第2話 わがまま作戦
❁⃘少し匂わせ表現ありますので
苦手な方はご注意ください( . .)"
彼に嫌われるように、と考えたもののどうしたらいいのかが分からない。
アルフレッドは常に真面目で、私が言うことやすることにきちんと応えてくれる。それが申し訳なくて今までは遠慮していたが、嫌われたいなら我儘を言って困らせるのがいいのかもしれない。ちら、と彼を見上げると、相変わらず険しい表情で前を向いている。
切り出すなら今かな、と騎士服の袖を引いて甘えるように声を上げた。
「アルフレッドさん……私、今日は帰りたくないな?」
暗に彼の家に行きたいと言えば、ブルーグレーの瞳が少し見開かれて眉間のしわが少し緩んだ。
「ああ、構わない」
てっきり断られるかと思ったが、意外にも許してくれることに不服にも胸が高鳴る。それを誤魔化すようにへらっと笑って「ご飯はどうしましょうか」というと、彼はさらっと「買って帰ろう」と提案してきた。
そうして出来合いの総菜やお酒を買って並んでアルフレッドの家に向かう。
「ん」
小さく彼に促されて部屋に入ると、アルフレッドの匂いが私を包んだ。
爽やかで落ち着くにおい。
思わず、ふふ、と小さく笑ってしまえば、大きな彼の腕にすっぽりと埋まった。
「んっ……」
顎を持ち上げられて口づけが降ってくる。
そうなると思っていたが、今日はやけに性急だと思えた。けれど、求められるのが嬉しくて、そのままアルフレッドに身を任せた。
*
少し疲れたカラダでうとうとと微睡んでいると、アルフレッドがそっと私の頭を撫でて「待っていろ」と柔らかい声で諭す。
そうして戻ってきた彼は、水やタオルを手にしており、私をゆっくりと起こして世話を焼く。
一通り私の世話を終えたアルフレッドは、私が力の入らない足を休めている間にシャワーを浴びに行く。一緒に入るか聞かれるが、こんな状態ではまともに歩くこともできずに迷惑をかけてしまう。フルフルと頭を振っていつも通り断ると、彼は少し不満そうにしながら「分かった」と背を向けた。
はぁ、と息をついて爽やかな匂いが付いた布団に顔を埋める。
「結局また私が好きになっただけじゃん……」
ため息を零して辺りを見回す。そろそろ動けそうだと起き上がって、ゆっくりと立つ。自身の服を摘まんだところでハッとして手を止めた。ソファに畳まれて置いてある彼の服が目に付いてそっと手にした。
我儘……。いいかな?
さすがに騎士服は、と思って手にしてないが、彼がいつも着ているだろう部屋着に腕を通して、スンスンと袖を鼻に近づける。
「へへ……。やっぱ好きだ……」
もう一度ベッドに横になれば、幸せな気分にふわふわと酔いしれる。思わずニコニコとしてしまえば、ガチャ、とドアから入ってきたアルフレッドとばっちり目が合ってしまう。
「あ……」
今の見られた?勝手に部屋着を着て匂い嗅いでるなんて、さすがに気持ち悪いよね……。
慌てて起き上がろうとすると、アルフレッドはその長い足で素早く私のそばに寄る。
「何してたんだ」
咎めるような言葉なのに、声色は優しくて混乱する。
「え、えと……ごめんなさい」
私をじっと見下ろすアルフレッドに身を縮めて謝ると、硬い掌が私の髪を梳くようにふわりと撫でる。
「自分のじゃなくて、俺の服を着たのか」
手つきは優しいので怒っている訳では無いらしい。
それでも自分の服を着られていれば迷惑だろう。さっきの言葉は困っている故の発言か。
「ごめんなさいっ!今すぐ脱ぎますね」
わたわたと慌てて脱ごうと服を捲った時、彼の手が私の手を掴んでそれを止める。その行動が分からなくて見上げると、ふっ、と笑われた。
「いい。着ておけ」
「え?」
「今日は泊まっていったらいい」
アルフレッドの言葉に息を呑む。
いつもは朝早い彼のために家に帰るようにしている。私と一緒に寝ては疲れが取れないだろうと、提案に頷くことはなかったのだが……。
「そう、しようかな?」
ちら、と伺うように目線をあげれば、いつも結ばれている口角がほんの少しだけ上がって、優しい微笑みが返ってくる。アルフレッドの表情にドキッとして、つい見惚れてしまえば甘い口付けが降ってきた。
ずるい。
今更こんな扱い、まだ希望があるのかと期待してしまう。
数回、角度を変えて唇が合わされば、熱い吐息がかけられて、顔に上ってきた熱で体が動かなくなった。縋るように彼の服の胸元を掴めば、そのままベッドに戻されてスリスリと頬や耳を撫でられる。
彼とのキスはいつも雲の上にいるような気分になって、思考が解けていく。私もお返しをしようと精一杯頑張るのだが、彼のくれるものを受け取るのでいっぱいいっぱいだった。
苦しくなって視界が潤むと、精悍な顔が離れていく。
「はぁ……すまない。疲れたよな……もう寝ようか」
呼吸が荒くなった私を気遣うように目元を拭って、アルフレッドはするりと私の横に滑り込んだ。
「……ん、えっ、と……キスは好き、だよ?」
そう言えば彼は少しだけ目を捲って眉間にシワを刻んだ。そして宥めるように私に布団をかけると「寝る」と後ろを向いてしまった。
急に不機嫌そうな彼に、何かしてしまったのだろうかとギュッと心臓が痛くなった。
いやいや、違う。
嫌われるのならこれで合ってるんだ。
痛んだ胸を押さえて、彼の横で丸くなった私は、そのまま固く目を瞑った。




