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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
2111/2601

二千百十一 SANA編 「いよいよ高校生活が」

四月八日。金曜日。晴れ。




今日は沙奈子の入学式。時間は午後二時から。一階ではもう沙奈子と結人ゆうとくんと鷲崎わしざきさんが準備を済ませてる。そこに、


「こんにちは!」


「こんにちは」


「お邪魔します」


千早ちはやちゃんと大希ひろきくんと山仁やまひとさんの気配。


そしてせっかくだからもちろん、僕と絵里奈も参列する。玲那に玲緒奈れおなを任せて。


そうするとまた、


「ぶるうああっ!、パパッ!。あぶるるる!、ママッ!!」


玲緒奈はとても不満そうに声を上げる。自分を置いて僕と絵里奈がどこかに出掛けるつもりだというのを察したみたいだね。となれば僕は敢えて彼女の前で膝を着いて顔を寄せて、ピシャン!!と頬をひっぱたいてもらった。その上で、


「ごめんね。今日も沙奈子お姉ちゃんにパパとママを貸してあげてほしいんだ」


と告げる。そんな僕を見て玲緒奈は、


「ぶーっ!!」


口を尖らせて頬を膨らませながらも、今度は僕を叩いてこなかった。『お姉ちゃんのためなら』と我慢してくれたのかもしれない。


こうしてちょっとずつちょっとずつ、いろんなことを分かっていってもらうんだ。


『何もかもが自分の思い通りになるわけじゃない』


ということと同時に、


『どこかに出掛けても少しの間だけ離れ離れになっても、パパとママはちゃんと帰ってきてくれる。自分のことを好きでいてくれる』


ということを実感してもらうんだよ。その実感があってこそ、安心できると思うんだ。その実感もなしに離れ離れになると、やっぱり不安だと思うんだ。


『大丈夫』って思えるようになるにも、時間がかかると思う。僕はそれを忘れない。


「ありがとう、玲緒奈。大好きだよ。愛してる」


笑顔で声を掛ける。ぷいっと顔を背けて拗ねた様子を見せたって、玲那のところに走っていって抱き付いたって、彼女の思い通りにしてあげられていないのは事実だから、不満を持たれたって当然なんだ。


「じゃあ、行ってきます」


僕と絵里奈の方を見てくれない彼女に笑顔で手を振って、一階に降りる。そして気持ちを切り替えて、


「この度は、ご入学おめでとうございます」


「おめでとうございます」


「おめでとうございます」


山仁さんと僕と絵里奈と鷲崎さんとで挨拶を交わし、


「それじゃあ、行こうか」


と言いながらも、家の前でまず写真を撮ってから、学校に向かう。沙奈子はブレザーとスカート。そして千早ちはやちゃんはブレザーとスラックス。スラックスなのは大希ひろきくんや結人ゆうとくんと同じでも、ブレザーの合わせの向きは当然ながら女子用な上に何となく胸があるのは察せられるから、ちゃんと女子だって分かるね。別に違和感もない。


これは僕がイチコさんや波多野さんの姿を見慣れてたからというのもあるとしても、イチコさんや波多野さんが、


「別に女子トイレに入ってっても騒がれたことなんてないよ」


「そうそう。『え?』って表情かおをされることはあってもすぐに女子だって察するみたいだしね」


と言ってたのも頷ける。そんな千早ちゃんが今履いてるのは、イチコさんから譲ってもらったスラックス。波多野さんのはまだサイズが大きかったそうだ。正直、まだ全員、制服が体に馴染んでないのもあって初々しくて、微笑ましいな。写真には、沙奈子はいつもの落ち着いた様子で、千早ちゃんはニカっと笑顔のVサインで、大希くんは小さくガッツポーズで、結人くんは照れくさそうに少し視線を逸らして、みんなそれぞれ性格が現れてる様子で写真に写ってた。写真を撮る時だけマスクを外してね。


それから全員で歩いて学校に向かう。時間は三十分ほどかかるけど、みんなで一緒に歩けば遠くない。ただ、天気がすごくよくて暑いくらいだ。


学校に着くと、卒業式と違って予行演習ができなかったからか、生徒と保護者は別々になっても、受付を済ませていろいろ書類が入った封筒を渡されてから体育館にそのまま入って、式が始まるのを待つ。


そして時間が来ると、開式の挨拶があって、国歌静聴があって、校歌静聴があって、校長先生の挨拶があって、担任教師の紹介があって、祝辞の紹介があって、それで式は終わった。やっぱり卒業式に比べるとあっさりだったな。鷲崎さんはまた感激して泣いてたけどね。


それから生徒は各教室に行って、保護者は体育館に残って、提出する諸々の書類の説明とかを受けた。


だけどこうして、沙奈子と千早ちゃんと大希くんと結人くんは、いよいよ高校生活が始まったんだ。



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