二千三十七 役童編 「一過性のものに影響力で負ける親」
一月二十四日。月曜日。曇り。
今日も大希くんは、山仁さんに付き添われて学校に行ったそうだ。当分の間はこの状態が続くと、改めて覚悟する。
「ヒロのヤツ、甘えてるだけじゃないのかよ……!」
学校から帰ってきてうちの三階で沙奈子たちと一緒に課題をしてた千早ちゃんがそんなことを口にする。
「……」
それに対して僕がどう声を掛けようか迷ってると、結人くんが、
「あいつがこれまでどんだけ頑張ってきたか、お前が一番知ってるんじゃないのかよ?。頑張ってきたから余計に折れちまってるんだろ。それをなんでお前が分かってやらないんだよ」
って。すると、千早ちゃんも、
「う…、うっさいな!。そんなこと分かってるよ!。そんなこと……!」
言い返しつつも、口ごもってしまう。結人くんの言葉が的確に刺さったみたいだね。大希くんと千早ちゃんの傍で二人を見てきた彼だからこその言葉だと思った。そして、今、それを口にして、一番説得力があるのが彼だったんだろうな。
千早ちゃんだって、大希くんのことを心配すればこその言い草だったんだというのは僕にも分かる。たぶん、お母さんがよく『甘えんな!』みたいなことを口にしてたんだろうな。だから彼女もついそんな風に言ってしまった。
人間は自分の中にあるものしか表現できない。それは当然のことだ。だから千早ちゃんが『甘えてるだけじゃないのかよ……!』と口にしたのなら、そんな言い方を彼女に教えた人がいたっていうことなのは間違いない。
『漫画やアニメやテレビ番組を観て真似をすることもあるだろ!』
って言う人もいると思うけど、そんな漫画やアニメやテレビ番組なんて一過性のものに影響力で負ける親って何なんだろう……?。漫画やアニメやテレビ番組ほども子供と関わってないってこと?。よくない言葉遣いや振る舞いを一時的に真似することはあっても、それはあくまで『一時的』なものだと思うんだけどな。
だから僕は、玲緒奈の前で、誰かを罵ったり蔑んだり貶したりしないようにしなくちゃと思う。もちろん、完璧ではいられなくても、玲緒奈がそういう言い方をしたりそういう態度で誰かと接するのが『当たり前』と思ってしまうようなのは避けたいんだ。そんなことをすれば、玲緒奈は誰かに対してそういう言い方をしたり態度を取ったりして諍いを生むかもしれない。それが結局、自分に返ってきて嫌な思いをすることになるかもしれない。
どうしてわざわざそんなことをしなくちゃいけないの?。




