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第四十一話 十字




「あーらら。まさか本当に行けちゃうなんて」


 どの妖精に尋ねても知らぬ存ぜぬの返答しかもらえなくて、やぶれかぶれの考えだったのに。

 原符は心中で独り言ちながら、忽然と姿を消した竹葉へと想いを馳せた。

 



 秘密の竹林。

 ところどころ残っている記憶によれば。

 とにかく、恐ろしい場所だった、ような。

 落下し続けたり、閉じ込めら続けたり、追いかけられ続けたり、上り続けたり。

 具体的には思い出せないが、竹職人の証を持つ者ですら、逃げ帰り竹職人への道を諦める者が多かったのだ。

 竹職人の証がない竹葉にはどのような恐怖が待っているのか。

 その恐怖に耐えられるのか。

 耐えられずに諦めるだけならばまだ、いい。

 逃げ帰ってこられるのならば。

 けれどもし、二度とこの空間に戻ってこられなかったら。


(やっぱり、わしも行ける道をまだ探した方がいいかなー。一応弟子だしね。師匠としてできる事は、ねえ。しないとねえ)


 原符は立ち上がろうとした。

 けれど、できなかった。

 大泣きしているパンダが圧し掛かってきて叶わなかったのだ。


「わあああああ!!!おいらも!!!おいらも!!!行きたかったあああ!!!」

「あ~はいはいよちよち。ほら。赤光茸をあげるからね~。ちょっと退こうか~」

「わああああああ!!!足りねえ!!!これっぽっちじゃあおいらの悲しさは埋められねえええ!!!その二本の竹を寄こせえええ!!!」

「あ~はいはいよちよち。これはダメだからね~。わしの大切なものだから食べないでね~。これからあのおじちゃんとオカメインコがいっぱい赤光茸がある場所に連れて行ってくれるからね~」


 原符は傍に立つ国王と魔女を見上げた。

 遠くから見守っていたが異変を察知したのだろう。駆け走って来ては竹葉が消えた瞬間に立ち会っていたのだ。


「なあ、いいよね?」


 原符は魔女に視線を留めた。

 魔女は国王の肩に乗ったまま原符の視線を受け止めては、国王を一瞥した。

 一心に原符に視線を注ぐ国王に、国王の視線をまるで受け止めていない原符。

 このまま一緒に居ても碌な事にならないだろう。

 そう判断し、原符の言に乗ってやる事にした。


「ああ。パンダ。一緒に来い。われたちが案内してやろう。のう、国王」

「あ。ああ。そう、だな」


 何か言いたげだったが、結局飲み込んでは魔女の言葉に従った国王は原符に背を向け、魔女の示す方向へと歩き出した。

 パンダはいっぱい食ってやると息巻いて原符から離れると、国王と魔女について行った。




「はあ。やれやれ。よっこらっしょっとい」


 一度前に倒して地面に上半身をつけてから、両手をつけずに足だけで一気に跳ね上がっては立ち上がった原符は、二本の竹棹を十字に重ねて勢いよく擦り合わせて音を走り響かせた。


 



 






(2023.3.21)



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