22話 武器
「金貨1枚……」
大蜂を倒した後、大部屋の奥にあった扉が開き、その先の小部屋に転移の魔方陣と木製の宝箱があった。
真っ先にアリアが宝箱に飛び付き中身を確認したが、中には金貨1枚しか入っていなかったためアリアはこの世の終わりかという絶望な表情をしている。
(そう簡単に欲しいものは出てこないわな)
このダンジョンで脱出アイテムが出てくるとメルクは踏んでいるが、ダンジョンを何周も回らなければ欲しいものは手に入らないだろうと考えている。
「一旦戻って装備整えたらまた来ようか」
メルクはこのままダンジョンを周回してもよかったが、親が心配するだろうと思い、一旦帰宅して今後の予定を伝えようと思う。それに加えて食料の補給と武器の新調を考えている。
二人は転移の魔方陣の上に乗る。転移先はダンジョンの入口から少し中に入った所だった。
「お、外はまだ明るいな。ちょっとギルドに寄って行こうか」
「ほい」
外は夕方くらいの時刻だろうか、思ったより早く踏破できたなとメルクは思い、荒野を小走りで進んで行く。
日が沈みかけたくらいに二人はギルドへ到着する。
ギルド内に併設された酒場では仕事を終えた冒険者達が宴会を開いている。メルクは酔っぱらいに絡まれないようにそそくさといつもの受付に向かう。
「あ、メルクさん」
「メルビスさんお疲れ様です。買取の査定をお願いしたいのですけてども」
「畏まりました。何を査定されますか?」
「これを…」
メルクは麻袋からミスリル鉱石を取り出しカウンターの上に置く。
「え、これはミスリルじゃないですか!?」
メルビスは目を真ん丸くさせミスリル鉱石を手に取る。
「マテリアル廃鉱で入手しましたが、やはりミスリルですか」
「ちょっとお待ち下さい!」
そう言ってメルビスは奥にある部屋に駆け込んで行き何かを持ってきた。
「これがミスリルになります」
小石程の小さな欠片をメルビスは二人に見せる。
二人が入手ものと同じ様に灰白く輝いている。
「この欠片で金貨1枚の買取になります」
「ええええええ!こんな小さな欠片が!」
アリアの目がドルマークになり驚愕する。
「ベルムス商会でも買取してるようですが、買取レートは同じですか?」
「大体一緒のはずです。商会でも査定頂いても構いませんよ」
「いえ、ギルドにて買取をお願いします」
「ありがとうございます!では計測しますね」
メルビスがミスリルの塊を手にとって天秤のような計りにミスリルを乗せる。
ブツブツ独り言を言いながらメルビスは奥の部屋に行き何か袋を持ってくる。
「『ドン!』金貨64枚になります!」
カウンターに置かれた袋に金貨がずっしりと詰まっているようだ。
以前、お金の価値についてアリアから聞いた話しによると
・鉄貨10枚で銅貨1枚 鉄貨1枚十円相当の価値
・銅貨10枚で銀貨1枚 銅貨1枚百円相当の価値
・銀貨10枚で金貨1枚 銀貨1枚千円相当の価値
・金貨1000枚で白金貨1枚 金貨1枚1万円相当の価値
・白金貨1枚一千万円相当の価値
(8才にして64万円の所持金か)
メルクは金貨が詰まった袋を受け取る。
そしてメルビスにお礼をしてギルドを後にする。
(酔っ払いに絡まれずに済んだな。さてと武器屋へ行こうか)
ギルドの周辺には宿屋の他に飲食店や道具屋と一通りの店が並んでいる。
武器屋も何店舗かあるが、一番建屋が大きく品揃いが良さそうな武器屋に入る。
「こんにちは~」
「いらっしゃ…!?うちは子供の入店お断りだよ!さっさとお帰り!」
小太りのおばさんが鷹のような目をさせ二人に一喝する。
「わかりました」とメルクは言って店を後にした。
「なにあのおばさん!子供だからと言って!」
「冷やかしだと思われてもしょうがないわな。お、あの武器屋に入ってみようか」
アリアが口を膨らませて怒っているが、メルクはすぐ斜め向かいにあるボロボロの家屋の武器屋を見つける。店を開いているかさえわからない店構えだが、武器屋とわかる剣のマークが入った看板を掲げている。
メルクは木製の扉を引いて中に入る。
「こんにちは~。武器を買いに来ました」
「いらっしゃい」
店内には様々な武器が飾っており、店の奥に白髪に額から頬にかけて傷のついたお爺さんが椅子に座っている。
この店は子供を追い出さないようだ。
「剣と杖を新調しようと思いまして。予算は金貨64枚になります」
「ふむふむ……お主は魔法も使えるのかい」
(お、当たりの店を引いたな。鑑定スキルを持っているのかな)
店主のお爺さんがメルクをじろじろと見て、メルクに合う剣を模索しているようだ。お爺さんは徐徐に立ち上がり、店の奥から1本の剣を持ってきてメルクに手渡す。
「ちょっと振ってみんしゃい」
メルクが持っている剣より若干長く、刃の部分が若干青い色をしている。
剣を握ったメルクは言われた通りに人振りする。
「ふんっ」と力を込めて空を斬る。
(おぉ、凄くフィットする感じがあるぞ)
「問題ないじゃろ。次はお嬢ちゃんじゃ」
次にアリアを見て店主は独り頷く。再び部屋の奥へ行き1本の杖を持ってくる。
「お嬢ちゃんはこの杖にしようかね。ちょっと魔力を流してみんしゃい」
アリアが杖を受け取り、魔力を籠めてみる。
1メートルくらいの長さの木製の杖は、魔力に反応して杖の上部に小さく埋め込まれたミスリルと思われる欠片が輝き出した。
「ほぇ~。杖でこんなにも魔力の流れが違うんだ!」
「お主の剣の刃は鉄とミスリルを混合させたものじゃ。お嬢ちゃんの杖が千年樹とミスリルの欠片を使ったものじゃ。二つで金貨70枚じゃが金貨64枚にサービスしとこうかの」
武器に納得したメルクは金貨が詰まった袋を差し出す。
「良い武器ありがとうございました。また相談させて頂きます」
二人は新しい武器を購入し店を後にする。
(防具も揃えたいと思ったけど、また今度だな)
満足顔の二人は駆け足で家に帰るのであった。