【遠征日誌14】 DV跡
四天王時代の同僚にカイン・D・グランツなる男がいた。
キャピタリストを名乗っていたが、ぶっちゃけ反社である。
現にダグラス一家なる暴力団を傘下に置いており、王都ではかなり恐れられていたと聞く。
ただ、大魔王の長征を助けた功績は絶大であり、指名手配犯でありながらも建国の功臣という歴史的立ち位置。
「もう、あんな男の事はいいじゃないですか。
もしも生きているのなら、そのうち憲兵本部が逮捕するでしょう。」
『いやいやケイン君。
お父様に対してそういう言い方は良くない。
折角、ウェイン総監も陣中におられるのだから、私と一緒に赦免を嘆願しよう。』
「赦免も何も息子のボクが連座粛清されてない時点で、かなり寛大な対応だと思いますよ。」
そして眼前の少年こそがカインの長男のケイン君である。
父親譲りの美形と長身で地球女共を完全に魅了してしまっている。
まぁなぁ、男の俺から見ても惚れ惚れする美貌だもんな。
この顔に生まれた時点で勝ち組だし、父親に感謝するべきだとは思う。
「キャーッ!
ケイン様ー♥」
「抱いてー♥」
「ケインきゅ〜ん♥」
この人気である。
兎に角、地球女共が勝手に軍列に加わってケイン少年に劣情をぶつけるのだ。
しかも我が軍に情報や物資を貢ぐ始末。
おかげで、俺達はこの国の宰相であるフミオ・キシダの居場所をリアルタイムで把握出来ている。
(仕える王を捨てて所領であるヒロシマなる地に退避したらしい。)
もう、この少年だけを派遣した方が良かったんじゃないかなと思う。
「公王さまー!」
『はーい。』
珍しいな。
とうとう俺にも女性ファンが生まれたのだろうか。
「邪魔です!
そこに立たれるとケイン君が見えない!」
『あ、はい。』
俺はスゴスゴと後ろに下がる。
懐かしいな。
学生時代にドナルド・キーンのファンガールからそんな扱いを受けたよ。
女って本当に残酷な生き物だからなぁ。
あいつらイケメン以外は人間と思ってないんだろうな。
1番酷かったのは勿論エルデフリダである。
あの女には何度泣かされたか分からない。
そのエルデフリダも死んだ。
帰還したら俺が葬儀委員長をやらされる流れらしい。
最後の最後まであの女には振り回されっ放しだった。
「ところで公王様。」
『んー?
何だいケイン君。』
「地球人にエネルギー支援しちゃっていいんですか?」
『良くはないよ。
カロッゾ卿なんか未だに利敵行為だって怒ってるからね。』
「ですよねー。」
『でもまあ、政治的にはこっちの方が正解でしょ。
本国であれ地球であれ、エネルギーを握ってる者には逆らえないんだからさ。』
ケイン少年が父親から受け継いだのは美貌だけではない。
天は持つ者に二物も三物も与えるのだろう。
雷スキル適性までケイン君は受け継いだ。
しかも父親と同じく、古今の文献にも記されていない蒼い雷光を使うのだ。
え?
雷の色が蒼いのはスキルと関係ないって?
やれやれ、キミは本当に何も分かってないね。
見たまえ、あの卑劣なまでのチートを。
「ふー。(イケメン憂鬱溜息)
スキルレベル、また上がっちゃったかな。
(前髪かきあげファサー)
あまり頻繁にパワーアップしちゃうと…
(イケメン指パッチン蒼い雷光発生)
出力演算が面倒なんだよねー。」
「キャーッ♥
ケイン様の蒼き雷光よー♥」
「私の心は感電済でーす♥」
「旦那殺すから種付けしてー♥」
ビジュアル的に兎に角強いのだ。
俺はもうデザインとかアートに関心を持つ年齢ではないのだが、そんな俺の目にもケイン君の蒼き雷光は美々しく映る。
ましてや女というのはルックスだけで全てを判断する愚かな動物なので、ケイン君のスタイリッシュ・スキルに完全に心を支配されてしまっている。
…くっそー、イケメンって本当にムカつくよな。
「…ホンマ同感ですわ。」
『お、ゲコ君とはこういう時だけ意見が合うね。』
「ケイン君はボクにも親切にしてくれてるし、理性では感謝せなアカンと分かってるんですけどね。」
『うん。』
「感情が納得してくれへんのです。」
『ホント同感。』
「ボクのスキルの剽窃は自由に他人のルックスを真似ることなんですけど…
いや、これはこれでチートやとは理解してるんですけど。」
『うん。』
「どれだけ変身を試みても、彼だけは再現出来ないんですわ。
理論上、顔の作りは1ミリたりとも誤差が無い筈なんですけど…
あのイケメンオーラが再現できへんのです。
結果、似ても似つかぬパチモンになってしまう。」
ちなみにこの男はケイン君の父親カインに化けて俺に接触してきたのだが、こちらも表情の卑しさで看破出来てしまった。
なので俺は彼のスキルを頭ではチートと理解しつつもそんなに評価していない。
(彼の胆力や政治力に関しては卓越していると俺も摂政も絶賛している。)
『まあ、あの見た目に生まれると、これまでの自己肯定感貯金が凄いだろうからね。』
「それなんですわ。
ボクは逆に僻み根性丸出しの人生送ってきたんで、彼が自然に持ってる自己肯定感がの再現しようがないんです。」
ゲコは大きく溜息をつくと、その場にしゃがみ込んでしまった。
まぁなあ、ゲコがチートを用いても辿り着けない領域にケイン君は生まれながらに立ってる訳だからなぁ。
(風格だけはどうにもならないだろ、ムリムリ。)
才能って残酷だよなー。
「ゲコさーん。
トーキョーデンリョクって人が来てるんですけど、知ってますー?」
「おーう、ケイン君おつかれー。
知っとるよー。
今、そっちに行くわー。
コーキンチューニュー
コーキンチューニュー。」
ゲコは表情を切り替えると俺に「公王様の読み通り、エネルギー業者が来ましたわ。」と耳打ちする。
そう、何が理不尽かと言うと地球文明は何と雷属性文明なのだ。
全てのエネルギーを一旦電気に変換してから分配する超雷属性偏重文明。
そしてケイン君はMP消費なしに電気を生成可能という非対称性。
その彼が華麗な指パッチンから生みだした莫大な電気を地球人に惜しげも無く恵んでやっている。
イケメン! 柔和! 大盤振る舞い!
この3つを兼ね備えたケイン君は地球人達にとっては救いの神のようなものであり、拝む馬鹿まで居る始末。
そして耳を塞ぎたくなるような地球女共の嬌声。
一応念を押しておくが、俺達は侵略軍なんだけどな。
あー、世の中結局は顔なのかねー。
真面目に侵攻作戦練るのがアホらしくなって来たわ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて、トーキョーデンリョクなるインフラ会社。
財務諸表を読む限り、かなりの巨大組織だ。
個人的に興味があったので直接話を聞きたかったのだが、ジミーやィオッゴに厳しく叱責されたので面談を諦める。
曰く、王が軽々しく業者風情に声を掛けると威信を損なうとのこと。
言わんとする事は分からんでも無いのだが、今はもう令和だぜ?
アップデートさせて欲しいなぁ。
「いやあ、感心感心。
ボクも労ってやるとするか。」
『…ウェイン総監、駄目ですよ。』
ノーラがニコニコしながらトーキョーデンリョクに因縁を付けに行こうとしていたので、身体を張ってブロック。
将校区画まで押し戻すことにする。
「えー、ボクは挨拶に来てくれた地球人を歓待してやろうと思っただけだよぉ(ニヤニヤ)」
『ウェイン総監、現地民間人の扱いに関しては私に決定権がある取り決めでしたよね?』
「あははは。
勿論、理解してるよー。
愛するキミの邪魔なんてする訳ないじゃないか。
ボクの権限なんて、精々その扱いが適切であったかどうかの判決を下す程度のものだからね。(ニッコリ)」
不意にノーラが真顔に戻る。
「…ねえ、ポールソン。
ひょっとして怒ってる?」
『え?』
「最近ボクがイデハラばっかり構ってるからさあ。
嫉妬されて嫌われちゃったら… イヤだな…」
『いやあ、ははは。』
実は地球人イデハラには大いに感謝しているし、大変申し訳なくも思っている。
彼をノーラ(同室のカロッゾも)が気に入ってくれたおかげで、俺の負担が軽減されているだ。
頼むー、このまま末永く3人で暮らしてくれー。
「あのねあのね。
ボクがポールソンを愛する気持ちは変わらないからね?」
『あ、はい。』
「だからポールソンはボクだけのものね?」
『え?』
「逆らえば殺す。」
『(ゴクリ)』
「ニックも当然ボクの物だから。」
『な、なるほど。』
「そしてイデハラ♥
これもボクのものね♪」
おっかしいなあ。
統一政府って富の分配を公約に成立された筈なのに…
「大丈夫♪
ニックは兎も角、ポールとイデハラは富ではないから。
独占には抵触しない。」
『なるほど。』
妙に納得してしまう。
まあ、ニックと違って俺達は薄汚いオッサンだしな。
「だからボクの愛に矛盾も違法性もない。」
『さ、流石はウェイン卿。
見事なる遵法ぶりです。』
「はっはっは、そうだろうそうだろう。
ボクも憲兵総監として皆の模範となる義務があるからね。
異性関係は特に身綺麗にしておかなきゃ。
これがボクなりの愛さ♪」
『なるほどー。』
前から薄々思っていたが、この女も大概頭がおかしいよな。
絡まれることを防いでやったトーキョーデンリョク達は俺に感謝して欲しい。
この人間凶器を自室に押し戻してやったのだからな。
「イデハラ―♥
おいでー♥
ただいまー♥」
「…う、う。」
「うーーーん、イデハライデハラ♥
愛してるよ♥
chu♪ chu♪」
「ひーー!!
もう殴らないで下さいーー!!!」
見ればイデハラの顔面は目を背けたくなる程に腫れ上がっている。
特に左眼窩が完全に陥没して変形している。
イデハラはノーラに熱く抱擁されながら、救いを求める目で俺を見ている。
生憎俺は無力なのでペコペコと必死で頭を下げて逃げ出した。
あまりに申し訳ないので殴打痕は全て消しておいた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて、ケイン人気の副産物がある。
地球側が統一された政治行動を取れなくなっている事が立証されたのだ。
『ジミー、間違いないのだな?』
「然り。
御存知の通り地球人は広域自治体【県】の下部に小規模自治体【市】を置いております。
ですが、明らかに連携が取れてません。
イバラキ県とヒタチ市の使者が別々に訪れ、別々の嘆願をしてきたでゴザル。
ツクバ市とトーキョーデンリョクに至っては、真逆の請願書を提出して参りました。
無論、地球側の計略である可能性も大ですが、それにしては統一性がなさ過ぎます。」
『ふーむ。
平時の地球人の政治性向が分からない限り、迂闊な判断は出来んなぁ。』
「自由都市のソドムタウンVS地方州よりは、かなり意思統一出来ているでゴザロウ?」
…自由都市かぁ。
今は亡き祖国。
俺も結構頑張ってたんだけどなぁ。
ノーラに滅ぼされちゃったからね。
一応トーキョーデンリョクの連中にも教えてやった方がいいのかなあ。
眼下を見ると隔離した筈のノーラとカロッゾがニコニコと余所行きの笑顔でトーキョーデンリョクに手を振っている。
よせばいいのに彼らも窓を空けて手を振り返す。
ほんの刹那、カロッゾが首の角度を素早く変えてトーキョーデンリョクの車内を覗き見てから、すぐに元の笑顔に戻った。
あーあ、誰か教えてやればいいのに。
あの2人こそ殺戮のツートップなんだけどなぁ。
いや、俺は怖いから黙ってるけどさ。
「カロッゾ卿は原子力発電所ごと地球を爆破するつもりみたいですよ。」
『ケイン君おかえり。
あれってそんなに誘爆キャパあるの?』
「流石に地球全体を吹き飛ばすのは困難でしょうが…
ィオッゴさんの見立てではニホンレットウの住民を殲滅するだけのエネルギーは内臓されてるそうです。」
その原子力発電所を大量に保有しているのが、まさにトーキョーデンリョク。
あー、ニホンレットウ終わったなー。
可哀想に。
『マジかー。
あの人、酷いことばっかりするよなー。』
「どうせコリンズの奴の意向でしょ。
大魔王様さえ保護すれば、地球人は用済みだと考えてるみたいですよ。
アイツは昔からああいう奴なんです。」
『摂政はちょっと完璧主義過ぎるよなー。
まぁ、そのおかげで統一政府が運営出来てるんだけどさぁ。』
「アイツ、校内清掃の時にゴミ箱1つ1つを覗き込んでサボってる奴が居ないか見張ってましたからね。
クラスの男子全員、アイツに監視されてましたもの。」
『マジかー。
学年に1人はそういう子居るよなー。』
「宿屋には向いてるとは思いますよ。
胡桃亭のベッドメイクとか評判良かったらしいですし。」
摂政コレット・コリンズは宿屋時代、その几帳面な性格でゴミ1つ残さない清掃を心掛けていた。
そして天下人となった現在、政権への不安要素には確殺をもって臨んでいる。
まぁなぁ、地球なんて不安要素の最たるものだもんなー。
これまでの摂政の戦争手法を鑑みるに、生かしては貰えないだろうなぁ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
さて、状況を整理する。
我々の眼前にはトネ河。
地球人の基準では激流らしいが大した勢いではない。
俺達が王国鎮圧戦で渡った河の荒さに比べれば可愛いものである。
川幅も然程ではないし、トルーパーの支援なしで押し渡ることも可能であろう。
『ロベール、少しいいか?』
「はい、兄さん。」
『…オマエの馬術なら、渡れるか?』
「…ええ、この気象状況であれば問題はありません。
駱駝は馬よりも泳ぎが得意ですので、さしたる難度はないかと。」
『全騎で渡れるか?』
「うーーん。
やめた方がいいでしょう。
砂漠勢は水戦にあまりに不慣れです。」
ここにきて地球側も知恵を付けてきた。
俺達が布陣するトリデ駅跡地には鉄橋が架かっているのだが、当然封鎖中。
そして橋の対岸には巨大なバリケードが張られている。
そりゃあね、ここに布陣するって宣言したからね。
当然彼らは対岸に防衛線を敷くだろう。
「それと、つい先ほど上がってきた報告なのですが…
地元住民もトネ川を渡ることが実質上禁止されているようなのです。
上流の橋も封鎖されているとのこと。」
『ふむ。
まあ、概ね想定通りか。
俺が防衛側でもそうするからな。』
「ただ、報告者はノノイチ・リナです。」
『ああ、ケイン君の取り巻きの…』
「ですので、情報の裏取りは必要かと。」
『だな。
ロベールはどう思う?
あのファンガール軍団、スパイだと思う?』
「うーーーん。
僕も平和維持軍時代に、協力者を装ったスパイは6人だけ摘発しています。」
『ふむ。』
「確かにスパイは対象を油断させる為に過度に好意的な傾向が強いです。」
『…俺もそう思う。』
「ですが、所詮は敵同士。
具体的にこちらを潤してくれることはまずないんですよ。
大袈裟に忠誠の空手形は切ってきますが、実のある情報はくれません。
相手にとって捨てても構わない情報or偽情報が関の山ですね。」
『つまり、ケイン君のファンガールは…』
「スパイにしては侵略軍である我々に与え過ぎなんですよ。
結局、彼女達が献上した穀物からは一滴の毒も検出されませんでしたしね。
兄さんは何もしてないんですよね?」
『ノーラが《証拠を掴みたいから弄るな》って五月蠅かったからな。』
「ああ、毒でも混ぜてたら酷いことになってましたね。」
『《あの人達》はジェノサイドの口実を血眼になって探してるから…』
「話を戻しますね。
これはあくまで僕の私見ですけど。
ケイン君のファンガール達をスパイと断ずるには、あまりにもこちらに与え過ぎています。
だって兵糧だけでも全軍の1ヶ月分はありますよ。」
『まあなあ、この手の遠征での1ヶ月分はあまりに大きいよなあ。
作戦のバッファが劇的に変わるもんなぁ。』
「そして彼女達が供出した数々の地球車両。
今ではトリケラよりも多くの輜重を運んでます。
仮に私が地球側の諜報責任者だとしたら、たかだか諜報員の信頼獲得にそこまでのリソースは絶対に割きません。
本末転倒ですから。」
『…猜疑にもリソースは必要だからなあ。
もう少し何かやらせてみてもいいか…』
「兄さん。」
『ん?』
「博打なのですが、ファンガール達にニックを捜索させませんか?」
『えーー!!!?
いやいやいや、流石にそれは怖い。
1人でも地球の政府に通じている者が居れば、ニックの身に危険が及ぶ。』
「それは覚悟の上です。
ただ、現時点で何の気配もない訳ですよね?
ニック程の男が五体満足であれば、何らかのアクションは起こしてると思うんです。
現に我々は進軍ルートを公開している訳ですから。」
『…いや、俺も不吉な予想は何度かしてしまっているんだ。
ただ、あれ程の猛者が犬死するとも思えなくてな。』
「地球人の捕虜になっている可能性も考えたのですが…」
『…ないな。』
「ええ、もしも地球人達がニックを魔王軍の一員として認識して捕虜にしている場合は、必ずその事実を伝えようとしますから。」
オーラロードを渡る際、ニック・ストラウドは将校服を着用していた。
しかも南ジブラルタル13万石の太守である彼の襟にはストラウド家の紋章があしらわれている。
幾ら地球人が蒙昧とは言え、軍服姿のニックを見れば百人中百人が兵卒ではなく幹部将校であると看破するだろう。
当然、交渉材料として確保する筈だ。
いや、そう考えなければおかしい。
「それが無いということは、ニックは捕虜ではないということです。」
『…。』
「重傷を負って野山に隠れているとは考えられませんか?」
一理ある。
ローティーンの頃から冒険者の真似事をしていたニックはサバイバル能力が非常に高い。
釣りや罠猟はお手の物だし、ロープ1本あれば樹上に簡易ベッドを作ることも出来る。
「例えば、遠隔地に落ちたのかも知れません。
そこで骨折か何かをしてしまった。
友軍は見当たらない。
そこで手近な山や森に身を顰め、治療を行いながら合流機会を伺っている。
これが僕の仮説です。」
『…そうだな、俺もロベールの考察に賛成だ。
消去法でそれ以外に考えられん。』
無論、それは生きていたいた場合の話。
着地に失敗して人知れず海の底に沈んでいるパターンも…
いや、やめよう。
せめて俺達だけでも奴の生存を信じて救援策を練らねば。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ファンガールの要求は極めてシンプル。
側室でも構わないのでケイン・D・グランツに近侍したいとのこと。
無論、軍法においても民法においても、それは禁止されている。
加えて、肝心のケイン君が嫌がっていた。
「えっと、ははは。
御厚意は光栄ですけど、ははは。」
まあなあ。
そもそもケイン君と君達じゃ顔面偏差値が違い過ぎるじゃん。
ってか年齢差がありすぎるよね?
ケイン君は前途有望なミドルティーンじゃん?
アンタらオバサンじゃん?
(オッサンの俺には言われたくないだろうけどさ。)
図々しいにも程があるよね?
こういう事言いたくないんだけどさぁ。
やっぱり釣り合いとかあるじゃん。
ちょっと掘り下げるぞ。
摂政ってぶっちゃけ最近の子にしてはチョイ○○じゃん。
ケイン君も摂政のルックスを「糞○○」とか平然と言うしね。
(まあ、それが同性の忠臣を多く集めている原因なのかもだが。)
でもさあ、
地球女さん…
俺もこういうルッキズム的な発言はしたくないんだけど…
あんな摂政でも地球に来れば美女の部類に入っちゃうと思うのね。
いや、これ以上は流石にエチケットして言わないけどさ。
俺も語れるような顔はしてないけどさ。
でも、つまり結局そういうことじゃん。
『いやー、私も総司令官として皆さんの貢献には大変感謝しておりますし、恩賞もお支払いしたいんですよー。
ただねー、婚姻となりますと…
うーーん、法律の壁がねー、どうしてもあるんですよー。
民法とか軍規とか色々あるんですよー。
グランツ卿もいずれ政府の中枢に参画して貰うことになっておりますし…
うーーん、もうねー、関連省庁の決済とか複数必要ですし…
政権内の調整とか、諸々が必要となって来るんですよねー。』
地球女共は落胆の悲鳴を挙げながらも、【いずれ政府の中枢に参画して貰う】のフレーズを聞いた瞬間は貪欲かつ醜悪な笑みを浮かべた。
…女って怖いなぁ。
『妥協案という訳ではないのですが。
金貨の支払いで納得して頂けませんか?
そちらの分類では、原子番号: 79、元素記号: Auです。
恩賞として1人1㌔ずつお支払いします。
これで手を打って貰えませんか?』
恐ろしい形相で地球女共が俺を睨みつける。
えー、勘弁してくれよー。
怒りの矛先、俺ー?
だってしょうがないじゃん、法律に駄目だって書いてるもん。
大体、常識で考えて功臣の息子が占領民と結婚していい訳がないじゃない。
そもそもさー。
俺さー。
総司令官だからさー。
皆の模範となるように人一倍遵法的に振舞わなきゃ駄目なんだよ。
「じゃあ、セックスさせて下さいよ!!」
喧嘩腰で女共がつめよる。
あ、一応念を押しておくけど、地球女さん達がセックスしたいと言ったのはケイン君であって俺ではないからね。
「セックス出来ないのならジャニ抜けた意味ないでしょお!!!!」
「10歳と30歳の時と! 40歳と50歳の時も!!
私はずっと!待ってた!!!
ウェディングドレスだろおおお!!!!!」
「来年50歳になるんです!!
もうタイムリミットが迫ってるんですよおおお!!!!」
女共が「セックスセックス」と連呼しながら俺に詰め寄る。
どうしてトーキョーデンリョクとの面談を禁止された俺が、こんな奴らの世話をさせられているのかは謎。
俺が地球女共を必死に宥めていると背後の営巣区画も騒ぎ出す。
「ポールさーん!!
エミリーちゃんはポールさんと
セックスしたいですぞー!!
(鉄格子ガシャガシャ!!)」
『ポゥ受刑囚三等兵、鉄格子に指を触れないように。』
「ッガアアアアアアアアアアッ!!!!
ッドッッゴアアアアアアアッッッッ!!!!!
(鉄格子ガリガリ!!)」
『(ビクッ!)
…シ、【名前を言ってはいけないあの人】さん。
て、鉄格子を噛まないように。』
エミリーに【名前を言ってはいけないあの人】ーヌ。
俺の周りってこんな奴ばっかりだよな。
ケイン君が1人くらい引き取ってくれないかなぁ…
丁度エルデフリダも死んでくれたし、ポーラとかノラカロとかをそっちで引き取ってくれないかなぁ…
「好きな人の子供を産みたいってそんなに悪いことなんですかァァァッ!!!!!」
地球女達の絶叫が響き渡る。
いやいや、まずは男の側の意思を考慮してくれよ。
念を押しておくけど、ケイン君は年齢相応にルッキズム激しいぞ。
『なあ、ケイン君。
キミからも彼女達に…』
「ははは、後は公王様の御判断に委ねますね。
じゃ、僕は変電調整に行ってきます。」
あ!
くっそ、逃げやがった。
最近の若者は平然とオッサンを盾にするよなー。
酷い話だ。
俺が若い頃は、もっと年長者を立てたものなんだがなー。
これだから最近の若者は、まったくー。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
盤面の話をしよう。
こんな茶番を演じられるくらいに我が軍には余裕が生まれた。
まあ、そりゃあそうだろう。
俺が大抵の地球軍を消滅させたからな。
ここに来てトーキョーデンリョクだの地元自治体が命乞いに来ているという事は、地球の兵力は既に払底しているとみて間違いないだろう。
「公王様!!
報告します!
トリデ市庁に降伏旗が上がりました!」
『ふむ。
官吏達が投降して来たのか?』
「いえ!
退避の形跡が見られるとのことです。
ロベール様が接収の可否を尋ねられておられます。
如何致しましょう?」
『うーーん。
地図を見る限り目と鼻の先だが…
流石に占領地の庁舎を放置するのは軍の威信を損なうか…』
偽旗作戦であってもロベール隊なら造作なく鎮圧可能だな。
だがナミクラと異なりトリデ市は土地が完全に開けている…
駱兵を統率しているロベールを手元から離したくないんだよなあ。
「で?
何でボクなんですか?」
『キミに任せた方が地球側の死者が減るだろ?』
「一応念を押しておきますけど、ボクはトイチ君でも通えるレベルの底辺高校の普通科生です。
軍事訓練なんか受けたことないから、占領と言っても何をするのか知りませんよ?
大体、トルーパー1機で行っても鹵獲してくれと言ってるようなモンやないですか。」
『地球側にインパクトを与えておきたい。
トリデ市庁に自主的に忠誠宣言を出させるか、それが無理なら焼き払うか。』
正直、トリデ市の占拠を宣言したものの、面制圧の意図はなかった。
地球人が首都圏と呼ぶ地域にプレッシャーを掛けられれば、布陣位置はどこでも良かったのである。
「各市庁舎は地元民の避難先になってるんです。」
『うーーーーん。』
「ですから!」
『いや、それも含めて任せるよ。』
「え?」
『どう応対するかはゲコ君が全て決めてくれ。
私はそれに合わせるから。』
「いやいや!
ボクが地球側有利に取り計らったらどないしはるんですか!」
『え?
ゲコ君がそう判断したということは、現状は地球人に融和的な態度を取った方が我が軍の利益になるってことでしょ?
従うに決まってるじゃない。』
「いやいや、ボクは日本人ですよ。
単独行動させたら魔王軍の不利になる情報を売り渡すかも知れへん。」
『?
不利って?』
「いや、魔王軍の弱点とかをバラすかも知らへんやないんですか。」
『ふーむ。
我々に弱点なんかあるかなー。』
「…公王様がキチガイ共に手を焼かされてることとか。」
『弱点多いなあ、我が軍。』
問題は肝心のゲコが地球人の能力を微塵も信用していない点にあるんだよな。
この男の願いは地球人の保護。
それを叶えたいのなら、おとなしくしているのが一番だし、聡明なゲコは理解しているだろう。
『でしょ?』
「まあ、あのキチガイ共に口実を与えたくないというのが本音ですね。
この国には無能のカスしかおらへんし。
余計なこと考えさせへんように上手く話を誘導しますわ。」
市庁舎はここからすぐの距離なので、トルーパーは1機のみ。
チャップマン少尉ら10騎を護衛に付ける。
ここが本国ならチャップマンに宣撫を任せたいのだが、何せ異郷だからな。
予想通り、ゲコは庁舎の焼き討ちを拒絶。
建物内に居た避難民グループと長い話し合いを始めたということ。
どうして侵略軍の陣地の眼と鼻の先に避難するのかは理解に苦しむが、伝令の報告曰く【経済的な理由】とのこと。
まあ、分からんでもない。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
翌朝。
女共の咆哮で目を覚ます。
報告によれば一晩中、俺に嘆願(ケイン君との婚姻)を絶叫していたらしい。
どうりで寝汗が酷いと思った。
軍服に着替えて営倉区画を通る際、キチガイ2匹が鉄格子越しに掴みかかって来たのでゴロゴロと転がって何とか回避に成功。
どうして自陣が一番危険なのかは謎。
朝の視察の為にまずは将校区画を回る。
「やあ、ポールソン♪
おはよう♥」
「ポールソン様♥
本日もご機嫌麗しゅう♪」
『あ、ウェイン卿・カロッゾ卿。
おはようございます。』
2人の真ん中には失神しているイデハラ。
そっかあ、最初逢った時に【異世界ヒロインでハーレム】とか言ってたもんなあ。
これは夢が叶ったうちに入るのかなぁ…
アレ?
イデハラの顔に殴打痕。
おかしいな?
昨日消してやった筈なのだが…
スキルの不発だろうか?
まあ、俺も歳だからなあ。
消したつもりでスキルを発動し損なってたのかもなあ。
イカンイカン。
地球軍の残党が攻めてきた時に不発なんかしたら全軍を危機に晒しかねない。
もっと緊張感を保たなければ。
「イデハラー♥」
「イデハラー♥」
いやまあ、地球軍以前にああいう狂人が陣中に居る以上、1秒たりとも気は抜けないよな。
(しかも俺に対しての逮捕権を持っている。)
俺は耳を塞いで歩こうとするが、女共の咆哮が嫌でも耳に入って来る。
大体、ケイン君・俺・イデハラの3人を呼ぶ声が大きい。
(たまにジミーのファンガールも居てクスリと笑ってしまう。)
『はァ。』
胃を摩りながら俺は歯を食いしばって視察を続ける。
駄目だ。
女の叫ぶ声って、どうしてあんなにキンキン鳴るんだろうな。
ポーラとエルデフリダと元嫁を思い出して鬱がぶり返す。
1人死んでくれたから残りは2人か、先が長いな。
それにしても精神的にかなり来る。
結局、俺の人生にまともなヒロインは登場しなかった。
これは自らの不徳が招いた現状なのだろうか。
『はァ。』
再度溜息が漏れる。
大体さあ。
俺って軍人さんじゃん?
それも遠征軍の総司令官じゃん?
なーんで戦争以外の要因で悩まされるのかねえ。
まあいいや。
ここからは徴用兵も含めて女を増やさないようにしよう。
これ以上キチガイヒロインが登場したら、正気を保つ自信がないからな。
さあ!
眼前にはトネ河!!
ここを渡ればいよいよ本番だ!!
気を取り直して頑張るぞ!!!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
???? 「ニャガ―ww
ようやく辿り着いたニャ♪
宇宙人共にトイチの情報を売って
明日は焼肉食べ放題ニャ♥」
to be continued ⇒
【魔王軍遠征部隊】
『ポール・ポールソン』
大魔王救出作戦総責任者/魔王軍総司令官・公王。
ポールソン大公国の元首として永劫砂漠0万石を支配している。
万物を消滅させる異能に加えて、アイテムボックス∞を隠し持っている。
首長国テクノロージーの粋を尽くした指揮官用X507改を乗機としている。
機体愛称はレオンティーヌ。
『ノーラ・ウェイン』
軍監/四天王・憲兵総監。
ポールソン及び後任者のカロッゾの監視が主任務。
レジスタンス掃討の功績が認められ、旧連邦首都フライハイト66万石が所領として与えられた。
配下軍団と共に乗機がオーラロードを侵攻中。
『カロッゾ・コリンズ』
地球クリーン作戦総責任者/四天王・前軍務長官。
本領は自らが大虐殺の上に征服した南ジェリコ81万石。
旧名カロリーヌ。
配下軍団と共に乗機がオーラロードを侵攻中。
『レ・ガン』
元四天王・ポールソン大公国相談役。
市井のゴブリン女性であったが、親族が魔王職に就任したことを切っ掛けに駐ソドムタウン全権に任命された。
魔界の権益保護の為、統一政府に様々な協力を行っている。
種族の慣例に従い、ゴブリン種搭乗員に対しての機体愛称授与を行っている。
『出原信之』
地球人。
捕虜兼現地徴用兵。
塹壕内ではノーラ・ウェイン、カロッゾ・コリンズの2名の将校部屋にて生活する事を強いられている。
ノーラ・ウェインのトルーパーに愛玩動物として搭乗する事が決定した。
『ジミー・ブラウン』
大魔王救出作戦副将/ポールソン大公国宰相。
ポール・ポールソンの無名時代から扈従し続けてきた腹心。
レオンティーヌの複座でポールソンと仲良く搭乗。
大国トップとナンバー2が同機体で戦闘をも行うという革命政権特有の狂気を体現している。
『ケイン・D・グランツ』
前四天王であるカイン・D・グランツの長男にして、摂政コレット・コリンズのクラスメート。
父親から長身と端正極まりない顔立ちを受け継いだ正統派の美少年。
特に訓練を受けた形跡はないがトルーパーの操縦もイケメン補正でお手の物。
『ゲコ・ンゲッコ』
大魔王と共に召喚された地球人。
どんな姿にも変身可能なレアスキル【剽窃】の持ち主。
紆余曲折を経てゴブリン姿でレ・ガンに近侍している。
地球名はカネモト・ピカチュー。
乗機はコルネイユ強硬偵察型。
機体愛称はギーガー。
『キムラ・エリカ』
ケイン・D・グランツのファンガール。
元々親子3代でのジャニーズの追っ掛けだったが、ケインに運命を感じてしまったと目が合ってしまった事で転向。
嫁ぎ先の金品を奪って魔王軍に献上した。
愛機はスズキ・ジムニーXL 4WD。
ちなみに本車両の所有者は配偶者のキムラ・クニヒコ氏である。
『ビル・チャップマン』
ポールソンの馬廻りの1人。
階級は少尉。
父のジム・チャップマンが僭称していた候王号が正式に認定された為、数少ない王族待遇者である。
『ニガホ・タモツ』
ポールの私的な客人。
仙台市に本社を置くタクシー会社「ずんだ交通」の社員。
大魔王のパーティーメンバーである寒河江尚元と面識がある。
『マグダリオン・イル・ギャラルホルン』
ダークエルフ族の長老。
暗黒魔法の達人で衣装を厨二仕様に変化させる秘奥義の使い手だったが、ドナルド・キーンが実生活の役に立つ水魔法を普及させた事により大いに威信を落とした。
孫娘のアネモネが出奔の際に暗黒魔法の奥義書を盗んだので、想定したパフォーマンスが発揮出来ていない。
即興で古代魔法を復活させ、水から軽油を生成する技術を確立した。
『フサハラ・ヨシヒコ』
ポール・ポールソンがゴブリン団子で私的に雇用した現地協力者。
大洗町のアダルトショップ経営者。
怠惰な性格であり周囲の顰蹙を買う事が多い。
最近も母・波留の葬儀を欠席して評判を落とした。
『ヴィルヘルミナ・ケスラー』
摂政親衛隊大尉。
政治将校として出向している。
主君コレット・コリンズへの忠誠と監視対象ポール・ポールソンへの憧憬の狭間で深く苦悩した挙句、間を取ってポールソンとの無理心中を決意した。
『エミリー・ポゥ』
重犯罪者。
殺人・死体遺棄などの罪状で懲役27年の実刑判決を受け服役中。
遠征中の脱走を危惧したポールソンが地球に連れて来た。
風魔法を身に付けたのは数年前だが、連続犯罪レベリングによって現在は最高位である【風魔法・極】のスキルレベルに到達した。
地球人に発射する気満々。




