二千百七十四 SANA編 「古いスマホ」
六月十日。金曜日。晴れ。
それぞれどういう考え方をしてても勝手だとは思うけど、それを他者に押し付けるのは本当に勘弁してほしい。僕は実感として『子供用ハーネスの実用性』を理解したから、これからも使う。だらんと紐の部分を伸ばして使えばなるほど『犬の散歩』のようにも見えなくないとは思うけど、それは逆に危険だとも感じたし、そういう使い方はしない。
『自分がスマホをいじりたいから子供から目を離しててもどっかに行ってしまわないように紐で繋いでる』
という使い方をするつもりもない。僕はそこまでスマホに依存してないし。歩きスマホをする人が本当に増えてきた気がするけど、しかも結構な年齢の本当に『いい大人』までが歩きスマホをしてたりするけど、それに対して注意をするつもりもない。沙奈子や玲緒奈に対しては注意もするつもりでも、沙奈子はそもそもスマホをほとんど使わない。
実は、沙奈子に持たせてるスマホは、電話としての契約をしていない、『ただの小さなタブレット』だった。それでも、Wi-Fiを通せば電話のように通話ができるアプリも入れてあるから、連絡をするには困らない。重要な個人情報が一切入ってないからいざとなればフリーWi-Fiを使えばいいし、水族館に行く時には玲那か星谷さんが一緒だから、テザリングという形でネットに繋ぐこともできる。
だけど、沙奈子はネットそのものをほとんどしない。SNSも見ない。興味がないそうだ。と言うか、ネット上に溢れる悪意を敬遠してる感じさえあるかな。
千早ちゃんや大希くんは普通にスマホも使ってるけど、沙奈子がそういう形でスマホにあまり触れないことについては何とも思ってないそうだ。
「別に使わなきゃいけないものでもないしね~」
「うん。僕も、『電話もできるゲーム機』くらいにしか思ってないかな」
ってことだった。結人くんも沙奈子と同じで電話として契約してない中古品を鷲崎さんに買ってもらってWi-Fiを通じて通話できるアプリも入れてもらってたけど、
「なんかこういうチマチマしたの好きじゃないから……」
と言ってやっぱりほとんど使ってない。アプリを使った通話も、千早ちゃんからの着信ばかりで結人くんからはほとんどかけたこともないって。
一真くんと琴美ちゃんはそもそもスマホを持ってない。だから、
「僕が前に使ってたのをあげるよ」
大希くんが、もう電話機としては使えない古いスマホを初期化した上で、Wi-Fiを通じてなら通話もできるアプリを入れて渡してた。
「いいのか……?」
一真くんは申し訳なさそうにそう言うけど、大希くんは、
「うん。どうせ家に置いといても使わないし、店に引き取ってもらうくらいなら一真に使ってもらった方がいい」
笑顔で言ったんだ。




