表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アンドロイドオアロイド  作者: M. Chikafuji
アンドロイドオアロイド|リターンズ
13/27

向こうの方角は

 

 ごく自然に並びそびえる二つの鏡樹(ミラージュ)を交互に眺める。(ひし)葉はセト紀、(まる)葉はテータ紀。交わらない歴史を持つ原樹が、未開の古代森領域に共存している。


 そう……未開の古代森だ。今は亡きブラダリア古代森の復元、達成する国務への道筋に、私は思索を巡らせていた。


 透明な泡が大地から、ぽっかりと(うた)うように揺蕩(たゆた)う。それらは空から降る木漏れ()と交錯し、無音の輝きへと染み透っていく。この森に(ひそ)やかに流れてきたであろう歴史は、私が歩むべき道へと通じているはずだ。


 ふと、静かに湧き上がる物思いを切り裂くかのように、上方から降りしきる声を感覚した。アンドロイドの帰還だ。


「――ぅわぁぁあああ!!」


 金切りの高音から低音へと移ろう声色は、猛烈な速度のまま消えた。地鳴りと衝撃が円型に爆散し、私は転がりまわって背中を鏡樹(ミラージュ)に打ち付けた。くそっ、加減という言葉を教示する前にこれか!


 ざわめいて舞う緑葉をかきわけるように近付くも、アンドロイドの姿がない。そのかわり、姿がそのまま判るような無様(ぶざま)な形に穴があいている。着地というより、……墜落だな。


 私は右小指の悪趣味な指環(ゆびわ)にため息をひとつ吐き、空舞い(エアリア)を詠唱した。重い躯体(からだ)をどうにか引き上げてみれば、穴の形の通りに手足を曲げた不格好な姿勢のまま、アンドロイドは首だけを動かした。ぱちくりする両目が穴と私を交互に見つめる。



「この森,力学的にあり得ない現象ばかりだ」


「まず言っておく。最もあり得ないのは貴様だ」







───────────────────

アンドロイドオアロイド|リターンズ

───────────────────







 アンドロイドは両手で白服をはたきながら私に測定結果を報告した。



「見えない天井があって,加速度を上げても樹高までしか上昇できない.世界の(いただき)がこんなに近いなんて,旧ブラダリア領域での高度観測結果と矛盾するぞ.まったくもう」


「領域ごとに広さが異なるのは常識だ」


「私からすると驚きだよ,領域の高さ方向がこんなにも違うとはね.あの樹の高さはおよそ――0.34 light-µs(光マイクロ秒),君が走って20秒くらいの長さだろうに」



 根元からは先端の見えない鏡樹(ミラージュ)を仰ぐ。100等長は空としては低い方だが、あり得る高さではある。ただ、アンドロイドは様々な領域で青空の高さが同程度と思っていたようだ。異世界とは、なかなか想像しにくいものだな。



「とにかく、この世界では領域ごとに広さが異なるのは常識だ。そして、跳ね返って大地に沈むまで加速上昇するのは非常識だ。貴様は加減という言葉を心に刻め」


「加減,――集合に定義される二項演算のひとつだな.減法(ひき算)加法(たし算)の逆演算として定義できる.自然数(1,2,3,…)に加減を入れる場合には逆元(-1,-2,-3,…)が必要だ.さらに単位元0を導入すると整数が定義でき,」


「後にしろ、そんな話は!」


 異世界の技術用語はどこにでも潜んでいるらしい。私は右手で前髪をかきあげるように頭を押さえながら言い直した。


「手加減、という言葉をまず覚えることだ。いいか? 物事を、適切に、調節する、という概念だ。具体的には、こんな無様な穴をこしらえるような着地の仕方を見直せ」


「申し訳ない.まさか天空に頭をぶつけて弾性衝突――そのまま跳ね返るとは思わなかったものだから,空中調査の過程でかなりの加速度運動を」



 アンドロイドは自分で頭をなでている。乱れた金髪が肩口まで滑らかに流れ、土ぼこりが落とされる。あれだけの衝撃でももちろん無傷だ。私はもはや心配も驚きもなく、手振りで報告の続きを促した。



「樹高までの上昇高度では,この森の全景は観測困難だ.しかし,特徴的な景観が確認できたぞ.顕著な異方性――,向きによって性質が異なるという特徴だ.高所からあっちの空を観ようとすればすぐにわかる」


「貴様が言うに、向こうの方角は」


「――暗くて観えない」

「……暗くて観えない」



 樹々が隠す先を指差す私たちの声が重なった。


 左小指に結ばれたひと(ふさ)の赤髪を介して、魔力応答は(かす)かに感覚している。森の外から内側に行くに従い、暗黒が満ちているようだな。まるで、切り株の中央に穴があいたかのように。


 アンドロイドは虚ろに黒瞳を(またた)かせている。私からは、地上の様子を共有しておこう。鏡樹(ミラージュ)のつるりと滑らかな幹に右手のひらをおく。



「私はこれらの巨樹を魔術で鑑定した。そして私たちが現在、世界地図にも載っていない未開の領域にいることを確かめた。さらに言えばこの領域は……」


「……古代森だ」

「――古代森だ」


 再び重なる声に、私は右小指の指環(ゆびわ)に触れる。


「消滅種の原樹、鏡樹(ミラージュ)の詳細を伝えたつもりは無かったが」


「私自身の観測に加えて,君が持つ私の指趾部品(フィンガーパーツ)を介して共有される情報がある.国務の達成,古代森の復元に資する仮説が予測できた.それに君,ずいぶんとわくわくしているだろう」



 両頬を指で持ち上げるアンドロイドを見て、私は口に手を当てる。思いがけず笑みを浮かべていたらしい。わくわくしている……、まぎれもない事実だ。


 巡らせていた思索はすでに、辿るべき道筋に至っていた。私は黒きローブを大きく(ひるがえ)しながら宣言する。



「未知なる森奥に進み、この古代森の一部を旧ブラダリア領域に転移させる!」


「――ふむ,この近傍を転移するのでは不足というワケか」


「魔石の鉱脈をふくむ部分領域が転移対象となる。探すべきは森の奥、貴様の感じた暗闇の方角だ。詳細は歩きながら教示してやるとしよう」



 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ