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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千百九十五 SANA編 「買い物帰りの」

七月一日。金曜日。晴れ。




ついに七月。終業式は二十日で、そこからは夏休みだ。だけど、連日大変な酷暑で、『災害級の暑さ』とも言われてるみたいだ。


実際、身の危険を感じるほどの暑さなのは、玲緒奈れおなの散歩に出掛けてるだけでも感じる。だから、日が暮れて影がたくさんできてきた頃に影の中を選んで歩くことを、心掛けてた。でも今日は特に危険を感じたから、散歩はやめて、プールで遊んだ。


「わぎゃーっ!」


と玲緒奈は大はしゃぎ。楽しそうで何よりだ。


絵里奈はこのところずっと『SANA』の本社の方に出勤してて、毎日、僕が玲緒奈の散歩をしてる。代わりに絵里奈は、仕事帰りにスーパーに寄って買い物をしてくれてる。いつもの大型スーパーとは方向が逆だから、別のスーパーだけどね。


でも、


「自転車に乗ってるだけでも暑くて」


と、辟易した様子。だから、会社への行き帰りは、Tシャツの下にスポーツブラ。腕には日焼け防止のアームカバー。手には白い手袋。頭にはツバ広の帽子。ボトムは風通しのいいメッシュ生地のジャージという、色気の欠片もない格好になって自転車に乗ってるって。オフィスに到着したら着替えて、帰る時にもまた着替える。これは、玲那も同じ。玲那の方がちょっとだけ『スポーツしてる人っぽい印象がある』だけかな。


さらには、霧吹きで、お互いのTシャツやボトムがびしょ濡れになるまで水を吹いた上で。


確かに女性としては有り得ない格好かもしれないけど、別に誰かに認めてもらうためのそれじゃないし、どうでもいい誰かから評価されるよりもまず自分の安全を守ることが優先だよ。そこまでやっても、会社や家に着く頃にはからっからに乾いてるそうだ。これは僕も、打ち合わせのために会社に行くことがある場合には、ずっとそうしてた。格好悪くても、僕には守りたい家族がいるから、どうでもいい誰かの印象を良く保つよりも、家族のために自分の安全を取る。


見ず知らずの誰かの印象を優先したいと言う人はそうしてればいいと思うけど、僕たちはそうじゃないというだけだ。


家に帰ってきた時の二人の姿が、


『買い物帰りのおばちゃん』


そのものでも、僕は二人を愛してる。無事に帰ってきてくれたことに感謝する。それ以外のものは要らない。命を懸けてまで『綺麗』でいてくれることを僕は望まない。僕にとって絵里奈と玲那は、


『僕の目を楽しませてくれる人形』


じゃないんだ。人形は死なない。でも、人間は、死ぬときは容易く死ぬ。僕の両親が、玲那の両親が、山仁やまひとさんの奥さんが、絵里奈の叔父さんのお子さんが、英田あいださんのお子さんが、思いがけず亡くなったみたいにね。その現実を知ればこそ、まず自分の身を守ることを優先したいししてほしい。その結果、見た目が『買い物帰りのおばちゃん』になったところで、気持ちが冷めたりはしないよ。それで冷めるような相手なら、僕は結婚なんかしてない。そんな相手としなきゃいけないほど、僕は結婚なんかしたいとも思ってなかった。


相手が絵里奈だったから結婚したし、玲那だったから家族になったんだ。



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