二千百三十八 SANA編 「またケーキを焼いて」
五月五日。木曜日。晴れ。
行政が、一真くんと琴美ちゃんのことを特別扱いできないのなら、僕たちがそれをすればいい。そもそもそんな義務のない僕たちが自主的に二人の力になるだけなら、文句を言われる筋合いもない。
『他にも苦しんでる子供はいる!。そういうのは見殺しにするのか!?』
とか言う人もいるかもだけど、そう思うのなら自分が力になればいいんじゃないの?。僕たちには、正直、一真くんと琴美ちゃんの力になる程度の余裕しかないよ。
それでいて、二人の両親に勝手に使われてどこかで盗まれてもいいと考えて自転車を買ってあげられるほどの余裕はないけど。
自分にできる範囲でそれをするのがコツだと、僕は山仁さんから教わった。山仁さんも自分にできる範囲で、千早ちゃんのことも波多野さんのことも沙奈子のことも力になってくれてたんだ。なにかすごいことを、自分にできる以上のことをしてたわけじゃない。
そして一真くんと琴美ちゃんのことについても、
「私も、警察には少しは顔が利きますので、何かありましたらおっしゃってください。できることならお手伝いします」
と言ってくれてる。僕は警察にはまったく知り合いがいないから、正直、助かるな。だけど、一真くんと琴美ちゃんの両親をどうにかするためにという形では動けないのも分かってる。あくまで何かあった時に二人を保護するためにってだけだよね。波多野さんが家出してきた時に山仁さんが保護してくれたみたいに。
「だからもし、二人が家出とかして来たら、うちで保護しようと思う。それでいいかな」
沙奈子と絵里奈と玲那を前にして、玲緒奈を抱きながら僕が言うと、
「うん、お願い……」
「はい、もちろんです」
「そりゃもう、あの二人なら大歓迎だよ」
と言ってくれた。玲那の『あの二人なら』というのも本音ではありつつね。
そして今日、『こどもの日』ということもあって、千早ちゃんがまたケーキを焼いて、二人にご馳走してた。
「美味しい!」
「美味しい……」
一真くんも琴美ちゃんも、嬉しそうに食べてくれる。一真くんは少し遠慮しながら。琴美ちゃんは無表情なままで。だけど、それでいい。沙奈子だって千早ちゃんだって結人くんだって、すぐに変われたわけじゃない。時間を掛けて少しずつ周りの人を信頼していいって分かったから安心できていっただけなんだ。二人もまさにこれからなんだよ。僕たちがいかに二人にとって信頼できる大人でいられるかが、大事なんだ。
本当なら世界で一番信頼できるはずの両親がそうじゃなかったんだから、簡単に信頼できるようになる方がおかしいと思う。




