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【いきなり】第1話:あばよ!【詰んだ】

 気が付けば(おれ)は、一目散(いちもくさん)に走り出していた__


『※○\*\*(.+?)\*\*☆!』

『△**○※**☆!』


 どこの国の言語なのか皆目見当も付かない、ただ耳障りで不快な音。


 それでも、悪意と殺意を(おれ)に向けた怒号なのは分かる。


 見渡す限り草も木も生えていない夜の荒野が広がり、(おれ)は迫って来る怒号に背を向けて重い身体(からだ)を引きずるように走り続けた。


 何だ? 何が起きたんだ?


 考えようとすればするほど、思考があっちこっちに移って集中できなくなる。


「何なんだよ、いったい!……!?」


 言葉に出来ないもやもやした感情を吐き出した(おれ)は、自分の口から出た鈴の音のような聞き慣れない声に慌てて両手で口を塞いだ。


 生前の記憶が曖昧だけど、これが(おれ)の声でないのは理解している。


「ん? ()()?」


 思考の片隅から持ち上がって来た違和感を口に出した(おれ)は、漠然と頭に浮かんだ手順に従ってステータス画面を開いた。



「これが……(おれ)の顔……?」


 画面を開いて最初の言葉がこれである……


 それも仕方がない、画面左上の小窓には少女にも人形にも見える13歳か14歳ほどの柔らかそうな銀髪を耳のあたりまで伸ばした美少年が映っているからだ。


 そう、“映って”いるのだ。


 (おれ)が首の角度を変えると画面の中にいる美少年も同じように動くから、スマホの自撮り機能みたいなものだろうか?


 原理とかまるで分からんけど、やっぱり魔法か? MPとか魔力があるし。


(って、こんな事を考えてる場合じゃねえ!)


 またしても思考があらぬ方向に飛んで行ったと気付いた(おれ)は、改めてステータス画面を確認した。


名前:????

種族:人間

性別:男

職業:なし

レベル1

経験値0

次のレベルまで13

HP:10

MP:10

腕力:1+0

体力:1+0

素早さ:1+0

器用さ:1+0

知力:1+0

魔力:1+0

運:1+0

武器

・壊れた眼鏡:攻撃力0

防具

体:村人の服:防御力1

足:布のサンダル:防御力1

スキル

????:消費MP500

【空白】


「何だよ、これ……」


 ステータスの確認を終えた(おれ)は、ただ絶句するしかなかった。


 この世界の強さの基準は分からないけど、1が低い数値なのは確実だ。


 追って来るのが何かは分からないけど、襲われたら絶対に生き残れない。


 というか“壊れた眼鏡“って何だよ?……さっきから右手に掴んでいるこれか?


 緊張してずっと握り締めていた右手を緩めた(おれ)は、手にした眼鏡の(つる)を目の前に持って来る。


 眼鏡の(つる)の先端は大きな力で引き千切られたように途切れてレンズが無く、反対側には耳かけが付いた細長い金属の棒。


 何でこれが武器に? というより、そもそも武器ですらないだろ……


 防具の“村人の服”は袖の短い薄茶色の粗末なシャツで、防御力は紙装甲……


 布のサンダルは厚手の布を重ねた底を足首まで紐で結んでいるから簡単には脱げそうにないが、やはり防御力は期待できないだろう。


 思考があらぬ方向に行って集中できないのは、知力が1のせいなのか?


 思考を集中させようと意識するたびに別の疑問に興味が向かい続けた(おれ)は、何も対策が浮かばないまま不快な声の集団に追い付かれてしまった。


『※○△□※○×☆!』

『△○※☆!』


 (わず)かな星の光でも輪郭だけは何となく分かる角が生えた大きいヒト型の化け物が左右を順番に指差し、取り巻きの化け物どもが瞬く間に(オレ)を囲う。


 そして(おれ)を囲んだ化け物どもは、息つく間も無く一斉に手のひらを向けて来た。


「いや……詰んだわ、これ」


 生き延びる目は無いと悟った(おれ)は、その場に崩れ落ちて目を閉じた……



 ……それからどれくらい経ったか分からないが、(おれ)はまだ生きていた。


 どういう事だ?


 この世界ではHP10を削り切るのに、どれだけの人員と時間を要するんだ?


 待てど暮らせど終わらない自分の人生に苛立っていると、(おれ)を囲う化け物どもの空気が変わって来た。


『ナゼダ? ※○チカラガ※△☆?』

『コノママ△○キケン□※×☆!』


 これまたどういう事だ? 断片的だが奴等の会話が理解出来る?


 正確には繰り返し使っている単語を拾い、(おれ)の知っている言語に当て嵌めて行く地道な脳内作業の繰り返し。


 いつから(おれ)は、こんな地道で高度な脳内作業を出来るようになったんだ?


 (わず)かHP10の命が終わる事無く知性が急成長した怪現象、心当たりも確認する手段もひとつしか思い浮かばなかった(おれ)は急いでステータス画面を開いた。


名前:????

種族:人間

性別:男

職業:なし

レベル1

経験値0

次のレベルまで13

HP:10

MP:10

腕力:1+8964

体力:1+8964

素早さ:1+8964

器用さ:1+8964

知力:1+8964

魔力:1+8964

運:1+0


 必要な項目の確認を終えて画面を閉じた(おれ)は、改めて考えを巡らせる。


 レベルは上がっていないのにステータスは上がっている……どういう事なんだ?


 大まかな理屈も分からんが、この状況を打開出来る確信が身体(からだ)中に溢れていた。


 知力が上がった賜物(たまもの)か雑念が消えていた(おれ)は、手にした眼鏡の(つる)の耳かけを前に向けて大きく息を吸う。


 そしてそのまま力の限り大声を張り上げる。


「反撃開始だ! 覚悟しやがれ!」


 どう考えても言葉が通じているとは思えないが、体力上昇の賜物(たまもの)であろう周囲の空気を震わせるほどの大声は奴等の注目を集めるのに充分だった。



『○☆※! テンセイシャハ△□※!』

『△※□、コノママデハ※☆×!』


 いきなり大声を上げた(おれ)に動揺の色を滲ませた化け物どもが更に力を込めて手のひらを向け続けるが、時すでに遅しだ。


 それにしても“テンセイシャ“ね……いや、考えるのは後でいい。


 攻撃手段は簡単、眼鏡の(つる)に魔力を流し込んで爆発させる。


 何が上がった賜物(たまもの)かは知らないが、(つる)に魔力を流し込む方法や飽和して爆発する理屈は直感で理解した(おれ)はステータスを簡易画面で開く。


名前:????

レベル1

HP:10

MP:8964999


 魔力の注入にはMPを消費するから確認しておきたかったのだがどういう訳か、今度はMPだけ上昇している。


 だがちょうどいい、(つる)に出来る限りの魔力を注入するだけだ。


「細工は流々(りゅうりゅう)、仕掛けは上々、上手く行ったら御慰(おなぐさ)み! きちんと目ん玉開いてとくと仕上げを御覧(ごろう)じろ!」


 ありったけの大声を上げて奴等の注意を引いた(おれ)は、間髪入れずに魔力を眼鏡の(つる)へと注ぎ込んだ。


 パキンッ!


 流し込まれた魔力に耐えられなかったのか乾いた破断音が響き、手にした眼鏡の(つる)から離れた耳かけがクルクルと回りながら地面に落ちる。


 カッ!


 しばしの沈黙の後に眩い閃光が走り、同時に起きた爆発が地表を(えぐ)りながら周囲一帯を吹き飛ばす。


 気が付けば(おれ)身体(からだ)も土砂ごと爆風に飛ばされて遥か空高く舞い上がり、あとは落下を待つばかりとなった。


「今度こそ詰んだな……」


 ようやく異世界に転生した経緯を思い出したのに、これではどうしようもない。


 いや、これは(おれ)自身が望んでいた結末か……


「あばよ、(おれ)の異世界ライフ! あばよ、(おれ)の第二の人生!」


 本願成就に感極まった(おれ)は、空に向かってあらん限りの声で叫んだ。


 もしこれが何かの物語なら「今まで応援ありがとうございました、次の転生者の人生にご期待ください」ってやつだ。


 ああ、何度でも言ってやる。


「あばよ!」

応援ありがとうございました、作者の次話にご期待ください。

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