カイル・ヴァン・アストラル。

彼は、愛する女の光を守り抜くという「黄金の誓い」を完遂し、静かに息を引き取った。

「ああ……あああああああああああっ!!!」

リオナの慟哭が、夜の荒野に悲痛な音となって響き渡る。

愛する人を失った絶望。

彼女の心の中で、何かが決定的に音を立てて砕け散り、そして――別の、恐ろしくも純粋な「何か」が産声を上げようとしていた。

5. 乱入と、砕けた仮面の奥の涙

「……なぜ」

少し離れた場所で、吹き飛ばされたシオンは、砕け散った仮面の下の素顔を晒したまま、茫然と立ち尽くしていた。

なぜ、あの男は命を捨ててまで妹を守ったのか。

なぜ、あの男は自分に向かって「愛を否定するな」と叫んだのか。

シオンの獣の瞳孔が揺れ動く。

彼女の足元に、カイルが投擲した聖剣が突き刺さっていた。その剣の柄には、リオナとカイルの魔力で刻まれた「黄金の誓い」の紋様が輝いている。

「ああ……」

シオンの右目から、止めどなく涙が溢れ出していた。

鉄の仮面という「感情の蓋」を破壊されたことで、十五年間押し殺してきた彼女の「人間としての悲鳴」が、制御不能になって決壊したのだ。

妹が、自分と同じように「愛する家族」を失い、血の涙を流している。

その事実が、シオンの心に、歪んだ満足感ではなく、胸を掻き毟るような耐え難い痛みを与えていた。

(私は、あの子から……すべてを奪ってしまった。もう、後戻りはできない)

「神穿鴉様! ご無事ですか!」

影からゼッカ、カエレン、ニムたちが姿を現した。

同時に、闘技場の入り口からは、昼国の軍馬のいななきが響いた。

「殿下ァァッ!! 賊軍め、これ以上の狼藉は許さんぞ!!」

ジーグ将軍率いる光の精鋭部隊が、ついに駆けつけたのだ。ジーグは倒れたカイルの姿を見て激怒し、大剣を振りかざしてシオンへと迫る。

「……ゼッカ。退くわよ」

シオンは、涙に濡れた素顔を隠すようにマントのフードを深く被り、ハクの背に飛び乗った。

「お待ちを! あの皇女は今なら容易に殺せます! ここで息の根を――」

カエレンが短剣を構えるが、シオンは日蝕の雷を彼の足元に撃ち込み、黙らせた。

「退けと言ったのよ。……あれはもう、私の知っている『光』じゃない」

シオンは、ハクの背から最後に一度だけ、リオナの姿を振り返った。

カイルの遺体を抱きしめるリオナの全身から、これまでのような太陽のように眩しい「黄金の雷」ではない、何か別のものが発現し始めていたのだ。

それは、すべての色を失ったような、悲哀と絶望と、それでも愛を捨てない極限の意志が結晶化した、白銀プラチナの光だった。

「……殺しに来なさい、リオナ。その『白銀の罰』で、私の夜を終わらせて」

シオンは誰にも聞こえない声でそう呟き、夜の闇の中へ、逃げるように姿を消していった。

蒼い月が見下ろす闘技場。

残されたのは、愛する騎士の亡骸を抱きしめ、白銀の雷を静かに、ただ静かに放電させ続ける、一人の皇女の姿だけであった。

光と闇の戦いは、ここから神すらも畏れる「真の次元」へと突入していく。

カイルの死という最大の犠牲を経て、リオナは悲しみの果てに「白銀の浄化雷」へと覚醒します。

物語は、両陣営のソルとルナが動き出し、姉妹の決戦が世界の存亡を懸けた戦いへと変貌する

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