レーズン
「というか、お前なんで東のマルシェ行ったことないんだ? いくら南区に店構えてるっていっても、さすがに生活範囲狭すぎじゃね?」
「私、オルコットから出てきたばかりなんです。仕入れも行商から買ってるので、マルシェに行く必要はあんまりなくって」
ユージーンさんは、はたと足を止める。何かおかしなことを言っただろうか。大丈夫かと声をかけると、彼は我に返って「ああ、悪い」と答えた。
「ほら、着いたぞ。もうちょっと奥まで行けば、ドライフルーツもあるんじゃねえかな」
「なるほど、では行きましょう!」
「待て、おい走るな! 迷子になっても知らねえぞ!」
呼び止める声を背に受けながら、早歩きで店を探す。野菜、陶器、ガラス、服にお酒……。果物の店が少ない。南のマルシェが果物の品揃えが豊富なせいかもしれない。
ゆっくりと歩いてきたユージーンさんに振り向くと、彼は苦笑いを浮かべていた。
「ユージーンさん、見つかりませんよ……。やっぱり無いんでしょうか……」
「あー……もしかしてエレノアはあんまり酒とか飲まねえのか? 味の濃いものはだいたい酒のアテになるから、酒屋に聞けばいいんだよ」
そう言うと、さっき私が素通りした酒屋に声をかける。
「おやユージーン、今日は何を? あなたの好きな銘柄はまだ入っていませんよ」
「今日はちげえよ。ドライフルーツの取り扱いってないか? 種類は……エレノア」
「レーズンが欲しいんです。ありますか?」
「あぁ、ありますよ。ちょっと待ってくださいね、陰になるところに置いてるんで取ってきます」
屋台を構えている店主は、お隣の服屋に「ちょっと頼みます」と言って路地の方へ向かった。向かった先の路地で座り込んでいる少年は倉庫番だろう。少年にひとこと話しかけて、木箱の中身を探し始めた。
レーズン。干しブドウであるそれは、とても糖度が高い。砂糖が貴重とされる時代でも、じゅうぶんな甘さを感じられる。なぜかといえば、水分が抜けることにより栄養素が凝縮されるからだ。ちなみにプルーンでも鉄分はとれるけど、百グラム当たりの鉄分量はレーズンに軍配が上がる。食物繊維はプルーンの方が多いしカロリーも低いので、状況に合わせて食べたいものだ。
店主が戻ってくる。レーズンの入った瓶と、なぜか他の物も両腕に抱えて。
「お待たせしました、お嬢さん。これで間違いないですか? 一緒にワインはどうです? チーズともよく合いますよ、もちろんこれだけでもおいしいですけどね」
「え、いえ、その、あぁ……」
「これだけでいい。お前もあんまり押し売りするなよ、縮こまってんじゃねえか」
ユージーンさんの言葉を受けて、店主は「あぁ失礼」とワインやチーズを屋台に戻す。
「ユージーンの連れなら、多少は良いかと思いまして。今夜は二人で晩酌ですか?」
「ちげーよ、たまたま成り行きで手伝ってるだけだ。ほら、会計頼む」
「珍しいですねぇ。まあいいでしょう、ひと瓶で銅貨二枚です」
会計を済ませて、その場を去る。「またのお越しを!」という見送りの言葉に、ユージーンさんは「またなー」と緩く返す。
「ユージーンさんのなじみのお店なんですか?」
「ん、あぁ……まあな。昔、護衛を請け負ってからの付き合いだ。三年くらいだが、いい奴だよ。仕入れに手は抜かねえし、値段も適正だ。あいつがあそこまでいろいろ勧めるってことは、それ、本当にうまいんだろうな」




