表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クオリア—あゆむとヤクザの約束—  作者: Tatsuya.Miwakami
21/30

21 対決

 五十嵐の乗った車は首都高芝浦出口から一般道に降り、倉庫街に入った。

一帯は碁盤の目のように、巨大な倉庫やコンテナの山が立ち並び、慣れないと迷子になるような区画だ。時折大型のダンプが走り抜ける以外に人の気配は全く無く、不気味な静寂に包まれている。

 運転席の山崎がカーナビを確認する。

「社長、この辺りです。倉庫は・・・S-221でしたね」

「その真ん前で降ろしてくれ」

「わかりました」

車は対面の路肩に停車し、山崎がハザードを灯ける。


「社長、あの向かいの倉庫です・・・」

「山崎、悪かったな。朝から急に呼び出して。助かった」

「・・・・・・」

「あ、あの社長!ここで一体何を・・・?」

山崎は後ろを振り返り、思い切って聞いた。

後部座席から降りかけた五十嵐が一旦動きを止める。

「千尋さんに・・・何かあったんですよね!?」

山崎の語気が強まる。

「・・・山崎。お前は何も知らない。ただ俺を運んだだけだ」

五十嵐は包帯の隙間から覗く目で、僅かに微笑んだ。

「片付いたら連絡する。どこかで待機しててくれ。今日の手当はもちろん出す」

「社長・・・手当とか・・・そんなこと言わないでください・・・」

山崎は五十嵐を慕っていた。

「わかった。兎に角、お前を巻き込みたくないんだ」

五十嵐が頭を下げる。

「わかってくれ」

「・・・わかりました。必ず、ご連絡ください」

山崎は五十嵐が車を降りると、品川方面に走り去った。


 五十嵐は指定された倉庫まで松葉杖で歩くと、巨大な倉庫を見上げ額の汗を拭う。

「ふぅ・・・」

屋根までおそらく15メートルはある。横幅も20メートル近い大きさだ。

一息ついた五十嵐は、右側にある扉から中に入った。

だだっ広い倉庫は照明を落とし、真っ暗で何も見えない。

五十嵐は取り敢えず大声で叫ぶ。

「黒田!俺だ五十嵐だ!」

しんとした庫内に五十嵐の声が響く。

「クソ・・・」

まだ暗闇に目が慣れず、五十嵐は目を細める。

その時、20メートルほど先の天井のライトが一箇所だけ点灯し、スポットライトの様に真下を明々と照らした。

ライトの下に、手足を縛られた下着一枚の千尋が浮かび上がった。

「千尋っ!」

五十嵐が思わず叫ぶ。

千尋は反応しない。

どこかから黒田が大声で返す。

「五十嵐!・・・いい女だなぁ」

嫌らしい含みの混ざった声色だ。

「黒田ぁ!きさまっ!」

激昂した五十嵐が、闇の中勢いで前に飛び出す。

しかし、まだまともに歩けない五十嵐はもんどり打って倒れこんだ。

次の瞬間、鼻先を何かがかすめ、コンクリの床に突き刺さった。すぐ目の前で微かに震えながら鈍く光るのは、ボウガンの矢だ。

暗闇からヒュンという風切り音を引き次々に放たれた矢が、間一髪で床を貫く。

五十嵐は腹ばいのまま匍匐ほふく前進で物陰に急ぐ。

ずんという鈍い衝撃が左足に走る。

「うっ!」

かろうじて物陰に隠れた五十嵐の左足の石膏に、アルミ製の矢が鈍い光を放ち刺さっていた。

「クソッ・・・黒田・・・」

言いながら五十嵐は矢を抜き、コンクリに投げ放つ。アルミの甲高い音が庫内に響き渡る。

「どうした?五十嵐ぃ!女を助けなくていいのか!?」

「ここまで取りに来れれば、返してやる!」

黒田が勝ち誇ったように叫ぶ。

黒田のかたわらのマサルが小声で囁く。

「黒田さん・・・本当に・・・返すんですか?」

「バカかてめぇ。狩りを楽しんだら、二人とも始末する」

「そ、そうスよね・・・」

マサルは黒田のおぞましさにぞっとした。


「くそ・・・どうしたら・・・」

五十嵐は、高く積まれたパレットの陰で考えを巡らせていた。

その時だった。


「アニキさん・・・」

「え?」

「アニキさん、あゆむだよ」

いつもより声を落とし小声で囁く歩の声がする。下の方からだ。

五十嵐が下を向き左右を見ると、ジャケットの左のポケットがぼんやり明るい。

まさかと思いポケットに手を突っ込むと、コロボの体に触れた。

五十嵐は慌ててコロボを引っ張り出す。

「あゆむお前、どうして・・・」

五十嵐も囁く。

「アニキさんたいへんそうだったから・・・ポケットにかくれてついてきた」

「アニキさんごめんなさい・・・」

「おま・・・バカ野郎・・・」

言葉とは裏腹に、五十嵐から笑みがこぼれる。


「アニキさん、わるいやつと、たたかってるの?」

「ああ、千尋をいじめてる奴がいるから、懲らしめにきた」

「うん」

「ただ、ちょっと分が・・・アニキさんピンチなんだよ」

五十嵐が力なく笑う。

「アニキさん、ちょっとまってて」

そう言うと歩は、意識の世界に戻った。


 痺れを切らし黒田が吠える。

「おい五十嵐ぃ!てめぇ何ボソボソ言ってる?」

「目の前で輪姦まわされてぇのか?」

「うるせぇ!待ってろ!てめぇのせえで、まともに歩けねえんだよ!今出てってやる」


 その時歩が戻り囁く。

「アニキさん。右にずっといくと、ひとりいるよ」

「何?」

「アニキさんのとこから、みぎいってみぎにいくと、わるいやつがいるの」

「あゆむお前、なんでわかる!?」

倉庫内は暗闇だ。目が慣れたとは言え、積まれたパレットで全く先が見えない。

「あのね。このお家のカメラで見てるの」

「このお家のカメラ・・・?」

「歩っ!監視カメラか!」

歩は、庫内の天井の四隅に取り付けられた監視カメラのデータにアクセスし、黒田達の配置を把握したのだ。

五十嵐はパレットに隠れ少しづつ右の角まで行き、さらに右に曲がると息を殺し進んだ。遠くにうっすらと、ボウガンを構える人影が見えてきた。まだ五十嵐には気づいてない。

その時、コロボがジャケットのポケットから飛び出し、変な声を出しながら人影に走って行った。

「お前はすでに死んでいる!」

コロボはそう叫んでいる。

不意を突かれた人影は驚き、振り向きざまコロボのライトに向けボウガンを放つ。

五十嵐も必死に人影に近づく。

矢はコロボを掠め、後ろのパレットに突き立つ。

敵が次の矢を装填する間隙をつき、五十嵐は右手の松葉杖を逆手に持ち、大振りに真横にスイングした。

遠心力のついた松葉杖の横木が、敵の頬骨を砕いた。衝撃が五十嵐の肩まで響く。

「あぐぁっ!」

敵は激痛にくづ折れる。

敵が放り出したボウガンを五十嵐はすかさず奪い取り、すぐ先のパレットに身を隠した。すぐにコロボが合流する。

「ふぅ・・・」

額に汗を滲ませ、五十嵐はパレットに体を預けた。

「あゆむお前、さっきのケンシロウじゃないか」

五十嵐が思わず笑う。

「なんかね、アニメのところからもってきた」

「お前・・・たいした6歳だ」

コロボと五十嵐は顔を見合わせ笑った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ