第8話
私がレイ様とジャクリーンがいる部屋に戻ると、ジャクリーンがデザイン画を見ていた。
「ジャクリーン、商談は上手くいったの?」
「えぇ、お互い満足だと思うわ」
レイ様の方を見ると頷かれた。
「フェリシア嬢も前回とは別のデザイン画だから、見たらいいよ。私は納入されたアッテン帝国の生地を持ってくるるよう指示してくるよ」
レイ様が席を外された。ジャクリーンと2人になったので話しかける。
「どう。レイ様のデザイン画素敵でしょう?」
「えぇ、アッテン帝国のデザインを元にアレンジされていていいわね」
「シア姉様はデザインを選んだのよね」
「そうよ、だから今日は生地選びと採寸ね」
ジャクリーンもデザイン画の中から2点と生地を選んだ。
ジャクリーンはこの後、他に用事があるため、採寸は別の時にするらしく、レイ様に挨拶後、一緒に屋敷に戻った。
それからもお茶会や夜会に積極的に出席して、姉と妹の結婚相手を物色しに行くが、いい出会いはなかった。
「フェリシア嬢、結婚する気になったのだね。積極的に殿方たちと話してしていると噂になっているよ」
レイ様が完成したドレスを持参して屋敷に来てくれたのはいいが、部屋に入ってくるなり、私に噂の真相を聞こうとしてきた。
侍女がレイ様と私にお茶を出して、ドア付近まで下がってから、私は返事を返す。
「レイ様、違いますわ。わたくしではなく、姉と妹の結婚相手を探しているのです。2人ともちっとも相手を見つけようとしないのですから!」
私の憤慨にレイ様は驚いている。
「えっ、自分はいいの?」
「わたくしは2人と比べると容姿も平凡ですし、姉の子を立派な後継ぎとして育てなければいけませんもの」
「本気で言っている?」
「レイ様、冗談などいいませんわ」
「彼女たちもフェリシア嬢の幸せも願うよ。自分も含めての相手探しに変更しなよ」
「わたくしは、男性を信用できないのです!!」
「昔の婚約破棄で?」
「ズバッと言いますね」
「フェリシア嬢には、はっきり言った方がいいでしょ」
「・・・・そうですね」
「確かにフェリシア嬢の元婚約者の男性は最悪だったが、誠実な男もいるよ。もっと周りを見てごらんよ」
「なんの話をしているのかな?」
姉が突然部屋に入ってきた。
「お姉様」
「これはロックフェルト女侯爵、お邪魔しております」
レイ様がソファーから立ち上がり、姉に挨拶をした。
「かしこまらなくてもいいよ。それよりなんの話をしていたのかい?」
レイ様が、わたくしが結婚相手を探していると、社交界で噂になっているという話を説明していた。
「あぁ、私にも問い合わせが増えているよ。フェリシア宛の釣り書きが増えている」
「まぁ、困ったわ、どうしましょう」
「私はてっきりフェリシアがこの前の話で、後継ぎを生んでくれる気になったとばかり思っていたよ」
「違います、それよりもお姉様、このデザインお姉様に合うと思うのです」
私は話をそらすために、レイ様が描いたデザイン画を渡す。
「へぇ、変わったデザインだ。でも面白そうだ。作って貰おうか」
「お姉様、そうでしょう、気に入られると思ったのです。生地はどうしますか?」
「フェリシアが選んでくれたらいい、採寸は後日、店に行こう」
「女侯爵、ありがとうございます。お待ちしています」
「フェリシア、セバスチャンが確認したいことがあるみたいだ。私がレイ様をお相手しているから、確認してきなさい」
姉が話を急に変えてきた。私に急な用があったから来客中でも部屋に来たのだろう。
「そうなのですか?わかりましたわ。レイ様少し失礼いたします」
レイ様に謝り、ソファーから立ち上がって部屋の入り口に向かうと背中越しにレイ様が声をかけてきた。
「フェリシア嬢、急がなくていいからね」
ドアが閉まり、フェリシア嬢と侍女の足音が遠くなったところで、私から口を開く。
「さて、女侯爵。フェリシア嬢を外させてまで、私に何か用かな?」
「あぁ、王家の影のあんたが、なぜフェリシアに付きまとう」
「失礼だなぁー。あくまでもお客様だよ」
「あんたが我が家のことを、嗅ぎまわっていることは知っているんだ。さっさと吐け!!」
「話してもいいけれど、先に訂正しておくよ。私は王家の影ではない。あくまで国家にかかわる案件の時だけ情報提供しているが、あとは断っているよ」
「・・・・なら、なんであんな組織のボスをやっている」
「趣味かな?」
「はぁー、趣味だと」
「そっ、あくまでも情報屋。暗部の組織ではないよ」
「あっさり言うな」
「あなたは信用してもいいと思っている。では話しましょうか」
私が用事を済まして応接室に戻ると、お姉様はいなかった。
「フェリシア嬢、お帰り。女侯爵はデザイン画を選び終わったら、退出されたよ」
「まぁ、お客様を放置して申し訳ありませんわ」
もうお姉様ったら、いくら仕事が忙しいからって、マナー違反だわ。
私が怒っているのがかわったのか、レイ様がお姉様のフォローをしてくる。
「私から仕事があるだろうから、退出していいと言ったのよ」
だから女侯爵を責めないでね。レイ様にそこまで言われると、わかりましたと答えるしかない。
レイ様はこの話は終わったとばかりに
「お針子たちが別の部屋で待機しているから、ドレスを試着して確認してくれるかな?」
私は侍女を連れて別室に移動した。