二千百九十一 SANA編 「自分たちのニーズに」
六月二十七日。月曜日。晴れ。
『電力供給が逼迫している』
そんなアナウンスが政府からされてるそうだ。僕たちも、無駄遣いはしないように気を付けつつも、冷房の温度設定は二十八度にした上で扇風機を使いつつも、『エアコンを使わない』という選択はさすがにできない。
特に、玲緒奈が過ごしているウォール・リビングがある二階では。
ただ、一階に『人生部の部室』を作ったことで三階はほとんど使わなくなって、当然、三階のエアコンも使わなくなった。一階は『SANA』の事務所があった時は朝から夜までずっと使ってたから、沙奈子たちが学校に行ってる間は使わなくなったこともあって、我が家全体では電気の使用量は減ってる。
その一方で、『新しい本社』ができたから、実際にはそんなに変わってないのかもしれないけど。
でも、新しい本社があるテナントビルは基本的に『全館空調』で、空き部屋になっていても空調は切られることがなく、それだけ無駄になるそうだから、『SANA』の本社が入ったからといってそれほどビル全体としての空調のための電力使用量が極端に変わるわけじゃないらしい。そういう意味では、結果的に節電の役には立ったのかもしれない。
だけど同時に、一階に入ってる電気店に合わせた温度設定がされてるから、
「正直、うちみたいに閉じたオフィスだと冷えすぎる傾向にあるかな。でも、一応、吹き出し口については個別に開閉できる仕様にはなってるから、吹き出し口を八割がた閉じた状態にして漏れ出てくる冷気を扇風機でかき回すようにしてる。それでちょうどいい感じなんだ」
と玲那が言っていた。この辺りはそれぞれメリットデメリットがあるんだって実感させられるな。そのテナントビルの場合、一階の電気店がどうしても一番の大口顧客になるからそれを優先してるみたいだし。
なんでも自分の思い通りにはいかないということだね。思い通りにしたいなら、自分たちのニーズに合わせた自社ビルでも建てるべきということかな。そんなことができるかどうかは分からないし、たとえ自社ビルを建てるにしても、費用とか工法とかとの兼ね合いで、完全に思い通りにはならないんだろうな。さらには、なるべく思い通りにしようとして建てても、実際に出来上がったものが想像通りのものじゃなかったなんて話もありそうだ。
だからやっぱり、その時その時で工夫するしかない気もする。沙奈子や玲緒奈にも、何もかもが自分の思い通りに行くわけじゃないというのを、改めて分かってもらわないといけないなって感じるよ。




