二千百二十五 SANA編 「我儘を言えるように」
四月二十二日。金曜日。曇り。
沙奈子の場合は、彼女の父親である僕の兄が逃げ回ってたから児童相談所としても把握できなかったから対処ができなかった。
千早ちゃんの場合は、母親はすごく真面目に働いてて、でも『家庭の方針で厳しい躾をしていた』ということで、経過観察中だった。
結人くんの場合は、沙奈子のと同じで母親が逃げ回ってたから把握できなくて対処ができなかった。
それに対して一真くんと琴美ちゃんの場合は、今この時点ですぐに対処しなくちゃいけないほどの緊急性がないということに加えて両親が非協力的で対処に踏み切れずにいる状態だってことだね。
以前、塚崎さんが『このところ上手く対処できない事案が続いていて』的なことを口にしてたけど、まさに一真くんと琴美ちゃんの件がその一つだったんだろうなって察せられてしまった。
僕たちにはその問題そのものに対処する力はないけど、でも、一真くんと琴美ちゃんが逃げ込める場所を提供する程度ならできるから。
このことについて、家族で話し合う。
「もし二人が、千早ちゃんみたいに僕たちのことを必要としてくれるなら、力になりたいと思うんだ」
僕の言葉に、絵里奈は、
「そうですね。千早ちゃんにとっての山仁さんみたいな存在が二人には必要だって感じます」
と言ってくれて、玲那も、
「うん。私もそう思う。様子見てても、沙奈子ちゃんに意地悪するようなタイプじゃなさそうだし、アリなんじゃないかな」
賛同してくれた。だけど二人がそう言えたのは、沙奈子も山仁さんのところでずっとお世話になってたという事実を実際に見てきたからだと思う。そういうのがなかったら、さすがに赤の他人の子供にまでそこまではできなくて当然だと僕も思うんだ。山仁さんがしてきたことが、こうやって繋がってるんだよ。
さらに沙奈子も、
「私も、そうして欲しい……」
と『我儘』を言ってくれた。他の人とまともに話をすることもできなかった沙奈子が、ただただ怯えていただけだった沙奈子が、我儘を言えるようにまでなってくれたんだ。
しかも、沙奈子は他者の悪意に対してすごく敏感だ。その沙奈子がこうまで言うってことは、一真くんも琴美ちゃんも、自分から進んで誰かを傷付けようとするようなタイプじゃないということだって気がする。僕が二人を見た印象も、どちらかと言えば沙奈子に近くて、つらいことがあってもじっと耐えるタイプなんだろうなってものだった。
これがもし、館雀さんのようなタイプだったら、とてもじゃないけど受け入れられないよ。僕たちは決して『聖人』じゃないからね。




