千七十八 美嘉編 「享楽的に生きることで」
僕と星谷さんのやり取りを聞いていた鷲崎さんも加わってくる。
「私の場合は、先輩が手本になってくれました。結人との接し方がどうしても掴みきれなかったのが、先輩と沙奈子ちゃんの姿を見てて、『ああ、こうすればいいんだ』って思えたんです。
結人と沙奈子ちゃんって、『乱暴者』と『すごくおとなしい子』って感じで表面的にはまったく違うタイプみたいに見えますけど、本質は実はすごくよく似てるっていうのがそばで見てて分かりました。
結人は本当は優しい子なんです。そして沙奈子ちゃんは、おとなしいように見えて実はすごい頑固者っていう一面がある。しかも、先輩が言ってた児童相談所での一件みたいに、激しい気性も秘めてる。本当に表面的に見えてる部分だけが違ってるだけで、似た者同士なんですよね。
だから先輩の沙奈子ちゃんへの接し方が、結人にもかなりあてはまるんですよ。
口煩くしない。何か指示を与える時は簡潔に的確に、偉そうにしない。くどくど言わない。そうすると、結人も「うるせえ」とか口答えはしながらも言うことを聞いてくれるんです。しかも他の人に対しては、口答えもしないで、素直に言うことを聞いてるって。私との関係でイライラしてないから、他人に対しても余裕があるんでしょうね。
先輩が沙奈子ちゃんと接してる時の様子の多くがそのまま結人との接し方にも当てはまるんです」
鷲崎さんにそう言われて正直照れくさかったけど、彼女と結人くんの役に立ってるのならそれはすごく嬉しい。
その上で、僕は言った。
「だけどそんな風に僕と沙奈子の様子を役立てられるのは、鷲崎さん自身がちゃんと結人くんのことを見て、結人くんのことを理解してるからだと思う。結人くんと沙奈子が似た者同士だっていうのも、たぶん、二人の上辺だけを見てたらとてもそうは思えなかったんじゃないかな。鷲崎さんが二人のことをよく見てるから気付けたんだよ。
親が、忙しいとか時間がないとかっていうのを言い訳にして子供のことをよく見ないっていうのは、僕は甘えだと思ってる。自分が沙奈子を一緒に暮らすようになったからそれがすごく分かる。僕のことをロクに見てなかった僕の両親は、甘えてた。自分達が僕や兄をこの世界に送り出したのに、その責任から逃げてたと思う。だから僕も兄も、自分が生まれてきたことを喜べなかった。
兄はそれを、享楽的に生きることで埋め合わせしようとしたんじゃないかな。目先の楽しいことで自分を満たそうとしてた。
でもそれじゃ満たされなかったんだと思うんだ。満たされなかったから、もっと、もっと、ってなった。自分のことしか見えなくなった。
僕はその失敗を活かしたいと思うんだ」




