二千二百 SANA編 「感情の発露」
七月六日。水曜日。晴れ。
なんか世間では、線路に落とし物をして非常ボタンを押した乗客の騒動が話題になってるらしい。
しかもその時の駅員が激昂してる様子を動画に撮ってアップしたとか。
そういうことが簡単にできてしまう世の中なんだなっていうのを改めて思い知らされた。だけど僕は、駅員の態度は確かに褒められたものじゃないんだろうけど、僕自身は怒鳴ったりとかしないようには心掛けてるけど、人間である以上は『つい』ということがある事実も無視するつもりもないんだ。ましてや今回の件は、乗客側の非常に危険な行為がきっかけだったらしいし。
大切なのはその『つい』を正当化しないことであって、乗客側に問題があったのならそれはそれできちんと対処しなきゃいけないと思う。人命に関わるような状況でもない限りは非常ボタンの乱用は法律にも触れることだろうしね。
ひっきりなしに電車がくるような駅じゃ、それこそ迂闊な真似はできないだろうし。
こういう時も、『お客様は神様なんだ!』的な思い上がりが表面化するんだろうな。お客だからってなんでも自分の思い通りになると考えるのはおかしいというのをちゃんと教わってないんだろうって気がする。
だから僕は、沙奈子や玲緒奈の前でそういう態度は取らないように心掛けてる。玲那が遭遇した、いつものスーパーでのシステムトラブルの際も彼女がキレて店員を怒鳴りつけるようなことをしなかったのは、親として誇らしい。
決していい加減な対応をしてたわけでもないなら、システムトラブルは現在の社会ではどうしたってついて回るリスクだろうしさ。携帯電話会社での大規模通信障害もそうだよね。これについても、利用者である波多野さんも田上さんも、Wi-Fiを通じてアプリで連絡を取り合うという形で対処して、冷静な対応を心掛けてくれてた。そういうのも、沙奈子や千早ちゃんや大希くんや結人くんや一真くんや琴美ちゃんへの手本になってくれると思う。
『お客は決して神様じゃない』
っていうね。
『批判』はあって然るべきだと思うよ。でも、『罵詈雑言』や『罵倒』は、決して『意見』じゃない。自分の意見をきちんと相手に届けるための努力を排した単なる『感情の発露』なんじゃないのかな。
『SANA』に事前の申し込みもなく一方的に押しかけてその様子をネットにアップした人も、『自分はお客だから何でも言うことを聞いてもらえて当たり前』って考えてるからそんなことができたんだろうし、結果、他のお客の反感を買って炎上して、アカウントを削除してしまった。そんなことになってほしくないんだよ。




