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僕に突然扶養家族ができた訳  作者: 太凡洋人
2041/2601

二千四十一 役童編 「その人にとってどうか?」

一月二十八日。金曜日。晴れ。




『自分の生まれにも親にも周囲の環境にも特別な不満もないけど、やりたいことしたいことがこれといってなくて、でも、親友と言っていい友達にはみんなそういうものがある。という状態に対する不安』


正直、僕にはそれがどういうものか、想像もつかない。何しろ僕自身は、とにかく両親のところから逃げ出したくて、そのために勉強も頑張ってきただけだからね。そう、『逃げたかった』んだ。逃げるために努力した。


対して、


『逃げる必要もないことでこれといった目標もなくただ頑張ってきたけど、気付いてみれば自分だけ何もない』


ことに気付いてしまった時の気持ちって、どんなものなんだろう?。


『みんなと同じように勉強も頑張ってきた。なのに自分にはその頑張ってきたものを活かす当てがない』


そういうのって、どんな気分になるものなんだろう……?。それはそれで、


『自分には生きている価値はないのでは?』


と思ってしまうきっかけに十分なるのかもしれないと、改めて思ってしまった。


知らなかった。気付かなかった。世の中にはそういう、


『取り立てて何も問題がない境遇に育った人』


もいるはずなのに、僕にはその実感がまったくなかった。それこそ、フィクションの登場人物みたいに、『架空の存在』と変わらないくらいに現実味のない感覚だった。大希ひろきくんのこともずっと見てきたけど、お母さんを亡くして、しかも『七人もの人を殺した元死刑囚』を祖父に持つという事情を知っていたから大希くんもてっきり、


『つらい境遇を生きてる子』


と思ってたけど、お母さんが亡くなったのは彼が小学校に上がる以前だったことで記憶も曖昧で、しかもお父さんがとても頑張って『お母さんがいない現実』をそこまで気にしなくてもいいようにしてくれてて、『七人もの人を殺した元死刑囚の孫』だってことも今までまったく意識せずに済む環境で生きてこられたことでそこまで深刻な何かを感じなくても済んだ大希くんが人生で初めて経験した、


『自分自身の躓き』


が今回のことだったんだって、今になって分かった。千早ちはやちゃんとのことで築山にこもってしまったりもしたけど、正直、その程度はそこまで深刻な躓きじゃなかったんだろうな。


そうか。大希くんにとってはこれが、はっきり『試練』と言える『試練』なんだ。


『なんだそのくらいのことで!』


と嗤う人もいるだろうけど、そういうのも結局は『その人にとってどうか?』って話だと思う。


実の両親から家畜のように扱われた玲那の苦しみに比べれば、有名難関大学を目指して頑張ってきたのに『無理だ』と言われてそれで何もかも嫌になって誰かを傷付けようとすることなんて『そんな蚊に刺された程度のことで何を言ってるんだ?』と思ってしまいそうになるけど、そうじゃないんだよね。当人にとっては……。



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