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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
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二千百七十三 SANA編 「これほどひやりと」

六月九日。木曜日。晴れ。




今日も絵里奈と玲那は出勤してて家にはいない。だから沙奈子たちが学校に行ってる間は僕と玲緒奈れおなだけだ。その玲緒奈は、


「ぶおーっ!。うばーっ!!」


と雄叫びを上げながらウォール・リビング内を駆け回り壁に体当たりをし、テレビをモニターにしたビデオ通話の画面に時々顔を出す絵里奈や玲那を見ると、


「ママっ!。おねちゃっ!」


テレビの前のトンネルに突進。どすん!と揺さぶる。この調子だからもう何度も何度も補修してきて、壁もトンネルもすっかりボロボロだ。もっと体が大きくなってくるとそれこそ耐えられなくなるだろうな。だから、二歳を過ぎたくらいを目途にウォール・リビングを解体しようかと思ってる。持ち堪えられる間はそのままにするつもりだけど、壁を破壊したり乗り越えることができるようになったらもう意味がないしね。


それでもここまで、玲緒奈のことでそんなにひやりとさせられたことはなかった。だけど、これまでベビーカーでのお散歩だったのを歩いてのそれにすることになったから、『子供用ハーネス』を用意する。


そして今日がそのデビューだ。


「ぶおっ!?」


羽の付いた小さな小さなリュックみたいなハーネスを体に着けると、玲緒奈はなんだかとても興奮してた。そんな玲緒奈を抱いて家を出る。もっと暑くなってきたら日が高い間は避けようと思いつつ、今日はそんなに暑くないから、お昼前に散歩に出ることにした。僕も仕事は休憩だ。


鍵を閉めて、玲緒奈を下ろして、事務所の前を通っていつもの散歩コースを二人で歩く。


「うおっ!。うおっ!」


玲緒奈は自分の足で歩けるのが嬉しいらしくて、ぐいぐいと前に進んでいく。その手をしっかりと掴みながら、でも同時に、ハーネスの端を僕の手に巻き付けた上で握っておく。犬の散歩みたいに伸ばしてはおかない。これはあくまで万が一の時のための『命綱』。自動車のシートベルトや高所作業の時に付ける安全帯と同じで、そればっかりをあてにするためのものじゃないと自分に言い聞かせる。普通は安全帯でわざとぶら下がったりしないよね?。そういうことのはずなんだ。


だけど、玲緒奈は興奮してぐいぐい前に行こうとして、僕の手を振りほどきそうになる。しかも、道の反対側を大きな犬が散歩してるのを見て、


「いぬっ!」


って叫んで飛び出そうとして、危うく手が外れそうになった。慌てて掴み直したけど、ここで掴み損ねて玲緒奈が走り出して、そこに自転車とかバイクとか自動車とかが通りがかったりしたと考えたら、ゾッとする。今までこれほどひやりとさせられたことはなかったのに、玲緒奈自身も歩いての散歩の初日でこれとは、他の誰かが何と言おうと僕は子供用ハーネスをしっかり使おうと思った。


玲緒奈を育ててるのは僕なんだ。見ず知らずの赤の他人じゃない。



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