22 希望
五十嵐が倉庫に入る少し前、歩の病院では、主治医の伊達と歩の両親が話をしていた。デスクのパソコンには歩の脳波計のグラフが表示されている。
「じゃあ先生、歩にその・・・意識がある可能性があると・・・」
南美も真も、信じられないといった面持ちで伊達を見る。
「ええ。ただ、あくまでも可能性ですから、過度な期待はしないでください」
「脳波専門の病院で詳しく調べてみる必要は、もちろんあります」
「でも先生、そんな、不確実な状態でなぜ私たちに話してくれるんですか?」
南美が尋ねる。
「はい。それは、ご両親が歩君に意識があると信じて呼びかけ続けることで、意識が戻る可能性を高められるんじゃないかと、そう思いました」
「科学的な根拠はないですよ」
「いえ、先生。ありがとうございます!」
「なんだか、希望が湧いてきました!」
南美と真は顔を見合わせて頷く。
「お二人なら必ず、そう仰ると思いました」
伊達が笑顔で答える。
診察室を出た三人は歩の病室に向かった。
病室の扉を開けながら伊達が、
「あらためて脳波計を見てみましょうか。通常の状態を覚えておけば、変化が生じた時に気付きやすいですから」
とベッドを囲うカーテンを開いた。
すると、歩の脳波計のグラフが大きく上下に振れている。
伊達が慌てて脳波計に駆け寄りモニターに顔を近づけ、食い入るように見る。
「佐藤さん!これですっ!この動きです!」
興奮した伊達が目を見開きモニターを指差す。
「β波が活発に・・・信じられない・・・なぜだ・・・」
伊達はモニターと歩を交互に見比べる。
歩の外観はいつもと変わらずに、穏やかに寝ているだけだ。
南美と真もベッドに駆け寄り、両側から歩の顔を覗き込む。
「あ・・・」
南美が何かに気づく。
「歩の・・・先生、歩がうっすら汗をかいています」
「え!?」
伊達も歩に顔を近づける。
「たしかに・・・本当にほんのうっすら、汗ばんでますね。歩君が意識不明になってから、初めて見ました…」
「歩、あゆむ」
「あゆむ!」
2年間眠り続けている歩の意識が戻るかもしれない。南美と真は必死に歩の名前を呼び続けた。
倉庫で五十嵐と合流した歩の脳波計は、上下に激しく折れ線を描いていた。




