二千五十四 役童編 「ちゃんと見てくれる人は」
二月十日。木曜日。曇り時々雨。
塚崎さんはここ何年か、舞鶴の方に赴任してたそうだった。そこでも、沙奈子にしてくれたように、つらい境遇にいる子供たちのために働いていたそうだ。
「ありがとうございます」
波多野さんのスマホとのビデオ通信で、沙奈子は塚崎さんに深々と頭を下げた。素直にそれができる子に育ってくれたことがすごく嬉しかった。僕がちゃんと沙奈子に『手本』を示せてた証拠だと感じて。
「ああ……、沙奈子さん、立派になりましたね。沙奈子さんのように幸せを掴んでくださる子もいるから、私は今の仕事を続けられるんです。私の方こそ、ありがとうございます……」
塚崎さんの方も、そう言って深々と頭を下げてくれた。その上で、
「実を申し上げまして、私、このところ仕事の方で芳しくない結果が続いていまして、それでいろいろと迷っていたんです。私がいくら働きかけても、親御さんや保護者の方の協力が得られなければどうにもならなくて……。でも、沙奈子さんのように幸せを掴んでくださる子がいるのをこうして実感すると、たとえ十件中九件が上手くいかなくても残りの一件だけでも良い結果に結びつくならそれをする意味があるというのを改めて感じました。ありがとうございます」
と話してくれて。
あれほど沙奈子のために力を尽くしてくれた塚崎さんでも心が折れそうになることがあるんだと感じて、そして今の沙奈子が塚崎さんの力になるなら、それがささやかな恩返しになるのかもしれないと感じて、胸が熱くなるのを覚えた。
結局、こういうことなんだと思う。誰かのためにしたことが、沙奈子のために塚崎さんがしてくれたことが、こうやって今、塚崎さんを支えることになってる。それが大事なんだと、僕は、沙奈子や玲緒奈に伝えていかないといけないと改めて実感した。誰かを罵って蔑んで嘲って貶しててそれで幸せになれるわけないって分かってもらわなきゃいけないと思うんだ。
「娘の玲緒奈です。去年の九月に生まれました。みんなに愛されて、すごく元気で利発な子に育ってます。これも塚崎さんのおかげです。沙奈子が幸せになれたからこの子も生まれてこれたんです。こちらこそ、本当にありがとうございます」
「ばるぶっ!?」
パソコンの画面に見知らぬ人が映っててその人に僕が頭を下げたのが不思議だったのか玲緒奈が僕の体をバシバシ叩いてきたけど、そんな僕と玲緒奈を見て塚崎さんも、
「本当に頭のいい子ですね。お父さんのことをとても愛してらっしゃるのが分かります」
と言ってくれた。ああ。ちゃんと見てくれる人は見てくれるんだなって実感する。




