幸せの資格 その1
「なんでも成功間違いなしの愛の告白スポットあるらしいだわさ」
「ふーん」
「およよ? 反応薄いね」
「だって彼氏とかいないし」
「ははっ。これからできるよ、なっちゃんなら」
「どーでもいいよ。でも、どこなんそこ?」
「なにさ、やっぱ気になるんじゃないか」
「あー、そういうこと言う!」
「あははっ。ウソウソ。どうも山のほうにある展望台のことらしいのね。小学校の遠足で行かなかった? あそこさ、見晴らしいいじゃん。街を見渡せてきれいなんだよなー。で、そこでプロポーズしたらいまのところみんな成功してるんだってさ。だから市の観光課も現在注目中のスポットらしいよ」
「へえー。けどさ、それ逆なんじゃない?」
「うーん? どういうこと?」
「市の観光課が注目スポットにすべくそういうウワサ流してるってこと」
「ほっほー。なかなかうがった意見だわさ」
「ウワサなんてそんなもんよ。あそこの景色がきれいなのはほんとだけどね」
「いつかはダーリンと見にいきたくなりますわなあ」
「エッちゃん彼氏いるんか」
「おらんが?」
「そう……」
二人の少女たちはそんな話をしながら歩いていく。なっちゃんと呼ばれていた方の少女はその場所に行こうと思った。願いや想いが渦巻く場所に『歪み』は生じやすいのだと前島さなえから聞いていたからだった。
放課後の図書室でその話を聞いた前島さなえは短い黒髪を揺らしながら笑った。
「いいかい。そういう幸せスポットに『歪み』は出てこないよ。そういう場所にあるのは現実を変えてしまいたいという歪んだ想いじゃないだろ?」
春野ナツコは不満そうに言う。
「えー。でもさ必死な想いはいっぱいあると思うよ。一世一代のプロポーズだもん」
「恋愛には打算がつきものだ。そこでプロポーズするという時点である程度は勝算があるんだろ。ただの儀式みたいなもんだね」
「どうかなあ。自分だったらどんなに相手を信頼しててもこわいんだけどな。だからこそそういうジンクスのある場所で告白するんだと思う」
「臆病なんだな」
「そこは慎重と言ってくれ」
「ふふふ」
「ふふふ、じゃないがな。……もしか前島さんはもう儀式通過済み?」
「どうかな。仲のいい男の子はいたけど」
「なになに? この高校の生徒?」
「いいや。前にいた『学園』での話。ただその子とはもう会えないかな」
「えー。なんかジメジメしてんなあ」
「そうかな。ジメッとした関係ではなかったけど」
「その男の子とはどこまでいったの?」
「どこまでって、そんなあれじゃないよ。ただ気が合うだけの仲だったってくらいでそんなやましいような関係じゃない」
「ふーん。じゃあその子とやましい関係になりたかったん?」
「言いたくないよそんなの」とさなえはそっぽを向いた。そんな様子をみてナツコはにやにや笑った。
「いいねえ。前島さんも恋してたんだねえ」
「じゃあさ春野さんはどうなの?」
「わたしは保留中かな。正直まだそういう感情と仲良くなれてないんだ」
「どういうこと? あ、いや言いたくないことなら別にいいけど」
「なんだろうね。わたしはまだまだ子どもなんだろうなあ。さっさと前島さんみたいに大人な恋をとっくり味わいたいな」
「別にそういうやつじゃないって」
「ナハハ! 知っとる知っとる。なんか似たような奴がわたしのちかくにいてね、うちのクラスの瀬田っていうんだが。そいつめっちゃめちゃ美人なんだが昔の淡い恋に後ろ髪を引っこ抜かれててさ、誰から告られても全部断ってんだよね。ああいうやつが『歪み』量産してんじゃないかな。この高校の男子どもの恨みめっちゃ買っとるであいつ」
「へえ。そんな人いるんだね」とさなえは関心したように言う。
「おるおる。あ、もしかさ、そういう成功ジンクスのある場所で断られたらさ、めっちゃ現実歪ませたくならないかな?」
「……展望台のウワサのことか」
「そうよ。どうかな?」
「うーん。ありそうだけどわからないな。正直場所によるよ。『歪み』が出やすい土地ってのもあるんだ」
「ねえねえじゃあさ、今から行ってみようよ。ちょうど夕日がキレイなときに着くだろうし。一緒にみたいな」
「まあ見にいくのは構わないさ。暇だしね」
「オッケー。じゃあいこ。司書さんにお腹痛いから帰るって言って来るから先に校門行ってて」
「その言い訳通用するのか……」
バスをいくつか乗り継いで二人は展望台のふもとへとたどりついた。入り口にある公園を抜けて緩やかな坂を上りきると展望台となる。そこには先客がいた。若いカップルだった。男が花束を女に差し出した。女は一瞬花束に手を伸ばしてから、首を振り無言で男から離れ去った。男は呼び止めるが、女はそのまま二人の横を抜けて坂へと駆けて行った。
「やっばぁ」とその様子を見たナツコは呟く。
「花束あってもふられちゃうもんなんだな」とさなえは言った。ナツコは一度坂のほうを見てから男の方へと歩み寄った。スーツを着た男は膝をついてうつむいている。
「もう終わりだ。どうしてだ、なぜだ、みつこさん。俺は何を間違えたんだ。ちくしょう、ちくしょおおお」
「お兄さん、追いかけたらいいんじゃない? あの人泣いてたよ」とナツコは声をかけた。
「え?」
「キラって涙が光ってたよ。ほら、早く立って追いかけないと。女は追われたいもんだよ」
「え、まじか。お、俺、あまりにキモすぎて逃げられたのかと」
「知らんけど。ここでうつむいてたほうがキモいよ」
「ぐぅうう。……うっす。間山誠一、いきます!!」
男はそう言って立ち上がり女を追って走り出した。花束は地面におかれたままだった。さなえはその花束を手に取る。
「どうしようか」
「追いかけて二人のいるとこで渡すのがベストだよね」
「まあ、そうなるか」
「走らなくていいな。捕まえてからちょっと話すだろうし」
「だろうね。こっそり近くの地面においておくか」
「うーむ。恋のキューピッドって感じ」
二人はそんなことを言い合いながら男のあとをゆっくりと追った。




