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籠目の星へ願う  作者: きぬがわ
14/20

裏山の戦利品

 次の日の昼休みも、主計は屋上に来ませんでした。

 主計、どうしたのでしょうねえ。

 放課後に大型スーパーで自転車用のチェーンロックを買ってから、以世は裏山の建物に向かいます。合鍵が作られているかもしれない南京錠の代わりです。新しい南京錠なんて高いものは以世には買えませんので、しょぼいのは仕方がありません。気持ちです気持ち。

 ここは昔六波羅を祀る社だったらしいのですが、好きに使えと奉られてる六波羅本人が祖父や父に言ったのでこんなことになっているそうです。

 しかしせっかく社を作ってもらったのにほぼ放棄とか、神様なのにひどいじゃないですか。そういうと六波羅は意外そうに「ちゃんと使っている」と言いました。使い方がこれでは作った信者が浮かばれないです。

「ちゃんと使っているというに…まあよい、戸を開け以世」

 はいはい。

 以世は六波羅に言われたとおりに昨日拾った鍵を扉についた南京錠に差し込みます。

 がちり。多少錆びていて滑りは悪かったものの、南京錠は音を立てて外れました。

「入るぞ以世」

 以世はごくりと唾を飲みました。この中にもしかしたら重大な情報が残っているかもしれません。それより何よりこの先は亡くなったのが幼いころ過ぎて顔の記憶が写真しか見ないあの以世の父が入り浸っていた所なのです。どきどきです。

 以世は緊張しながら戸をスライドさせました。がたがたと立て付けの悪くなったその戸は開けるのに苦労しましたが、やがて開ききってから入り口から差し込んだ光で中がよくみえました。中を見た以世は思わずわあと声を上げます。

 中は何か手作り感溢れる謎の装置やら本棚やら溢れた古文書やらスクラップらしきファイルやノートで溢れかえっていました。

 その乱雑な様子に以世は汚ッ! と思わず叫んでいました。

「弥生から見ると秩序ある場所である様子だったようだが」

 六波羅はなんてこともなさそうに言いますが以世は信じられません。

 嘘だ! 父は家事得意だったんじゃないんですか!?

 以世は吠えます。資料を探すにしてもどこから手を着けていいやら分からなかったからです。

「しかしこれなどおもしろいぞ。みきさーや掃除機を改造して作った古書の修理機せっとでな…」

 そんなもの以世にはどうにもできませんよ…。 がっくりと肩をおとして以世が言いますと、六波羅は残念そうに修理器をなでながらこぼします。

「面白いのだがなぁ」

 そして六波羅はノートの山の一角を指差しました。

「わん」

 何言ってんだお前とばかりに心から怪訝そうな顔をする以世に、六波羅は肩をすくめました。

「ここを掘ってみろといっておるのだ」

 わかんねえよ。以世はぶつくさ文句を言いつつも六波羅の指した山を物色し始めます。

 指された場所にある一番上にあるファイルを手にとって以世は首を傾げました。埃が全く積もっていなかったのです。そのファイルをめくって読んでみることにしましょう。

 …二の家は他の家と違い当主が家神の上に立つ特殊な関係を築いている…。

 …四郎丸は豊穣の神である。天候をある程度自由に…。

 これって、六大呪家の特色がまとめてあるんじゃありませんか?

 以世はぱっと顔を明るくしました。

「随分と分かりやすい場所にあるものよ」

 六波羅はにやにやしながら他の資料も開いてみるようにいいます。どれどれ。

 ある資料を開くと、地図のようなものが出てきました。どこかの建物の地図、いえ見取り図のようです。おや、なんだか見たことのある部屋の配置ですね。

「びんごではないか」

 それはどうやら以世の家の見取り図のようでした。探し物の一つが見つかったようですよ。以世のテンションは鰻上りです。

「必要なものは持ち帰ってゆっくり見た方がよい。ここにいつ誰が何をしに来るかわからぬからな」

 そんな六波羅の提案もあって、以世は見つけた資料にさらっと目を通し、これだと思うものを持ってきていたエコバッグに詰めました。

 ほとんど手書きの資料が多く、見るからに書き手の違う二種類の文字が見られました。どうやら資料の中には父が書いたものと祖父が書いたものがあるようです。細くて細かい字はきっと父の字でしょう。こっちの留めはねがしっかりした力強い字が祖父に違いありません。

 以世はエコバッグに詰めている資料の中身がひどく気になり始めました。このノートは何が書いてあるだろう。 以世は一つの大学ノートを手に取ります。

 それを見て以世は首を傾げます。手に取ったそのノートには、父の文字であろう文章の中に後から読めないように黒く塗りつぶされている部分が幾つもあったのです。どうやら塗りつぶされているのは名詞のようですが…。

「以世、懐かしいものを見つけた掃除中の以千代のようになっているぞ」

 ああ、母は掃除苦手な人だったんですね…。

 ここで考え込むのはやめましょう。以世はそのノートもエコバッグにつっこみました。

「とりあえずはこんなものか」

 そうですね。以世はすっかり重くなったエコバッグを軽く持ち上げて言いました。撤収しましょう。 きちんと研究室に外から南京錠をかけなおし、自転車のチェーンもしっかりかけました。

 以世はすっかり傾いた日に向かって大きく伸びをします。 それにしても本当に欲しい資料が団子になってて助かりましたね。

「そうさな、前にここに入ったものはどうやら以世と同じ事を知りたがっていたらしい」

 その言葉をきいて、以世は山を降り始めていた足をぴたりと止めました。

 …え? 今なんと?

 六波羅は豪快に笑い声をあげながら容器に続けました。

「いやあ、調べ物なんかは横取りするに限るな以世。相当の時間が節約されたぞ」

 ということは、なんですか? あそこに来ていた人は、以世と同じようなことを調べていたと?

「それ以外になんだと思っていたのだ」

 以世は一滴絵具を垂らされた水みたいにさっと不安が沸き立ちました。

 本当にあの研究室に誰か知らない人が入っていたのですね。そうだと思うと、少し背筋が寒いですね…。調べものをしていたのは一体何者なんでしょうか。

「あと考えられる可能性は…まあ、よい。資料の種類から見て六大呪家の知識が無いものだろうな。思っていたほど脅威ではなさそうだ」

 六波羅は余裕綽々です。

 脅威ではないとはいいますけれど、本当そうなんでしょうかねぇ…。

「ところで以世」

 なんですか?

 このまま山を降りようと思っていた以世は六波羅のそわそわした声に振り返りました。

「…風に当たって帰らぬか」

 突然きりりとした顔つきでそう言った六波羅に以世はすかさず言いました。…鈴城ですね。以世がそれを聞くと六波羅は「まいったなー!」とでれでれ笑いました。

 以世は大きなため息をつきます。六波羅がこんなにわかりやすいと男だとは思ってなかった以世は、なんとなく複雑な気分になりました。

 早く帰って調べ物したいんですけど…。 以世はそう訴えますが六波羅はそんな声はまったく堪えないようです。

「少しぐらいよいではないか。お山に鎮座しておるのだ、挨拶ぐらいしていかねば」

 この山お前の山じゃなかったんですか。

「とんと昔の話よ」

 一の家が山をどうにかしたというときはやたらと自分の自分のと言っていたのに、いい加減なやつですね。

「細かいことは気にするな。それに鈴城様のところへ行くのならばまた明日と昨日言ったではないか」

 そりゃ言いましたけど…。

 以世はぶーぶー言う六波羅に対して大きなため息をつきますと、両手を腰に当てました。

 もう、仕方がないですね!

 以世が高台へ続く道へ足を踏み出しますと、六波羅は「いえっす!」と小さく呟きながらガッツポーズをとっていました。どんだけうれしいんでしょうか…。

しかし二人が高台についた黄昏時に鈴城の姿は見られませんでした。

 周りを見回してみても、木々の隙間を見てみても、崖下を覗いてみても居ません。

 …帰ろうか。以世がそう言うと、六波羅はあからさまに意気消沈しながらも頷きました。まあ、これだけ探していないのですからこれ以上駄々こねられても困りますからね。以世的には助かりましたけれど、鈴城は一体どこへ行ったのでしょうね。成仏したのでしょうか?

「それはない」

 即答です。

「まあ、どこぞに出かけているのであろう。…たいみんぐが悪かったな」

 そうは言いますが六波羅の落ち込みぶりはあまりにもすさまじく、苔やきのこが生えそうなくらいです。気の毒になってきたので以世は控えめに言いました。

 元気出せよ、また来よう。

「…そうさな」

 その割には後ろ髪ひかれまくりです。

 以世は六波羅の引かれまくる後ろ髪をばっさり断髪するかのごとくさっさか家に帰りました。 早いとこ資料を紐解きたかったですからね。 家に戻ると以世は自分の部屋に引きこもります。

 さて、まずなんの資料を開きましょうか。悩みどころです。

 少し考えてから、家の見取り図を取り出しました。図を見ると平屋ですが、以世の部屋は二階にあります。きっと増改築の賜物でしょう。基本的な部屋の場所などは変わりませんが、現在は部屋が増えたりしていますね。その中に一つ、覚えのない場所に階段の印がありました。一階の廊下です。

「これだな」

 その図にはしっかりと廊下から地下に降りる階段と、その奥に座敷牢があったことが記されていました。階段は少し長めのようです。 深いんでしょうか。

「防音の為だろうな」

 いやな感じに実用的ですね…。しかし、図で見る限りは地下にスペースがありました、というだけで特に特別な感じはしませんね。

 特別他に地下へ降りる隠し階段があるようには見えませんし、図面でみる限りは何の変哲もなさそうです。 …意外と収穫がありませんね。

「可能性を潰すという点で言うのなら一歩前進だぞ以世」

 それはまあ、そうですね。

 図面を見ているだと新しい発見は見込めなそうです。他のものを見てみましょうか。

 以世は持って帰ってきた資料を一つ手にとって開きました。これは各家の特色が書いてあるもののようですね。基本的には父の筆跡のようですが、時々小筆で祖父のものらしい落書きのようなものも書いてありました。なになに。

 ―――一の家は六大呪家を束ねる長たる家だが、権力を有すると言う以外でこれといった特色がみられない。

 …そう言われればと他の家神と比べると一の姫は普通の人に見えますね。

 武士な二反田、神主な三神、四郎丸は天気がどうのって書いてありましたね。五十君は陰陽師、六波羅は坊主。 一の姫本人も前に自分は無力、みたいなこと言ってましたが、一の姫は特別何かできないんですか?

 そう尋ねると、六波羅は力強く頷きます。

「できぬな」

 そんな自信満々に言わなくても…。

「そういわれてもな…あれは間違うことなく単なる凡人よ。持つのは生まれ持っての権力のみ」

 辛口ですね。

「事実だ」

 しかしそんな辛口で自信満々に言ったとしてもここは以世の部屋ですし、六波羅が腹かきながら寝そべってるのは以世の畳んだ布団の上なんですがね。締まらないし勝手に寝るのやめて欲しいですよね。加齢臭とか移りそうですよね。

「せぬわ!奴はそのような臭いなどせぬわ!むしろ驚くほど無臭で寂しいくらいだ!!」

 うん、生きてないですからね。

「まあ表向きには一つのの依頼でこの陣を組んだようなものだからな。何の能もないとて六大呪家の長となるのは当たり前よ」

 六波羅はふんと鼻息を荒くします。でも発案者なんですから自分がリーダーやればよかったんじゃないですか?

「奴も五つのもそのように面倒なことはしないに決まっているだろう」

 そういえば五十君も発案者の一人なんでしたっけ。五十君のことはよく知りませんからおいといて、六波羅はまあ確かに面倒くさがってやらなそうですね。

「うむうむ。それにな以世よ、神輿は軽いに限るぞ」

 みこし。

「しかし飾りがつきすぎた。もはや本体が見えぬ。あれだけもりもり飾られては我らの目も届かなぬというもの」

 それってどういうことですか?

「現状把握ができぬということよ」

 以世はうむうと考えました。…つまり、前からそんな気はしてましたが、六波羅は裏番長なわけですね?

 以世がそう言って首を傾げますと、六波羅は大変愉快そうに笑いました。

「その通りだ。わかりやすくて、そう…なうい! 今度から奴をそう呼んでもかまわぬぞ以世」

 全然ナウくないと思いますし、ナウいっていうのが全然ナウくないです。 以世が怪訝な顔をしますと、六波羅は不思議そうに眉を顰めました。

 まあそんな六波羅のことはおいておいて読み進めましょう。なになに。

 ―――二の家は家神の上に当主が立つ珍しい家である。さっきみましたねこれ。

 ということは他の家は家神を崇めるなりなんなりしてるわけですよね。でも皆家神とフランクに接しあってましたけど、そこんとこどうなんですか?

「以世は奴とであう前に六波羅とはどんな存在であると教えられた?」

 六波羅さまは六波羅家の守り神で、毎日拝みながら感謝しなさいって…。ああ、そういうことかと以世は肯きました。

 つまり、どこの家も今の以世と六波羅みたいな関係ということですね。

「そう、信仰よりも信頼が勝っている。しかし、家神は氏神のようなものだからな。基本的にはあがめ、敬う対象として各家にある。家神にふらんくなのは姿が見え、話ができる当主だけだろう」

 確かに以世の祖母も毎日六波羅を拝んでいます。なるほど、では家神を下に置いている二の家ってどうなっているのでしょう。

「簡単だ。二つのは形としては家神として成立してはいるが、基本的には使役のようなものなのだ」

 以世は首を傾げます。最初に顔を合わせた時も確か同じことを言っていましたね。使役というのは…。

「霊的な奴隷のようなものと理解しておけば概ね正しい」

 その言葉を聞いて以世はぎょっとしました。二反田は錦の奴隷なのですか?

「似たようなものよ」

 じゃあ二の家はご先祖様を顎で使っているということですか?

「いや、あの一族は別に二つのの子孫というわけではない。二つのが仕えていた人間の縁者でな、そこから脈々と主従関係が受け継がれている、と言ったところだな」

 以世は感心してしまいました。そんなにずっと仕えていられるだなんて、二反田って忠臣なんですね。

「馬鹿を言え」

 六波羅は呆れたような顔で声を上げると、大仰に肩をすくめてみせます。

「確かに剣の腕と長い時を耐える忍耐力は認めよう。しかし、忠臣というのはな…。あれは主の生命より己のめりっとを優先する男だ。野生の抜け切らぬ半野良よ」

 以世はしっかりしているのにどこかずれている二反田の姿を思い浮かべます。そこに野生の抜けきらないワイルド要素を加えようと以世は必死で想像力を働かせましたが、いまいちうまく想像できませんでした。

 二反田、いい人そうに見えましたけどね。

「奴のようにイケメンで見るからに頭の回りそうな者もいれば、忠実そうに見えて腹の中で金や飯のことしか考えていないものもいる。人は見かけによらぬものよ」

 なんかよくわからない比較ですけど、多分突っ込みは無駄なので放っておきましょう。

 …でも六波羅が言うことが本当ならば、二反田は錦より優先にすることがあるかもしれないってことでしょうか?

「いや、今はないだろうな。しかしいつ気が向くかわからぬぞ? あれは野生育ちだからな」

 六波羅はそう言いますが、やっぱり以世は二反田をそんな風に思ません。以世は口には出さずそんなことはないだろうなと心の中で頷きました。

 次は三の家です。

 ―――三神を祀る三の家、三神家および三神神社は、元をたどると他の神社の分社扱いになっている。本社はミツハノメを祀るところまで突き止めたが、どこにあるかなどは不明。

 …みつはのめって、三つ葉の神様か何かでしょうか。さっきから首を傾げることばかりですね。

「ミツハノメは日本神話の女神だな。弥都波能売神と書く。三つ葉の神ではなく水神よ。元より三つのはミツハノメを祀る神社の神主でな。奴が無理を言って引き抜いたのだ」

 よく神主さんを説得しましたね。何となく神社とかお寺って政治から切り離された治外法権なかんじしますけど。

「あー、それはもう大変そうだったぞ」

 大変そう、ということは、人にやらせたんですね。以世がジト目で六波羅を見ると、六波羅は「隠し事はできぬな」と笑いながら自分の頭をぺしりとたたきました。ふざけてますねぇ。

 しかし、三神が神様に仕える人で本人も神様と言うことは、三の家のバックにはビッグゴッドが控えているのでしょうか。

「ないな」

 即答です。

「我らと神話の神などでは格も違えば次元も違う。彼らにとって我らなど人にも劣るくずのようにしか見えぬだろうな」

 家神って立場弱いんですね

「神としてはな。しかしミツハノメに連なるものという理由付けで三つ自身には水の属性が備わっている。全く無関係というわけでもないのかもしれんな」

 属性とかゲームみたいですね。他にも属性とかついてる人いるんですか?

「そうさなあ、強いて言うならば、一つのから数順に火、木、水、木、金、土、と言ったところか」

 変な属性ですね

「そういう属性じゃんるもあるのだ。それにしても以世、資料の続きはいいのか?」

 そうでした。次は四の家ですね。

 ―――四郎丸は豊穣の神であり、ある程度の天候を自由に操れる。座敷童に分類されていい家神だろう。元より農家であった四郎丸家に福、冨をもたらす。ただし、どんなに嫌になったとしても普通の座敷童と違い出て行くことはできないという。

 …座敷童だから四郎丸は子供だったのですね。それにしても、普通の座敷童って出て行ったりするんですか?

「するとも。飽きたら出て行くこともあるかもしれぬが、おもに酷いことをすると出て行ったりするようだな。座敷童が出て行くとその家には凶事が訪れるという」

 どんなに嫌にやっても出ていけないというと、どういうことでしょうか。四郎丸は家のことが好きだから出て行かないとかそういうことではないのでしょうか。

「好き嫌いは関係ない。あれは家神だから出ていかれぬのだ」

 前にそんなこと言ってましたね。家神は当主がいないと社である家から出ることができない、でしたっけ。…出て行かない座敷童をずっと家に置いておくなんてすごくいいことありそうですね。

「すごくいいことがなければ平民の四郎丸家が食品会社の大手に成り上がることなど不可能だったであろうな」

 大手食品会社? そうなんですか?

「よぴかふーずを知らぬか? あれは四の家の生業よ」

 ヨピカフーズ! 以世の目がきらりと光りました。

 ヨピカフーズといえば以世がよく食べるうどんを出しているメーカーですね! いや、うどんは一例ですがお菓子や冷凍食品、他にも手広くやってる有名な加工食品メーカーじゃないですか! 安くて美味しい奴!

「うむ、よぴかは四つの稲光のことだろうな。あれの紋は電光四つ雷。稲光を示す紋だ。雷は豊穣の使いという。あれはよほど稲穂が好きだったらしい。それもあるのか、あれはある程度の天気を自由にできる。そこにも少し書いてあるだろう。」

 なんてことでしょう…四郎丸ってば誰よりも神様っぽいことできるじゃないですか…。

「我等の中で一番神に近いのはあやつだろうな。何しろ十にみたぬまま死んだからな」

 以世はそれをきいて途端にしょんぼりしてしまいました。やっぱり四郎丸があんな小さな子供の格好なのは、そうとしか説明がつきませんよね…。その、身寄りがなかったのでしょうか。

「二つのと違ってあれは両親兄弟共健全だったぞ」

 うん? 以世は首を傾げます。それってどういうことですか?

「あれは奴が親元から買い取ったのだ」

 以世は咄嗟に言葉が出ませんでした。買った、というと、 親御さんがいいっていったんですか?

「子供一人の代わりに一生働かずに済むどころか後世まで残る家と財産が手にはいるのならば、あの頃の人間の半数は理解を示すと思うぞ」

 以世は何もいえませんでした。家神になるということ、きちんと説明したのですよね? そのためにはどうなるかっていうことも?

「したとも」

 …世の中には色んな親がいるもんですね。 以世はしょんぼりしてしまいます。

「貧しさでやむなく口減らしで子を殺すこともあるのだ。ただ殺すだけではなく金を生む金の卵になるのなら話に乗らぬ手はない」

 このひとでなし坊主絶対宗教の教えに反している気がしますね。

「なに、しょせんは生臭よ」

 以世はひどく悲しくなってしまいました。次行きましょうか…。

 次は五の家ですね。

 ―――五の家は、その筋では有名な陰陽師の一族である。何か困ったら相談してみよう。

「それだけか?」

 それだけですねえ。 みようってこれ、どちらかというと感想ですかね。

「うむ…」

 以世も五の家に聞きたいことがありますから、今度訪ねてみましょう。

「そうさな」

 次、以世の家である六波羅家ですね。何が書かれているのでしょうか…。

 ページをめくりますと、そのページには文字はあまり書いてありませんでした。

 その代わり、大きい六の紋と小さく色んな形の六芒星の紋が沢山スケッチしてあります。どれも見たことのない紋です。以世は首を傾げてしまいました。

 そのどの六芒星にも、三角と三角を重ねた継ぎ目の所に色あせかけたオレンジの蛍光マーカーが引かれています。 これが一体どうしたというのでしょう。 よくよく観察してみると、小さな紋のスケッチは継ぎ目がすべて同じ方向なのに、六の紋の継ぎ目だけ逆向きになっているようでした。

 文字は籠目、逆籠目、としか書かれていません。 これが一体どうしたというのでしょうか。 疑問でいっぱいの以世の横で、いきなり六波羅が大笑いし始めました。以世びっくりです。

「いや、すまぬすまぬ。なかなか弥生は侮れぬな。感心した。…惜しい人間を亡くしたな」

 なんですかいきなり…。

 楽しそうな六波羅を訝しげに見ながら以世は更にページをめくります。 そのページを見て、以世はぎょっとしてしまいました。何故ならそのページに書いてあったはずの文字が墨のようなもので塗りつぶされていたからです。 なんでしょう、これ。

 どうやらある単語を選んで塗りつぶされているようですね。そういえば先ほども一瞬だけこのページを見ましたね。一体なんなのでしょう。

「うむ…」

 六車山…塚…臣下…杭?

 単語をピックアップするとこんな感じです。

「六車山は裏山のことだな。単語から考えてあれのことが書いてあるのだろう」

 あれ、というとなんとかさまのことでしょうか?

「うむ。特に名が潰されているようだが…」

 どうしてこんなに念入りに塗りつぶされているのでしょうか。なんとかさまの名前が残っていると、まずかったんでしょうかね…?

「わからぬなぁ」

 そんな気の抜けた返事をする六波羅はあまり真剣な様子ではありません。以世はため息をつきました。六波羅は本当になんとかさまのことが比較的どうでもよさそうですよねぇ。

 ぴらりと以世がノートの最後のページをめくりますと、六波羅は突然何かに気がついてはっと飲んだような気がしました。

「以世、それは…」

 え?

「…」

 六波羅はそれきり口元に手をあててひどく難しい顔をして黙り込んでしまいました。以世がノートを見下ろしますと、そこには真っ白なページの中に走り書きで一つだけ、「八重樫」とだけ書かれていました。 筆跡の様子から言って、父が書き残したものでしょう。

 八…? 六波羅、これって…。

 以世は六波羅を見上げます。いままで見たことのないくらい六波羅が驚いるようでした。

 六波羅は長い息をつきますが、その間も視線は八重樫の文字から一度も離れませんでした。

「…なんという…」

 …六波羅、八重樫とはなんなのですか?

「いや、なんというかなぁ…非常ーに表現しづらい」

 なんですかそれ。もしかして前に言った「八なんて家はない」っていうのは嘘だったのでは?!

「そのようなせこいまねはせぬわ。…それにしても、しかし…」

 六波羅は心底感心したようにぶつぶつ呟いていましたが、やがてふるふると首を振って悔しそうな顔で笑いました。

「本当に、惜しい男を亡くしたな」

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