二千五 玲緒奈編 「育児休業は取得されるべきもの」
十二月二十三日。木曜日。晴れ。
僕は完璧な人間じゃない。だから他の誰かに対しても完璧であることを求めない。それは、沙奈子や玲緒奈に対しても同じ。絵里奈や玲那に対しても同じ。
自分以外の相手に完璧を求める人ほど、自分は完璧じゃないとしか思わないんだけどな。そもそも、
『人間は完璧になんてなれない』
という現実を見ることもできでない時点で少しも『完璧』なんかじゃないよね?。
そうだよ。現実を現実として認められない人のどこが『完璧』なのか、僕にはさっぱり分からない。
『子供をこの世に送り出したのは親の勝手でしかない』
『なにを正しいと思うか、どういうのを美しいと思うかなんて、人によって違う』
その程度の現実さえ認められない人の何が『完璧』だって言うの?。
僕は完璧じゃない。だから絵里奈が『完璧な妻』『完璧な母親』じゃなくたって、それ自体は何の問題もないよ。あくまで、沙奈子や玲緒奈に対して危害を加えるような存在でなければそれでいい。その点では、絵里奈は素晴らしい人だ。
「絵里奈、愛してる……」
「私もです、パパ……」
玲緒奈がお昼寝してる隙に、僕たちは愛し合う。一階では玲那たちが仕事してるからあんまり激しくはできないけど、むしろその方が僕たちには向いてると思う。
それでも、遠からず二人目が来そうだなという予感はあるかな。だけどそうなるとまた絵里奈が育児休業を取ることになるな。これについて星谷さんは、
「その可能性がある女性を雇用している時点で、あらかじめ想定すべき状況でしかありません。それに、ずっと生み続けるわけではないでしょう?。生み続ける方はそうなさればいいと私は考えます。お子さんが生まれるということは、将来の従業員や顧客が生まれるということなのです。その事実と向き合うこともしない企業に将来性があるとは私は思いません。目先の人員も確かに蔑ろにはできませんが、その人員がいるのは、かつてどなたかが生んでくださったからというのも事実のはずなんです。なぜそれを理解しようとなさらないのでしょう?。近視眼的な価値観のみで人間というものを図ろうとするから齟齬が生じるのだと私は考えます。
とにかく、『SANA』においては、『育児休業は取得されるべきもの』と考えて制度設計を行っていきます。人間がどのようにして生まれてくるかという現実を見ることもできない方は、『SANA』を含め私が関わる企業には必要ありません。どうぞ他を当たってください。面接の際にもそれを確認させていただいていきます」
って断言してるんだ。




