第三十九話 舞と音
舞って歌おう。
原符は搾り取られた身体をひょろひょろと動かしながら、竹葉に言った。
異世界に行く方法は大概これだと、瀕死の相が刻まれている顔を向けながら。
カンカァアアァン。
竹同士で叩いた音がこの場に響く。
高く澄んだ音だった。
この場がおもむろに清められていく。
竹葉は憧れの君が持っていた竹笛を通して竹への想いを強めながら、剣士の舞いを披露した。
すり足で四方八方へと進んでは戻りを繰り返し、腕はひたすらに上下、下上、斜め下、斜め上への振り下ろし振り上げを繰り返す。
ひたすら静かに。
原符はゆっくりとたおやかに二本の竹を叩き合わせ、竹が織り成す音色を響かせる。
続けていく内に。
舞に鋭さと滑らかさが増して来た。
音にふくよかさが増して来た。
場が冷たく、ほんのり暖かくなっていった。
どこからか。
どこからか、聞こえて来る。
パンダの声が。
魔女の声が。
国王の声が。
何かを言っている。
何を。
こちらに向かって何をそんなに必死に言っているのか。
訴えているのか。
聞こえない。
竹の葉が擦れあう音が邪魔をして。
おかしい。
竹の葉などないのに。
原符が持つ二本の葉のない竹棹しか。
聞きたい。
まだ、止めないで。
原符はまだ手を止めないで。
貴方の響かせる竹の音色をまだ聴いていたい。
この音色の中で、剣士の舞をもっと。
もっともっともっと。
「もっ。っと。って」
足元がスース―するなあと思った竹葉は視線を下げては。
「いいいいいやあああああぁぁぁ!!!」
真っ逆さまに堕ちて行った。
(2023.3.19)




