二千九十 役童編 「隠されていた真実に」
三月十八日。金曜日。雨。
沙奈子たちが無事に卒業式を終えられたその一方で、関東一都三県で先週の月曜日から再延長された緊急事態宣言はまだ続いてる。
これについても、いろいろな意見があるけど、判断に必要な情報を持っていないから、その是非についてあれこれ言おうとは思わない。
玲那も、
「まあ、言いたいことはいろいろあっても、いかんせん私たちが確認できる情報じゃ、はっきりしたことは何も言えないよね」
肩を竦めて首を振ってそう言った。
陰謀論とか何とかについても、僕にはまったく分からない。そんな陰謀があるのなら、どうして人口爆発を起こしている国々に対して手を打たないの?。そんな策謀を巡らせている組織が本当にあるのなら、どうして対抗する組織がちゃんと存在しないの?。もしそういう組織が秘密裏に動いているんだとしたら、正しいことしてるならなぜこそこそしないといけないの?。堂々と表に出てきたら暗殺とかされるから?。そんな簡単に暗殺されるような『正義の組織』なんて役に立つの?。
『秘密裏に活動している正義の組織は苦戦している』
なんて、典型的な『判官贔屓を誘うための演出』だよね?。漫画やアニメや映画の中でそういうのが出てくるのは面白いのかもしれないけど、現実の中でそんな危うい組織に運命を委ねるとか、正気とは思えないんだけどな。
そもそもその『正義の組織』は、本当に『正義』なの?。それが正義だと、誰が?、どうやって?、証明するの?。
それを正しいと言ってる人たちは、
『子供をこの世に送り出したのは親の勝手でしかない。前もって子供にそれについて承諾をもらったわけじゃない』
『親が子供を育てるのは、子供を勝手にこの世に送り出した責任を果たしてるだけ。育ててやってるとか恩を売れるとか、そんな考えは成立しない』
ってことについてはどう思ってるのかな。特に、家庭も持ってる中高年で陰謀論を信じてる人たちは、子供を『生んでやって』『育ててやってる』という認識について改めることができてるの?。これまでは親は子供を『生んでやって』『育ててやってる』というのが常識とされてたかもしれないけど、冷静に客観的に見たらそうじゃないって分かるんだけど、その辺りの認識を更新できているの?。
できていないのなら、
『隠されていた真実に自分は気付けた!』
なんてとても言えないと思うんだけどな。だって、『親が子供に事前に承諾をもらって生んだわけじゃない』というのは、別に隠されてるわけでも何でもない、まぎれもない事実だよ?。どうしてそれすら認められない人が、『隠されていた真実に気付ける』の?。




