二千百二十二 SANA編 「友達ができた……」
四月十九日。火曜日。晴れ。
今日、学校から帰ってきて三階に上がった沙奈子が、
「友達ができた……」
とビデオ通話越しに口にした。
「え……?」
モニターに映し出されたまさかのそれに、一瞬、意味が頭に沁み込んでこない。だけど少しして、
「友達ができたって……?」
問い返す形で言葉が出てきた。そんな僕に対しても沙奈子は淡々とした様子で、
「うん……」
って。
すると、大希くんが、
「実は、うちのクラスに『釈埴さん』っていう男子がいて、沙奈が察したんです。『自分と同じだ』って。それで話を聞いてみたら、ホントに大変な家庭事情があるみたいで」
説明してくれた。そこにさらに、千早ちゃんが、
「そうそう。親がこれまたまともに仕事にも行かないで遊び倒してるっていう、うちに輪をかけてヤバいあれで、就学支援を受けた上で奨学金を釈埴自身が全部自分で手続きして申請したっていう筋金入りなんですよ」
と補足説明を。
もう話を聞いてるだけでもかなりの問題がある家庭だっていうのは察せられてしまった。
千早ちゃんは続ける。
「そんなだから児童相談所からも睨まれてるらしくって何度も面会しようとしてきたのをのらりくらりと躱し続けてるってことです。沙奈や結人と比べたら命に関わりそうなほどの虐待があるわけじゃなさそうですけど、そのせいで余計に児童相談所も強引なことができないみたいで。だけど小学生の妹もいるって言ってましたから、かなり厳しそうなんですよね」
残念なことに、そういう家庭はまだまだ他にもあるんだっていうのを思い知らされてしまった。沙奈子や結人くんよりはまだマシだとしても、少なくともお母さんは看護師として真面目に働いてた千早ちゃんの家よりは深刻な状態だっていうのが改めて伝わってくる。
その上で、千早ちゃんは、
「でも、釈埴本人はすごくいい奴だと思います。だから今度、連れてきてもいいですか?」
と言ってきた。すかさず沙奈子も、
「お願い、お父さん……」
って、『お願い』を……。
改めて驚かされる。彼女はこれまで、僕に対してそんな風に『お願い』することはあまりなかった。それこそ、ジグソーパズルを欲しそうにしたり、人形の服を作るためのあれこれだったり、お風呂に一人で入るのが怖くて僕に一緒に入ってもらいたがったりという程度で、本当に我儘を言う子じゃなかった。その沙奈子がそれを口にするんだから、
「パパ……」
絵里奈も僕を見詰めてくる。それを受けて僕は、
「分かった。いいよ」
応えてたのだった。




