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23.キャロライン・グリンフィールド.



 キャロライン・グリンフィールドはついに訪れた結末に、自分でも驚くほど落ち着いていた。

 死にたくないと思うし、もっと生きていたかったとも思う。大好きな家族と離れたくないし、悲しい思いだってさせたくない。


 だが、泣き叫んで抵抗しようとも、なにを犠牲にしても生きんが永らえてやろうとする気はない。

 全てを諦めてしまったのか。否。そうではない。

 自分の死で、長くグリンフィールド伯爵領に続いた災厄を終わりにできるのなら望むところだ、そう覚悟を決めたのだ。


「神様、最後に時間をくださったことに心から感謝いたしますの」


 キャロは父親の顔を覚えていない。生まれて間もなくドラゴンによって奪われてしまった。それでも叔父が父親がわりに気にかけてくれた。なんとかドラゴンを倒そうと強者を探してくれていることも知っている。


 母は強い人だ。父を亡くし、悲しいはずなのに、キャロのために気丈に振舞ってくれた。呪われた子など捨てて、新しい人生を歩む選択肢だってあったはずなのに、それをしなかった。できることならまた同じ母の元に生まれたい。


 ディナ、キャロにとって家族であり姉だ。幼い頃から一緒に育った彼女のことを、ただのメイドだと思ったことは一度もない。十四年の間、母と同じくらいそばにいてくれた。ときには自分のせいで街の人から嫌な目に遭ったことも知っている。だけど、何事もなかったように振る舞う彼女に、キャロは勇気をもらった。


 燐、キャロにとってはじめての友達であり、今はもう一人の姉妹だ。ドラゴンを倒すために母が集めた大勢の一人。ドラゴンと戦い、敗北してもなお、恐怖することなくキャロのために再び戦うことを決意してくれた大切な友達。彼女から自分の知らない世界をたくさん教えてもらえた。


 そして――ライガー。キャロにとって最後の友達。絶滅したはずの雷獣であり、その前は別世界の人間だったという。年上らしいのに、でも子供っぽくて、彼の世界の話は皆心を踊らすものばかり。ふわふわの毛並みは太陽の匂いがして、ふかふかだ。年頃の男の子を抱きしめていると思うと恥ずかしいけど、恋をしたことのない少女は羞恥心を放り投げて初めての異性との交友を楽しんだ。

 ライガーは言ってくれた。


「俺はきっとキャロに会うためにこの世界に来たんだと思う」


 これほど嬉しいことはない。ライガーは自分のためだけに、ここに居てくれるという。

 今まで、いずれ訪れる死に怯え、自分だけのなにかを持つことはしなかった。いざというときに、生を望んでしまうから。みっともなくあがいてしまうから。そんなことをすれば、自分を生かそうと、多くの人が傷ついてしまう。


 だから、キャロから何かを望むことはなかった。一度も。

 しかし、倒れているライガーを見つけたとき、放って置けなかった。今まで感じたことのない欲求が自分の中に生まれたことをはっきりとわかった。


 キャロははじめてわがままを言った。恥ずべきことだったかもしれないが、彼と離れたくなった。

 そしてライガーは家族になった。

 もし、彼が言う通り、異世界の少年が雷獣の姿になって自分のためにここに居てくれるのなら、


 ――わたくしもきっと、ライガーに会うために今まで生きていたのだと思いますの。


 だからもう、悔いなど残っていない。そう信じたい。

 少女は心から神様に感謝する。素敵な家族と友人を与えてくれてありがとうございました。自分のいなくなったあと、みんなが幸せでいてくれますように。




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