第23話 おばあちゃんの昔話①
「私がまだ若い頃の話です。その頃の私は旅をしてましてね。ええと、どのあたりであった話だったかしら」
「いくつくらいの頃?」
「二十を少し超えたあたりでしたねぇ」
「ああ、その頃なら、東の方にいたって言ってなかった?」
「そうそう。東の方だったわ。ありがとうねえ。ずっと遠くの方の海沿いの村に行ったんですよ。綺麗なところでしたよ。あそこの海はね、陽の当たり方のせいかしら? それとも潮の流れのせい? ともあれ、海水が深い緑色なの。ああ、そうそう。それとね、渦潮がよく起こるんですよ」
「旅人の身で見るぶんには楽しいだろうけど、住んでる人的には大変なんだろうなあ。だって、渦潮なんて出てたら漁に出られないじゃないか」
「大丈夫ですよ。その村には不思議な神様が祀られていたんです。海辺の祠にね、厳重に鍵をかけて御神体をしまいこんでました。ずっと昔に海からやってきた神様だそうでね。海が荒れたり、不漁が続いたりした時には村のみんなでお参りするんですって。そうすると、なんとかしてくれるんですって」
「その話本当なの? そんなすごい物あるわけないと思うんだけど。おばあちゃん、話を盛ってるんじゃない?」
「本当ですよ。信じられないって思うかもしれないけど、私は嘘なんて一つもついてません。……ええと、なんでしたっけ?」
「海沿いの村に神様がいるって話だよ」
「そうそう。そうでしたね。私はその当時、旅をしながら商人みたいなことをしてまして。ちょっとしたからくり仕掛けの機械を売ってたんです。昔のことですから、今よりも発達してない物でしたけどね」
「大変だったでしょ。そんなの大荷物になるに決まってるじゃん」
「大丈夫でしたよ。あの頃は私も若かったし、力持ちの連れがいましたから」
「ああ、知ってるよ。ボクの父さんのお姉さんでしょ? いくら力持ちだって言っても、女二人じゃやっぱり大変だったんじゃないの?」
「ええ、まあね。護身用の銃は必需品でした。でもまあ、やってみればなんとかなるものですよ。私たちは、その村に立ち寄って、村長さんから商売の許可をもらった時、その祠の話を聞きました」
「よそ者にそんな大事なこと教えちゃったの?」
「ええ。「絶対に近づいてはいかんぞ」って怖い顔してました。村のルールだから、守らないようならただじゃおかない、ってことですよ。私たちはそれを守りました。ですがある朝、私たちは怖い顔をした村人たちに取り囲まれました。どうやら祠から御神体が消えてたようでね、「御神体を盗んだな!」って疑いをかけられたんです。もちろん、私たちじゃありません。でも、村人たちはここに住んでる者が犯人なわけないから、あんたたちしかいない、ってね」
「ひどい話だなあ」
「私たちは言いました。「私たちじゃありません。もし犯人なら、とっくに逃げ出しているはずです」ってね」
「そりゃあそうだ」
「でも村の人たちは納得してくれません。そこで、私はこう持ちかけたんです。「それなら、私たちが真犯人を見つけます。そうすれば、疑いも晴れるでしょう」そう言うと、村の人たちは渋々納得してくれました」
「おばあちゃん、度胸あるなあ」
「うふふ。やだわぁ、そんなんじゃないんですよ。そうでも言わなきゃ、海に沈められるところだったんです。ええと、それでね、私たちは……どうしたんだったかしら」
「もー、しっかりしてよおばあちゃん」
「ええっと、そうそう。問題の祠を調べに行ったんですよ。その祠はね、自然にあった大きな岩をくり抜いて空洞を作ったものでした。その岩の周囲を石造りの建物で囲んでいてね、扉は木材だったかしら。しっかりした鍵がついていたんですけど、扉は派手に破壊されていました」
「その村の人、バカだなあ。女の二人連れに、そんな力技できるわけないじゃないか」
「ふふふ、そうですね。連れもそう言って怒ってましたよ。扉は壊され、御神体は持ち去られていて祠の中は空っぽでした。破壊された祠を確かめにきた村人の足跡が、砂浜を荒らしていました」
「どうやって犯人を探したの?」
「私たちは、まず足跡を辿りました。犯人が何者であれ、この祠の前にやってきたからには、足跡が残っているに違いない。そう思ったのですが、全ての足跡は村の方からやって来て、村の方へ帰っていました」
「じゃあ簡単じゃないか! 犯人は村の方へ行ったんだ」
「でもそうなると、犯人は村の人か私たちだって言うことになってしまう。村の人は御神体に手を出すはずがない。すると、残るは私たちと言うわけです」
「いやいや。おばあちゃんがそんなことするわけないよ。村の誰かが盗んで行って、おばあちゃんたちに罪を着せようとしたんだ」
「ふふふ、あなたはいい子ですねぇ。ええと、なんだったかしら」
「犯人は村人の誰かだって話でしょ?」
「いやいや。違うんですよ。私は、最初に祠が壊されているのを見つけた人に「祠が壊されているのを見つけた時、砂浜に足跡はついていましたか?」って聞きました。するとその人はハッとして「そういえば足跡なんてどこにもなかった」って言ったんです」
「ええ!? じゃあ、犯人には足がないってこと? ……もしかして、お化け?」
「うふふ、違いますよ。私はこう考えました。波が足跡をさらって行ってしまったんだろう、って」
「ああ、潮の満ち引きで? そんなうまくいくものなの?」
「いくんですよ。だって、犯人は御神体を持っているんですから。それがあれば、御神体ににお願いすれば、海の様子は都合のいいように変わる。ちょっと波を起こして砂浜をならすくらいなら、簡単でしょう」
「じゃあ、手がかりゼロってこと?」
「そうです。だから、なんとかしてもう一度犯人をおびき出すしかない。私は村長さんに、わざと噂を流すようにお願いしました」
「噂?」
「村長さんは、私の意見を汲んでくれました。「みんな、御神体が盗まれたことは不安に思わなくていい。実は、御神体は二つあって、もう片方は家の蔵に隠してある」って言いふらしてくれたんです」
「ああ、なるほどね。そうすれば、犯人はもう一つの御神体も狙ってくるってことか」
「ええ。祠の扉に使われていたの木材は、硬く丈夫で、少々値の張る種類でした。それが持ち去られていないと言うことは、犯人は小金かせぎの泥棒じゃなくて、最初から御神体だけが目当てだと言うことです」
「へー! おばあちゃんすごい! 犯人は来たの?」
「ええ、来ましたとも。私と連れは、村長さんの蔵の前で待ち伏せしました。夜、みんなが寝静まり、波の音だけが聞こえる時間。月の綺麗な夜でした。不審な人影が、村長さんの家の敷地に忍び込んだのです」
「うわ、大丈夫だった? そんな危なそうな奴、どうやって捕まえたの?」
「私は手にした銃を、泥棒に突きつけました」
「……えっ」
「「死にたくなければ両手を上げて跪きなさい」って言うと、泥棒は私たちの方へ向かって走って来ました。勝てると思ったんでしょう。私は泥棒の足を打ち抜きました」
「おばあちゃん?」
「逃げられないように膝の関節を撃ち抜いて、頭に銃口を突きつけました」
「待って待って。えっ? それおばあちゃんの話だよね?」
「私は聞きました。「今ここで頭に風穴開けられるか、御神体を返すかどちらがいいですか?」って」
「嘘でしょ? おばあちゃんがそんな怖いことするわけ……」
「うふふ、私は嘘なんて一つもついていませんよ」




