第2話 主人公属性は窓際の1番後ろの席って相場で決まっている
教室のいちばん後ろ、廊下側の席。
かつて自分が座っていたはずのその場所には、誰の姿もなかった。
(……俺の身体は、どこへ行ったんだ?)
予鈴のチャイムが鳴り、ほとんどの生徒が教室に揃っている時間だ。それなのに、あそこに俺の姿はない。
ただ遅刻しているだけかとも考えたが、それはない。高校時代の俺は、底辺の陰キャなりに無遅刻・無欠席だけが唯一の取り柄だった男だ。目立つのを極度に嫌い、遅れて教室に入って注目を浴びる度胸なんて持ち合わせていなかった俺が、こんな時間になっても登校していないなんてあり得ない。
じゃあ、元の俺はどうなった?
他の誰かに身体を乗っ取られているのか、それとも、この世界には最初から俺なんて存在していなかったのか――。
「ちょっと翔太、ぼーっとしてないで席着きなよー」
背後から通りすがりの女子生徒に笑い混じりに声をかけられ、ハッと我に返った。
教室中から向けられる親しげな視線と、朝のざわめき。呑気に突っ立って考え込んでいる暇はない。
「あ、わりぃ」
適当に言葉を返しつつ、俺は教室を見渡した。
席だ。とにかく席に着かないといけない。
高校時代、俺はあの隅の席から、教室の中心にいる佐々木翔太をいつも遠くから目で追っていた。
だから大体の位置は頭に入っている。だが、いざ自分がそっち側へ行くとなると、細かい列まではっきりとは思い出せない。
(確か……あのあたりだったはずだ)
日差しがたっぷりと差し込み、グラウンドの景色が一望できる窓際の席。
漫画やアニメじゃ、主人公属性は窓際の1番後ろの席って相場で決まっている。
あいつのように誰もから好かれ、世界を思い通りに歩んでいるような学園の主役には、ああいう場所がお似合いに決まっているのだ。
俺は迷いなく歩みを進め、窓際のいちばん後ろの席へと腰を下ろした。
机に肘をつき、椅子の背もたれに体重を預ける。
窓の外には抜けるような青空が広がっていた。こんな景色を、あいつは毎朝当たり前のように眺めていたのか。
その時だった。
「……ちょっと」
頭上から、すっと温度の低い、冷ややかな声が降ってきた。
「そこ、私の席なんだけど」
見上げると、腕を組んだ一人の女子生徒が、こちらを冷たく見下ろしていた。
肩まで切りそろえられた艶やかな黒髪に、陶器のように白い肌。息を呑むほど整った目鼻立ちをしているが、その瞳には底冷えのするような冷徹さが宿っている。
(……っ、神崎凛)
名前と顔が瞬時に一致した。
同じクラスの神崎凛。見た目は学年でもトップクラスに整っているが、誰に対してもトゲだらけで、一切の愛想を振りまかない鉄仮面のような女子だ。
神崎のような冷たい女は俺には怖くて「絶対に関わりたくない」と避けていた相手だ。そんな女が、今、わずか数十センチの距離で俺を睨みつけている。
その威圧感に、身体が染み付いた習性で勝手に跳ね起きた。
ガタタンッ!!
「あっ、大変申し訳ありませんでしたッ……!」
勢いよく立ち上がり、腰を深々と折って直立不動でペコペコと頭を下げる。
理不尽な客や店長に頭を下げ続けてきた、骨の髄まで染み付いた見事なまでの平謝りだった。
神崎は眉ひとつ動かさなかった。
俺の頭を下げる姿など視界にすら入れていないかのように、ツカツカと机の横に歩み寄ると、自分のスクールバッグをフックに引っ掛ける。
そして、椅子を引いて腰を下ろしながら、誰に聞かせるでもないトーンで、低く呟いた。
「……朝から邪魔なんだけど」
ボソリと吐き捨てられたその言葉は、小さかったが、間違いなく俺の鼓膜を刺した。
(な、なんだよあいつ……ッ!?)
頭を下げた姿勢のまま、額に嫌な汗が滲む。
確かに間違えて座ったのは俺だ。それは百パーセント認める。
だが、「邪魔」とまで言われる筋合いがあるか? まるでゴミを掃き出すようなその言い草は何なんだ。
思わず拳を握りかけた瞬間、ふと周囲の異様な静けさに気がついた。
シーンと静まり返った教室。
ざわめきがピタリと止まり、クラス中からの視線が、立ち尽くす俺へと集中している。
その冷え切った空気を感じた瞬間、胸の奥からドロリとした記憶が溢れ出した。
――ほら見ろよ、あいつ。
――うわ、何かやらかしたの?
――関わらない方がいいって。
クラス全員から嘲笑を含んだ冷たい目で見下ろされ、教室のあちこちからヒソヒソと嫌味や陰口が囁かれているような、強烈な錯覚。
かつて佐藤真として生きていた頃、失敗するたびに浴びてきたあの胃が縮み上がるような教室の空気が、フラッシュバックのように脳裏を支配する。
(やばい、やらかした……! クラス中から白い目で見られてる……!)
全身から血の気が引き、冷や汗が背筋を伝い落ちた――その時だった。
「ぶっ……! ギャハハハハハ!」
張り詰めた沈黙を切り裂いたのは、腹を抱えて笑い転げる星野莉子の声だった。
「あはははは! なにそれ佐々木! なんで神崎相手にガチの敬語使ってんの!? めっちゃペコペコしてんじゃん、ウケるんだけど!」
それを合図に、教室中がドッと暖かい笑いに包まれた。
「佐々木、お前ビビりすぎ!」
「『大変申し訳ありませんでした』ってなんだよ! 」
「神崎さん、佐々木くんに何したのー?」
「翔太がそんなボケかますの珍しすぎんだろ(笑)」
男子たちがドカドカと机を叩いて大笑いし、女子たちもクスクスと口元を押さえて肩を揺らしている。
冷笑や陰口などどこにもない。そこにあるのは、からかいと親愛に満ちた、どこまでも無害で陽だまりのような空気だった。
茫然とする俺の背中を、前の席の男子がバンと叩いた。
「おいおい翔太、自分の席忘れたのかよ! お前の席、その神崎のすぐ隣だろ!」
「……え?」
「神崎の左隣、窓から二列目の一番後ろだよ! ほら、さっさと座れって!」
背中を押されて、俺は神崎の席のすぐ隣――窓から二列目の一番後ろの席へと促された。
手に持っていたスポーツバッグを机のフックに掛け、椅子に腰を下ろす。
(隣だったのかよ……)
慌てて席に着きながら、俺は引きつりそうになる口元を必死に持ち上げた。
「あ、あはは……わりぃわりぃ、ちょっと寝ぼけててさ!」
何食わぬ顔で頭を掻いてその場を誤魔化すと、周囲の男子たちは「だと思ったぜー」と笑いながら自分の会話へと戻っていった。
だが、席に座った俺の胸の奥には、じんわりとした動揺が広がっていた。
(……全然、違う)
もし今の失態を、かつての「佐藤真」がやらかしていたらどうなっていただろう。
きっと教室中から気味悪がられ、女子からはヒソヒソと陰口を叩かれ、誰にもフォローされることなく冷ややかな目を向けられていただろう。
なのに、佐々木翔太がやれば、ただの「面白いボケ」としてクラス中が笑顔で受け入れてくれる。
失敗すら愛嬌になり、無様な姿すら人気を高めるスパイスになる。
あいつと俺とじゃ、立っている地面のルールそのものが違いすぎる。
胸の奥をチリチリと焼くような格差の現実に息を呑んでいると、前方の引き戸がガララッと乱暴に開いた。
「ほらー、お前ら席着けー。朝のホームルーム始めるぞー」
担任の声にさっきまで騒いでいた生徒たちがバタバタと自分の席へと戻っていく。教室の熱気がスッと引き、朝の静けさが戻ってきた。
担任は教卓にドサリと出席簿を置くと、ボールペンをカチカチと鳴らしながら、教室を見渡した。
「えー、出欠取るぞ。……ん? あー、水野は今日、体調不良で休みだと連絡があった。風邪流行ってるからお前らも気をつけろよー」
教卓からのその言葉に、俺の心臓がトクンと跳ねた。
水野栞。
昨夜のコンビニですれ違い、そして佐々木翔太の隣で幸せそうに微笑んでいた、あの水野。
教室を見渡してみると、前から三番目の女子の席が、確かにぽっかりと空席になっていた。
(そうか、今日は休みなのか……)
高校時代の水野に会えなかった落胆が、胸の奥をかすめる。
だが、担任の事務的な声は、それだけで終わらなかった。
「それから……あー、廊下側の一番後ろ。佐藤も今日は休みだな」
さらりと言われたその名前に、全身の産毛が逆立つような感覚を覚えた。
佐藤。
俺だ。
息を飲み込み、廊下側の一番後ろの席へと目を向ける
そこには誰も座っておらず、ぽっかりと空白ができている。
(……嘘だろ。俺、休んでるのか……?)
当時の記憶をいくら掘り起こしても、高校時代の俺はこの時期に風邪で休んだ記憶なんてない。何より無遅刻無欠席だけが唯一の誇りだったはずだ。
なのに、なぜ「佐藤真」が休んでいる?
俺が佐々木翔太の中に入っている今、本来ここにいるはずの「高校生の佐藤真」はどうなってるんだ?
自分の存在そのものが足元からグラグラと揺らぐような、底知れない不気味さに震えた。
だが、クラスの連中は誰一人として、その「佐藤の欠席」を気にする様子はなかった。
水野が休んだ時は「えー、栞ちゃん大丈夫かな」と数人の女子が心配そうに呟いていたのに、佐藤の名前が出た時は、誰も視線すら向けない。まるで最初からそこには誰もいなかったかのように、担任もそのまま次の連絡事項へと流れていく。
(……そうだよな。俺が休んだって、誰も気にしねぇよな)
かつての自分の影の薄さを、今この佐々木翔太の視点から、残酷なまでに思い知らされる。
「――よし、今日の連絡は以上だ。」
担任がパンと出席簿を閉じた。
ガラガラと引き戸の開く音がして、ホームルームが終わる。
その瞬間だった。
「翔太ーっ!」
「佐々木くん!私たちから朝練頑張った差し入れ!」
「翔太、放課後サッカー部でミーティングあるからな!」
「あ、佐々木くん! さっき校舎裏で後輩からもらってたやつ、あれ何ー!? ラブレターでしょ!」
ダムが決壊したかのように、男子や女子がドッと俺の机の周りに押し寄せてきた。
「え、あ、うわっ……!?」
先ほどまでの陰鬱な思考が、物理的な人の波によって一瞬で吹き飛ばされた。
机の上には冷えたスポーツドリンクやゼリー飲料、小包装のチョコやクッキーが次々と置かれていく。
机の横に立った女子たちが、身を乗り出すようにして俺の顔を覗き込んできた。
スカートの揺れる裾、ふわりと漂う柔軟剤や制服の甘い匂い、キラキラと輝く瞳。
「ねーねー、誰からだったの? 一年生?」
「翔太くん、告白されたのこれで今月三回目じゃない!?」
「いいなー佐々木、モテ男は辛いねぇ!」
「違げぇよ、ラブレターじゃなくて果たし状かもしんねぇだろ(笑)」
男子たちが俺の肩をバンバン叩き、女子たちがキャアキャアと黄色い声を上げて笑う。
目の前で繰り広げられる、圧倒的なまでの主人公空間。
全能感。圧倒的な承認。
五感のすべてが、自分を全肯定する甘やかな熱気で満たされていく。
(うっ、うわああああああっ……!!)
元の身体がどうとか。
あっちの自分がどこへ消えたとか。
そんなものは、この凄まじい快楽の奔流の前には、綺麗さっぱり消し飛んでいた。
(やべぇ……やべぇよこれ! モテるって、こんなに気持ちいいのかよ……ッ!!)
全身の細胞が歓喜に震えていた。
約三十年間、一度も浴びたことのない賞賛と好意。
誰もが俺を求め、誰もが俺を愛し、誰もが俺と話したがっている。
「いや、ラブレターっていうか……ほら、ただの、手紙だよ手紙!」
俺は鼻の下を限界まで伸ばしそうになるのを必死に堪えながら、照れくさそうに頭を掻いてみせた。
その仕草ひとつで、女子たちが「えー! 照れてるー! 可愛いー!」と大盛り上がる。
最高だ。
夢なら一生覚めないでほしい。
佐々木翔太の人生、美味すぎる。
あいつ、毎日こんな天国みたいな日常を送ってたのかよ!
群がる連中に適当に調子のいい相槌を打ちながら、俺はすっかり有頂天になって、差し出されたジュースをストローで一気に吸い上げた。甘い果汁が喉を潤し、頭の中は完全にピンク色の多幸感で塗りつぶされていた。
その熱狂の輪から、わずか数十センチ。
窓際の光を浴びながら、左隣の神崎凛だけは、群がる生徒たちを他所に静かに文庫本のページをめくっていた。
彼女の周囲だけ、完全に別の時間が流れているかのように冷え切っている。
イヤホンを耳に差し込み、一切の雑音を遮断した横顔は、彫刻のように美しく、そして残酷なほど無関心だった。
そんな彼女の冷たい空気すら、今の俺にはどうでもよかった。
(関係ねぇよ。お前がどれだけスカしてようが、俺は今、世界の中心なんだよ!)
二度目の高校生活。
底辺から一転して手に入れた、学年一の人気者の身体。
俺は満面の笑みを浮かべて、群がるクラスメイトたちの輪の中へと、自らどっぷりと身を沈めていった。
◇
そこからの学校生活は、まさに天国のようなボーナスステージの連続だった。
体育の授業――グラウンドでのドッジボールでは、足元が羽のように軽く、全身の筋肉が意志通りにしなやかに連動した。飛んできたボールを軽々とキャッチし、適当に腕を振って投げ返しただけで、唸りを上げたボールが相手コートの足元を鋭く射抜く。
女子生徒たちから「きゃー! 翔太くんかっこいいー!」と黄色い悲鳴が上がり、俺はまるでヒーローのように称えられた。運動音痴でボールから逃げ回り挙句の果てにはダサく当てられてたかつての俺とは、肉体そのものの次元が違いすぎる。
昼休みになれば、他クラスの女子生徒がおずおずと教室へやってきて、「佐々木くん、これクッキー焼いてきたんだけど……」と小箱を差し出してきた。
午後の授業中、ふとあくびをひとつ噛み締めただけで、前の席の女子が振り返って「翔太くん眠そう、大丈夫?」とクスクス笑いかけてくる。
(なんなんだよこれ……! 人生イージーモードにも程があんだろ!!)
かつての佐藤真が這いつくばっていた灰色の日常は、完全に脳内から消え去っていた。
佐々木翔太の身体、佐々木翔太の顔面、佐々木翔太のスペック。
それらすべてが俺のものなのだ。もはや元の自分に戻りたいなどと一瞬たりとも思わなかった。一生このまま、この天国で暮らしていたい。
放課後、サッカー部の軽いミーティングを適当に乗り切り、昇降口へ向かう。
下駄箱を開ければ、案の定、見知らぬ女子からの封筒がポロリと一通落ちてきた。
鼻歌まじりにそれを制服のポケットへ突っ込み、俺は校門をくぐった。
◇
茜色に染まる住宅街。
カバンを肩に引っ掛け、夕暮れの通学路を歩いているだけで、すれ違う他校の女子高生がハッと息を呑んで振り返る。
歩いているだけで世界が俺を中心に回っている感覚。全能感で胸がいっぱいだった。
――その時だった。
前方のコンビニの前を、見覚えのあるセーラー服の女子中学生が歩いていた。
少し癖のあるボブカットに、だらしなく背負ったリュック。片手にはコンビニのビニール袋を提げて歩くその横顔を見た瞬間、俺の足がピタリと止まった。
(……っ!? あいつ……)
佐藤結衣。
俺の――いや、「佐藤真」の妹だ。
今年で中学三年生。
かつての家での関係は、最悪の一言に尽きた。
暗くて部屋に引きこもりがち、何の取り柄もない兄を、結衣は心底ゴミのように見下していた。
「おい」と呼べば「話しかけないで、キモい」「洗濯物一緒に洗わないで」「早く視界から消えて」と、徹底的な塩対応と暴言を吐かれ続けていたのだ。
(げぇっ……結衣だ……)
反射的に身を引こうとしたが、ふと我に返った。
(……待てよ。今の俺は『佐々木翔太』だぞ)
結衣と佐々木翔太には面識なんてない。
あいつからすれば、俺はただの「道を歩いている見知らぬ男子高校生」だ。
怯える必要なんてまるでない。むしろ――。
(そうだ、結衣に探りを入れたら、あっちの俺の状況が分かるんじゃないか……!?)
家で佐藤真はどうなっているのか。
本当に「風邪で休み」として寝込んでいるのか、それとも――。
俺は佐々木翔太の爽やかな笑みを貼り付け、コンビニの前を通り過ぎようとする結衣へと歩み寄った。
「あ、ごめん。ちょっといい?」
「ひゃ、ひゃいっ……!?」
突然、見知らぬイケメン高校生に声をかけられた結衣は、跳び上がるように肩を震わせ、みるみるうちに耳の先まで真っ赤にして後ずさった。
視線が激しく泳ぎ、コンビニ袋を握りしめたまま完全にテンパっている。
家でゴミを見るような目をしていたあの妹が、見知らぬイケメンと目が合っただけでこれだ。優越感を覚えつつ、俺はできるだけ人当たりのいいトーンで切り出した。
「驚かせてごめんね。君、佐藤の妹さんだよね? 俺、同じクラスの佐々木って言うんだけどさ」
「え……? お、お兄ちゃんの、同級生……?」
「うん。今日、佐藤が学校休んでたから、ちょっと心配でさ。あいつ、どうしたのかなって」
クラスメイトを気遣う好青年を装って問いかける。
すると、結衣はホッとしたように胸を撫で下ろしながら、少し困ったように眉を下げて笑った。
「あー……お兄ちゃんのクラスの人だったんですね。お兄ちゃん、昨日雨に打たれて帰ってきたせいで、すっかり風邪ひいちゃって」
(……は?)
雨に打たれて、風邪?
俺が混乱している間にも、結衣は提げていたコンビニの袋を持ち上げて、恥ずかしそうに中身を見せてきた。
「だからこれ、ゼリーとかスポーツドリンクとか、食べやすそうなやつ買って帰るところなんです」
透けたビニール袋の隙間から、冷えたアクエリアスやパウチ入りの飲むゼリーが何個も覗いていた。
その瞬間、俺の脳天を冷たい衝撃が突き抜けた。
(……は???)
なんだそれ。
どういうことだ?
俺の知る佐藤結衣は、兄が風邪をひいて寝込もうが「部屋から出てこないで」「菌がうつるから息しないで」とドア越しに罵倒してくるような奴だった。
ゼリー? スポーツドリンク?
看病のために買い出し……?
あいつが、俺のために……?
(そんなこと、今まで一度だってされたことねぇぞ……!?)
目の前で恥ずかしそうに佇む結衣の姿に、得体の知れない違和感と寒気が一気に這い上がってくる。
だが――それ以上に確かな現実が、重たく突き刺さっていた。
昨日、雨に打たれて風邪をひいて、今、自宅のベッドで寝込んでいる男。
結衣が「お兄ちゃん」と呼んで、そのために看病のゼリーを買って帰ろうとしている相手。
(……いるのか)
俺の身体を持った『佐藤真』という人間は。
今、この世界で確実に生きている。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
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佐々木の人生イージーモード!!!!!!!!!?
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