二千八十五 役童編 「迷惑行為」
三月十三日。日曜日。曇り。
昨日は天気が良かったから、沙奈子たちも水族館に行ってきた。本当にこれだけ毎週のように行っててよく飽きないなと思うかもしれないけど、沙奈子は行くたびに違う生き物を熱心に見てるから、『飽きる』とかそういうのじゃないんだろうな。他のお客の邪魔にならないようにはしつつ、と言うか、その辺りは沙奈子自身は集中すると周りが見えなくなるから、玲那や星谷さんや千早ちゃんや大希くんや結人くんが、気を遣ってくれていた。
こういうところも、そんな風に沙奈子を理解してくれてフォローしてくれる人がいるのはすごく大事だと思える。じゃなきゃ、きっと、これまでにも何かトラブルになってただろうな。
沙奈子にとってはドレスのデザインの着想を得るための大事なそれでも、他の人からすれば『ただ場所を占拠してるだけの迷惑な子供』だからね。理由があれば場所を独り占めしていいわけじゃない。そういうことも沙奈子自身はもう分かってくれてても、とにかくスケッチとかし始めるとそれに没頭しちゃって周りが見えなくなるんだ。
ある種の才能に秀でた人ってそういう一面があるらしいね。そんな人が理解されるためにも、周囲の協力が必要なんだと思う。それが単なる『迷惑行為』になってしまったら意味がないと思うんだ。迷惑行為にならないようにフォローしてくれる人が周りにいてくれてようやくちゃんと価値が生まれるんじゃないかな。
最近、人に迷惑をかけてその様子を動画配信して再生数を稼ごうとする人もいるらしいのは、僕も知ってる。でも、沙奈子や玲緒奈にはそんな風になってほしいとは思わない。そんな形で有名になってほしいとも思わない。
その一方で、沙奈子のドレスを嫌ってる人たちもいる。彼女が懸命に作り出したそれを貶して罵倒して蔑む人たちも。そういう人たちにとっては、それこそ沙奈子がドレスを作ること自体が『迷惑』だったりするんだろう。そういう意味での『迷惑』については、逆に気にしないようにしなくちゃいけないというのもあるんだろうな。
『自分の好みに合わない』
『自分の価値観に合わない』
そんな理由で誰かを攻撃できる人って何を考えているんだろう。そういう人たちの行いは、沙奈子のドレスを楽しみにしている人たちからすればそれこそ『迷惑行為』にあたるよね。
一口に『迷惑』と言っても、様々な角度で見るとまったく意味が違ってしまう。迷惑でさえなくなってしまうこともある。その辺りについても、沙奈子や玲緒奈には知ってもらわないといけないな。




