二千七十九 役童編 「穏当に接する」
三月七日。月曜日。曇り。
スーパーに買い物に行った時とかに子供に対してやたらと威圧的だったり面倒臭そうに接してる親を見てると、それで子供がぐずったりしてるのを見てると、
『ああ、子供をちゃんと一人の人間と見て接してないんだな』
って分かってしまう。だからといって偉そうに口出しするつもりもないし、そんなことをしても『変な奴』『お節介な奴』と思われるだけなのは分かってる。だからあくまで、
『僕が沙奈子や玲緒奈に対してそんな風に接したら、どんな反応するかな……?』
と考えるんだ。そしたら、沙奈子は委縮してしまって僕を怖がるだろうし、玲緒奈は癇癪を起してギャン泣きするだろう。はっきりとその実感がある。そんな接し方をしてて沙奈子や玲緒奈が何を学べるっていうの?。
『人間は威圧的で一方的に自分を従えようとする存在』だというのを学ばせるの?。人間なんてそんなものだって。
だったら自分も攻撃的になるか、逆に人間とはなるべく関わらないようにしようってなるんじゃないの?。それが人間として正しい在り方なの?。
僕にはまったくそうは思えないんだけどな。
親は子供に、『人間との接し方』を教える義務があると思うんだけどな。それは口で言っても伝わりにくいものでしかないから、結局は実際に子供の前でやってみせるのが一番だと思うんだけどな。
今の玲緒奈には言葉で説明してもうまく伝わりそうな実感はまったくない。だけど、彼女の前で、彼女に対して、『人間としてこんな風に接するんだよ』とやってみせれば、それを手本にして学んでいってくれると思うんだけどな。
もちろん、幼いうちは上手くできないと思う。言葉が話せるようになったって大人ほどは語彙もないし言葉の使い方も巧くないのと同じで、小学校の高学年くらいになってようやく効果が見え始める感じかもしれない。
でもその一方で、山仁さんが示す手本をしっかりと見て育ったイチコさんや大希くんは、保育園に通ってた頃から、他の子に対して乱暴な接し方はしなかったそうだし、他の子から力尽くでおもちゃを奪ったりすることもなかったって。お菓子が配られたりする時も、我先にと群がったりせずに順番を待ってたそうだし。ちゃんと人数分用意されてるのは分かってるから焦らなくても大丈夫だって分かってたんだろうな。
『他の誰かに対して威圧的に横柄に接するというやり方を学ばなかった』
ってことなんじゃないのかな。幼い子供は未熟だからまだまだ上手くはできない。感情のコントロールもそう。だからこそ親がそれを手本として『自分以外の誰かと穏当に接する』ことを示す必要があるんだって、沙奈子と玲緒奈を育てて実感したよ。




