二千百八十九 SANA編 「その実感を相手に」
六月二十五日。土曜日。晴れ。
昨日は暑かった。だから玲緒奈の散歩も、日が傾いて影がたくさんできるようになってから、影の中を歩くようにして散歩した。
そして沙奈子たちは、熱中症を警戒して、ハイヤーで水族館に行ってた。星谷さんが手配してくれたハイヤーで。
これについても、『甘やかしてる』とか言う人もいるかもだけど、玲緒奈はまだ幼くて対処する能力が育ってないはずだし、沙奈子たちは平日は学校まで歩いて登下校してたりするからね。体育の授業もある。そうやって暑い中で行動するということをしてる。だったら、避けられるものは避けてもいいんじゃないかな。そこで無理をさせて熱中症とかになっても、『甘やかしてる』とか口にする人は責任を取ってくれないしね。だから、意見は意見としてそういうのもあるんだとしても、僕たちがそれを聞き入れる必要は感じない。
責任を負うのは僕たちなんだから。
つくづく思う。『責任は取らないのに一方的に押し付ける』なんてのは、本当に卑怯だなって。責任を負うつもりもないのに一方的に押し付けることで自分はいいことをしてる気になりたいだけとか、意味が分からない。
そんな行為がどれだけの問題を起こしてきたのか、事件にまでなったものもあるのに、あれこれ指図してその結果、子供が亡くなったりしてる事件まであるのに、その裁判も最近あったのに、どうしてそこから学ばないのか、僕には分からないんだ。
仕事上の業務命令とかは、その命令を出した会社側にも責任が生じるし、実際にその責任を問われることもある。なのに、個人的に押し付けてきた人はその責任を負おうとしない。責任を持たない個人の言ってることなんて、聞かなきゃいけない義務なんてそもそもないはずだよね?。
管理しきれないリスクを冒してまで暑い中を自転車で行く必要もないよ。そのリスクを管理するために費用を充てることもする。今回は、星谷さんが千早ちゃんと大希くんのための用意したハイヤーを利用するだけだから、僕はその費用を負担していないけどね。その分、星谷さんには感謝しなきゃと思う。たとえ、千早ちゃんと大希くんのためにしてることのついでだとしても。
素直に感謝したいと思える相手だし。
そうなんだ。星谷さんは『素直に感謝したいと思える相手』なんだ。彼女がそれだけの努力をしてくれている実感が確かにあるから、素直になれる。
そうじゃない相手だったら、ここまでは思えなかったと思う。だからこそ、自分もその実感を相手に持ってもらえるような人間でいなきゃと感じるよ。




