二千九十二 役童編 「どうしてこんなに違うの?」
三月二十日。日曜日。晴れ。
今日、社会的にも大変な注目を浴びた事故の遺族が、その事故に絡んでネット上で誹謗中傷されたという件で、参考人が任意で警察に事情を聴かれたらしいというニュースが流れてた。
玲那の事件の時にも、デマを拡散したり、そのデマに基いて無関係な人を中傷したり、玲那が以前住んでいたマンションに落書きをしたという人らが刑事告訴されたってことがあったのに、それから何も学んでいないんだね。
ネットは、決して『異世界』なんかじゃないんだよ。現実世界の一部でしかないんだ。だから現実世界の法律が適用される。ネットを使った誹謗中傷や侮辱についても厳罰化しようという動きがあるらしいけど、そもそも僕は、沙奈子や玲緒奈にそんなことをさせようとは思わないんだけどな。だからちゃんと良くないことだと教えるし、何より、そんなことで憂さ晴らしをする必要がないようにしなきゃいけないと思ってる。
むしろ、世の中の親が、自分の子供がそんなことをしてるのをなぜ放置してるのかがまったく理解できない。自分の子供が、他所様をそんな風に攻撃するようなタイプかどうかを見抜けないのが理解できない。沙奈子がそんなことをするタイプじゃないのは見てれば分かる。そうやって他所様をサンドバッグにせずにいられないほど鬱憤を溜めているなら、普段の様子に表れると思うんだけどな。分からないのなら、それは『見えない』んじゃなくて『見てない』だけじゃないの?。それか、『苛々してるのが普段の様子』なくらい、日常的に追い詰めてるってことじゃないのかな?。
だけど、他所様を使って鬱憤晴らしをさせていいわけないよね?。だって、他所様には自分の子供の鬱憤晴らしに付き合わなきゃいけない義務も義理も何一つないんだから。
まさか、いい歳をした大人がそんなことも分からないって言うの?。親なのに?。それだけ人生経験を積んできてるのに?。
確かに僕の両親はそれをまったく理解してなかったみたいだけどね。兄が鬱憤を自分たちに向けようとしてたら、むしろ他所様に向けさせようとしてたくらいだから。
そう言えば他にも、『給食を食べるのが遅いから』なんて理由で、一人の子を同級生が八人がかりで殴る蹴るってしたってことがあったらしいね。どうして『給食を食べるのが遅い』程度のことでそこまでする必要があるの?。意味が分からないんだけどな。しかもそれを『ポピュラーな遊び』とか、学校側だったか教育委員会だったかが言ってたらしいね。
おかしいな。沙奈子たちが通ってた小学校じゃ、そんなのは『ポピュラーな遊び』どころか、大問題になるのにな。だって、普段から当たりがきつくてさらに夏休みの工作を壊した時点で『イジメの疑い案件』として対応してくれるくらいだったから。どうしてこんなに違うの?。




