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海賊のひまつぶし  作者: 櫂矢 真衣
聖女の出張懺悔室
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第47話 恋バナ

 盛大な見送りを受けて、一行は島を出た。

 ジョナサンは甲板で海図を広げて座り込み、目的地の方角を確認しつつ、クラフトと相談している。

 地獄と化した島、リバタリア。そこが次の目的地だ。

「えー、ここの岬を回っていくのが一番近いかな?」

「そうだな。僕もそのルートがいいと思う。途中で港町があるから、立ち寄って物資を補給していこう」

 二人は、瓶に詰めた果物のジュースを飲みながら話をしている。海の上では果物や野菜が貴重だ、という話を聞いた島民たちがしこたま持たせてくれたものだ。

「オッケー。じゃあ、それまでは漁をして過ごすか」

「漁? 食料ならまだあると思うんだが」

「外海にしかいない魚を捕まえて、干物にして港で売るんだよ。で、その金で俺らに必要なものを買う」

「ああ、なるほど。理にかなってる」

「じゃあ、俺が網投げるから……。お前って魚さばけるか?」

「そんなのやったことないぞ」

「じゃあ、教えてやるよ。よし! この先のはこんな感じの進め方でいいな?」

 勢いよく立ち上がり、網を投げて魚をとり、クラフトにやり方を教えつつ魚をさばく。

「私もやるー」

「私もー」

 エルモとメアリーもナイフを片手に手伝いにやってきた。

 しかし、ジョナサンはエルモの手に酒瓶があるのを見て、そのナイフを取り上げた。

「ちょっとー、なにするのよー」

「酔っ払いが刃物を持つな」

「わかった。じゃあ私、味見係する。酒のあてに良さげな干物、あるかな?」

「まだ干してないから生だぞ」

「じゃあ干す係やるよ。風通しがいい日陰だよね? 船倉でいい? 窓開ければなんとかなるかな」

「いや、あそこは他の食料に魚の匂いが移るとアレだし……」

 パチン、とデビーが指を鳴らした。

 すると、たくさんのラッコが海藻を持って泳いでくる。

「ジョナサン、ロープを張りなさい。そこに海藻を引っ掛けて簡単な日よけを作りましょう」

「ナイスだぜデビーちゃん!」

 こうして分担が決まり、魚を干す日陰を作り終えると作業が始まる。ただ黙々と作業をするのにも飽きてきて、ジョナサンはクラフトに話を振った。

「なあ、お前さあ、いいとこのボンボンなわけだけど、許嫁とかいたりするわけ?」

 ピク、とメアリーが顔を上げた。気になる話題なのだろう。メアリーが聞きたそうな話を引き出すことにしよう。

「いや、いないよ。領主の息子といっても、僕は五人兄弟の一番下だ。父上はなにか考えていたかもしれないが、聞かされていない」

 ほっ、とメアリーが胸をなでおろした。

 楽しくなってきたジョナサンは、このまま下世話な話まで行ってやろう、と質問を続ける。

「ほー、じゃあひとまず自由の身なわけだ。好みのタイプとかいるのか?」

「好み? 女性のか?」

「それ以外なにがあるんだよ」

「そうだなあ。誰と添い遂げることになっても、全霊を持って幸せにしなければいけないとは思うが、僕はまだそんな力のある男ではない。僕にはまだ早いと思うよ」

「いやいやいや。そういうクソ真面目な話じゃなくてだな。こういう女、グッとくるよなー、みたいな世間話だよ」

 ジョナサンは、重たくなった網を引き上げて、クラフトとメアリーに魚を回す。腹を切り開かれた魚はエルモの手に渡り、海藻の屋根の下に吊るされていく。

「内臓は俺らで食うから器によけといてくれ」

「これをか? あまりおいしそうには見えないが」

「新鮮なやつならうまいんだよ。漁師の特権だ。で? 女のタイプは?」

「そうだなあ……。しとやかで優しい子、とかか……」

 それを聞いた瞬間に、あぐらをかいて座っていたメアリーが即座に足を閉じて、女座りに姿勢を変えた。ジョナサンは内心で頑張れと声援を送った。

「そういう君はどうなんだ、ジョナサン」

 もう一度網を投げ、重たくなるのを待っているジョナサンに、クラフトが聞いた。

「へ? 俺?」

「そうだ。僕に聞いたんだから、君も話せ。どういう女性と所帯を持ちたい?」

 自分の方へ話が帰ってくるとは思っておらず、不意をつかれてジョナサンは焦った。

「俺は海と結婚したんだ。港で火遊びくらいなら、もうちょっと大人になったらするかもしれねーけど、多分結婚はしねーだろうな」

「君の方こそクソ真面目な話じゃないか。グッとくるだけでいいんだろう?」

「えぇ〜。そうだなあ……。俺と一緒におしゃべりしてくれる人がいいなあ。俺ってば村ではぼっちだったからさー。話の合う人に飢えてるっつーか。最近はみんながいるから大丈夫だけど」

「それは人間的な好みであって、恋愛的な好みとは別じゃないか?」

 ジョナサンは内心で「この鈍感野郎に恋愛云々言われるのはちょっと納得がいかないな」と思いながら、もう少し考えてみた。

「まあ、俺の一番はデビー様なわけだが……」

 言ってみてから、これも契約というか主従というか、恋愛とは違うよなー、と思うが、訂正する間も無く全員から非難が飛ぶ。

「考え直せジョナサン」

「えっ? ジョナサンってロリコン?」

「ジョナサン、最低」

 トドメに、デビー本人からの否定も飛んできた。

「わきまえなさい、人間風情が」

「わかってるよ! 誓って言うけどデビーをそういう目で見たことはねーから!」

 ジョナサンが否定すると、デビーが不機嫌そうに口を尖らせた。

「なに? 私が魅力的じゃないって言うの?」

「どうあがいても怒られるやつだなこれ」

 ジョナサンは、軽く膨らんでいるデビーの頬をつつきながら答えた。

「もちろんデビーちゃまは世界で一番かわいいぜ? でもまあ、そういう目で見たら人として大事ななにかを失うと言うか……。そもそも、俺はどっちかといえば年上が好みなんだよ。頼れるおねーさん的な」

 それを聞いて、メアリーがじっとジョナサンの方を見た。

「頼れる年上……? クラフトみたいな?」

「なんでそうなる。お前から見りゃ年上だろうが、俺から見れば同年代だっつーの」

「このままだとジョナサンにクラフトを取られちゃうかも……」

「大丈夫だから。お前が思ってるようなことは全くないから。な? オーケー?」

 ジョナサンが頑張って色々と話しているところへ、クラフトはよくわかっていなさそうな顔で口を挟んだ。

「なにが全くないんだ?」

「このかわいいお嬢さんは、俺とお前が健やかなる時も病める時も共に歩む間柄なんじゃないかと思ってるわけだよ」

 半笑いで説明するジョナサンに、クラフトは大真面目な顔で応える。

「僕はそのつもりだが。いかなる嵐にあおうともこの船を降りる気はない。君は違うのか」

 いまいち話が通じていない。ジョナサンはやけくそで叫んだ。

「ありがとよ相棒! 俺もだよ! でもそれ以上は勘弁してくれ! 殺されちまう!」

 不思議そうな顔をしているクラフトはひとまず放置して、ジョナサンはピストルを手元に引き寄せているメアリーの方を向いた。

「断じて違う。だから安心してそのピストルをしまってくれ。だいたい、俺もこいつも男だろ?」

 しかしメアリーは、目にかすかな闘志を浮かべたまま、ジョナサンをじっと見て言った。

「男なんて穴があればなんでもいいんだから気をつけなさい、ってママが言ってた」

 ジョナサンは心の中で「なんつーこと教えてんだあの女」と毒づきながら、努めて冷静にメアリーをたしなめる。

「そんなお下品なこと言ってると、クラフトに嫌われちまうぞー」

 メアリーはハッとして、大慌てで両手を使って口を塞いだ。

 その様子を見て、エルモが笑う。

「いや〜、若人の恋模様を眺めることほど楽しい娯楽はないよね〜」

「このやろう。面白がってねーでお前も話せよ。どんな男が好みなん……聖職者はそういうの禁止なんだったか?」

「そこは宗派によるかな。それも変な話だと思うけど」

「変? なにがだ?」

「神様がさ、言ったらしいの。「産めよ、増えよ、そしてこの大地を満たすのだ」って。要するに「さあ、ガンガンおヤりなさい」とおっしゃったわけじゃん? なのに神のしもべたる聖職者が所によってはえっち禁止って、なんか変じゃない?」

 ジョナサンは大慌てで目の前にいたメアリーの耳を塞いだ。もう手遅れかもしれないが、子供にはまだ早い。

「さてはお前かなり酔ってるな? ほどほどにしろよ?」

 ホッとしたのもつかの間、ジョナサンはクイと自分の服の裾が引っ張られるのを感じて振り返った。

「今の、どういう意味? やるってなにを?」

 デビーが不思議そうに首を傾げている。

「くそう! 手が回らねえ! クラフト! 今度からはきわどい話題が出たら一緒にお子様の耳を塞いでくれ!」

「ふむ。今のはよくない話なのか?」

「お前もかよチクショー!」

 ジョナサンは、末っ子だからって子供扱いされ続けた結果なんだろうなー、と苦笑いを浮かべた。

「エルモ! もうちょっと遠回しに言ってくれ! 単刀直入すぎてびびる!」

「あれれ? 坊やには刺激が強かったかな?」

「お手柔らかに頼む……。わりとマジで……」

「オッケー。じゃあ、マイルドに言い直すけど、子沢山の家庭っていいよねー。笑顔溢れる感じのさ。憧れちゃうなー。旦那にするなら男らしい人がいいな。神様よりもそっちを優先してもいいってくらい、迷いなく導いてくれる人とか理想だよね」

 やれやれと溜息をつくジョナサンをよそに、クラフトは落ち着いている。

「ふむ、ではエルモはいずれ結婚するつもりがあるのか?」

「今のところはないよ。でもそうだな。昔はいたんだ、好きな人」

「えっ、そうなのか?」

 ジョナサンが言うと、エルモは少し寂しそうに笑った。

「まあ、昔の話だよ。おねーさんには色々あるの。そうだな、みんなには話しとこうか。これから行く場所にも、関係があることだし」

 魚の開きを吊るす作業を続けながら、エルモは話を始めた。


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