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第37話 千波ちなはメインヒロインである④

「……どこから出てきたんだ、その話は」


 普段通りの声を意識して答える。


 浮かれた、あぁかわいい先輩の家に泊まって、美人な同期とサシ飲みで浮かれちまった社畜の頭に、バケツ一杯の氷水が注がれた。


 どこかで二人でいるところを見られたのか、単なる千波の予想なのか。

 アホの子みたいなくせに、変なところで勘がいいからなここいつは……広報課で生き残るとは、そういうことなのだ。


「ははーん、付き合ってはなさそうね。せっかくカマかけたのに」


 けぷっと可愛らしい音と共に面白くなさそうな感想が吐き出される。

 あっぶね〜。別に付き合ってる訳じゃないが、何もなかった訳でもないし。


 せっかく美味しいもの食べに来たんだ、頭空っぽで楽しませてくれよ。


「やめろよ、悪質すぎる」


「社内のロミオたちを差し置いて、こっそり水族館でデートしてる方が悪質だと思わない?ねぇねぇ」


「……っ」


 カウンターパンチが鳩尾のいいところにバツンと入った。


 ジョッキ越しに見える顔は笑っていた。

 クソがよ、こっちが本命の弾かよ。お望み通り致命傷だわ。


「それはちなみに?」


 一応聞いておく。

 またカマかけられたらたまったもんじゃないからな。


「ちなみにちなむと、裏取れてる」


 にまっと笑って餃子を摘む千波。


「はぁ〜〜〜」


 長い長いため息がテーブルを這う。

 さて、言い訳は無用。裏取りされてるなら隠しても無駄だ。

 くそ、一体誰が情報を漏らしたって言うんだ。


 ここから入れる保険とか……ないですか、そうですか、なら仕方ない。


「あれは取材な、強制連行された」


「実際の話はどうでもいいの。外からどう見えるかってのが大事だから」


 ツーンとした言葉が帰ってくる。おかしい、初夏のはずなのに背中が粟立つ。


「はいはい、負け負け俺の負けだ」


 箸を置いて降参のポーズ。どうせ何言っても詰められるんだから、潔く諦めた方がいい。


「立野と瑚夏さんが水族館デートした話、他の人は知らないから安心なさい」


「ん?でも裏取れてるって……」


 というかデートじゃないし。

 情報の出処はいったいどこなんだ。


「そうそう、瑚夏さん本人からね!」


 何してんだあのジュリエットは。

 よりにもよってどうして千波に……まぁ大方おもしろそうだからとかいう意味のわからない理由だろうけど。


「それで私イラッときたわけよ」


 ダンッとジョッキがテーブルに打ち付けられる。

 おうおう、入ってきたなガソリン。


「なんで先輩の話でイラッとくるんだよ、瑚夏さんと仲良いだろお前」


「例えばいちごのショートケーキがあるじゃない?」


「突然わからん例え話始まった……」


 あまりにも唐突すぎる。しかも絶対中華料理屋でする例えじゃない。

 もっとこう、「麻婆豆腐があるじゃない?」とかなら納得感もあるんだが。


「で、そのショートケーキを二人で食べるの。ちょうど半分にしようと思ったら、『細く長く』と『太く短く』でわけられるじゃない」


「綺麗に端から半分に割ったら、同じ形が二つできるんじゃないか」


 こう、中心角かちょうど半分になるように切れば……。


「こらそこ!茶々入れずに聞く!」


「はい」


「よろしい……んぐんぐ」


 音を立てて喉にビールを流し込む千波。

 ジョッキの中は既に半分以下だ。


「それでね、やっといちごにたどり着いたと思ったら、相手がフォークを既に刺してて自慢してくるわけよ」


「確かにムカつくかもな……いっそ二人でいちごを半分ずつにすればいいんじゃないか?」


 一人の食べる量は減るかもしれないけど、どちらも「いちごのショートケーキを食べた」感は得られるだろう。


「はぁ〜〜〜〜〜」


 今日イチ長いため息。


「立野はなーーーんにも!わかってない!」


「えぇ……だって二人とも満足した方がいいだろ」


「いい?私は一人でいちごを独占したいって言ってるの」


 それは無茶だろ、そもそもひとつのショートケーキを二人で食べている時点で。


「だからね、私もちゃんとフォークを刺すことにしたの」


 千波はスマホをこちらへ向ける。

 夜空に浮かぶ大輪、でかでかと書かれていた文字は花火大会。


「私と一緒に来てくれる?もちろんデートでね」


 いつものあどけない顔ではなく、見れば引き込まれそうな深く艶やかな表情。

 思わず喉を鳴らした俺は、彼女の指先が震えていることには気付かないふりをして、軽く頷いた。

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