二千七十六 役童編 「両親に倣って」
三月四日。金曜日。曇り。
絵里奈は言う。
「私も、玲緒奈を生んでこうして彼女が育っていくのを見てはっきりと確信しました。この子を産んだのは私の意思であって、玲緒奈がそれを望んだわけじゃないって。そしてこの子は『人間』で、人間以外の動物じゃないって。私は人間以外の動物を生んだわけじゃありません。私が生んだ子を『人間じゃない』なんて、どんな神経してたらそんな無礼なことを言えるんでしょうか?。そんなこと言う人と親しくなんてなりたくありません。ましてや愛するなんてできません」
玲那が言う。
「だよね。私も玲緒奈を見てて思ったよ。やっぱ人間が生むのは人間なんじゃん。家畜とか生むわけじゃないじゃん。なのにあの人たちは、自分の子供のはずの私を家畜扱いしたんだ。家畜みたいに働かせて売り飛ばして金儲けしたんだ。なんでそんなことができたんだろうね。家畜を生んだあの人たちも、人間じゃなかったから?。まあそうなのかもしれないけど、でも私は人間だし、玲緒奈も人間だって感じる。
あるアニメの中で、『人間じゃない子供が人間になっていく時、どの時点で人間になるんだろう?。でもそんな答は出るわけがないんだ』とか言ってたんだけど、当たり前じゃん。答なんかあるわけないじゃん。だって人間は生まれた時から人間で、人間じゃないものがある時を境に人間になるわけじゃないんだから、『どの時点で人間になるんだろう?』なんて疑問自体がそもそも成立しないんだよ。人間として生まれてきたんだからもうその時点で人間なんだ。『人間じゃない』なんて思ってるからそんなおかしな疑問を抱くことになるし、答も見つからない。あるはずのない答を探すとか、『利口な人』がすること?。自分から話をややこしくしてるだけじゃん。
人間は人間なんだよ。人間じゃないものとして生まれてくるわけじゃない。人間じゃないものを人間にするわけじゃないんだ。『知らないことがたくさんある人間』でしかないんだってなんで分かんないの?。おかしいじゃん」
彼女が一気にそれだけ語ったのを、星谷さんが出資してる会社が作った試作品は、ほとんど完璧に再現してくれた。やっぱりイントネーションはちょっとおかしいところもありつつも。
さらに沙奈子が言う。
「私も、お母さんやお姉ちゃんの言ってることの方がちゃんと分かる。私のホントのお父さんやホントのお父さんと一緒にいた女の人たちのことが好きになれなかったのも、あの人たちが私を人間だと思ってなかったからだってすごく思うんだ……」
そう思うから沙奈子も玲緒奈のことを人間として扱ってくれてるんだって分かる。自分と同じ人間だと思ってるから、嫌なことをしないんだよ。
それを考えたら僕の兄が僕に嫌なことをしてきたのは、両親に倣って僕を人間扱いしてなかったからなんだろうな。




