二千八十 役童編 「兄はまさにそれを」
三月八日。火曜日。晴れ。
自分の子供に対して雑に乱暴に威圧的に面倒臭がりながら接してたのが、そのまま他の人との接し方になっていく場合が多い気がする。
自分自身が親になって、沙奈子や玲緒奈と接していると、それをすごく実感させられた。親の子供への接し方と同じように他の人に接してる人って多いんじゃないのかな?。相手がちょっと自分の思い通りに動いてくれなかったらすぐに苛々して態度や口調が乱暴になったり、一方的に命令するような言い方をする人って、多いよね?。だけどイチコさんや大希くんはそんなことしないよ?。山仁さんの接し方によく似てるんだ。そして山仁さんは、他の人に対して丁寧に接するのと同じように、イチコさんや大希くんと接してきたって。
『自分とは別の人間』として。だからイチコさんも大希くんも、物腰はとても柔らかい。相手を威圧したり命令口調で話したりしない。イチコさんはフランクな印象だけど、それは彼女の元々の性格なのかもしれない。フランクで、ともすれば『無礼』って言われそうな話し方だったりするのにそんなに不快な印象がないのは、相手を馬鹿にしてるわけじゃないのが伝わるからかな。山仁さんも二人を馬鹿にしなかったそうだし。
子供は経験が決定的に不足してて未熟だから上手くできないけど、だからってそれを馬鹿にするのは違うと思うんだ。未熟で大人と同じことができないからって親が子供を馬鹿にしたりしてるから、『自分と同じことができない相手を馬鹿にする』人がこんなに多いんじゃないの?。学歴とか職業とか年収とかそういったものでマウンティングを図って相手を馬鹿にする人が。
そう考えるとすごく納得できてしまう。そして、自分の親が自分を馬鹿にしてたからって、その真似をして他の人を馬鹿にする人って、それ、完全に『親の所為』にしてるよね?。親がそうだったからってそれを改める努力もせず、『親がそうしてたから』って自分も同じようにするのは、『親の所為にしてる』以外の何だって言うんだろう?。『親の所為にしない』のなら、自分は親と同じようにはしないっていうのが当たり前なんじゃないのかな?。
毎日毎日、それを思い知らされる。だから大希くんのことも、馬鹿にしない。僕がそんなことをしていたら、沙奈子や玲緒奈が『そうしていいんだ』って思ってしまうかもしれないから。僕の両親は典型的な『自分の価値観に合わない相手は見下して馬鹿にしてる人』だったけど、兄はまさにそれをそのまま受け継いでしまったけど、僕はそんなのは嫌なんだ。




