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13話・祝勝会


 王都の東地区と北東地区の境目に店を構えた高級レストラン「フラミンゴ」の個室では、ジュージューと肉の焼ける音と匂いが満ちている。


 皿いっぱいの大きさの、ぶ厚いワイバーンステーキ。


 一人前で三百グラムを超えるそれを、食すことすでに十五皿目。


 一口で皿の半分ほどの量を噛み切っては頬張り、モギュモギュと咀嚼してはゴクンと飲み込む。


 途中で年代物の高級ワインを何本も空けて水のようにラッパ飲みしても、全く酔った様子のない男。


 スミだ。

 大型の肉食獣のような食欲で、黒髪の偉丈夫はひたすらに肉を喰らう。


「ひょえー……」


 一緒のテーブルで同じメニューのお肉を食べているラウラは、一皿目の半分くらいでもうお腹いっぱいになってきて、今は付け合わせのニンジンやブロッコリーをスミの皿からもらいながらちまちまと食べている。


 スミの、同じ人類とは思えない食欲に、なんだかもうラウラは驚くばかりであった。


「もう一皿注文する?」


「そうだな。おかわりだ」


 チリンチリーン、と鈴を鳴らすレオだが、レオもすでにワイバーンステーキを三皿完食して、デザートのケーキを食べているところだ。


 こちらもだいぶ、よく食べる。

 レオ(獅子)の名は伊達ではないということか。


 そしてラウラは、このお肉残したら怒られちゃうかな、と内心ビクビクであった。


 それはそれとして、レオが食べているケーキも美味しそうだから自分も注文したいなー、とかも考えている。


「あのー、スミ、さん?」

 

「……なんだ」


 呼びかけたとたん、じろりと見つめられて思わず慄く。


 新月の夜のように黒い髪に、褐色の肌。精悍な顔つきと、猛禽類のように力強い目。


 レオの友人ということで一緒のテーブルについてはいるが、はたしてこの男は自分のことをどう思っているのか。


「良かったら、わたしのお皿のお肉も、いりますかー、なんて……」


 なので試しにお肉を与えてみる。


 友好の第一歩は、贈り物からだ。


 けっして、お肉食べ切れないけどケーキは食べたいから代わりに食べてもらおうとか、そういうことではない。


「良いのか」


 表情に変化はなかったが、なんだかちょっと嬉しそうだぞ、とラウラは感じた。


 これは、好感触なのでは?


「うん、ぜひぜひ」


「そうか。それならありがたく頂く。アンタ、思ってたより良い奴なんだな」


「思ってたよりって??」


 なに、どういう風に思われてたの??

 と、ラウラはとても気になった。


「レオから聞いている。アンタ、身の丈に合わない額のギャンブルに負けて借金まみれになり、身売りしたところをレオに買われたんだろう? だからてっきり、自己中心的で刹那主義の、欲望まみれのクズかと思っていた」


「それはあんまりすぎじゃない!? というかその評価がお肉もらっただけで変わるのもどうなの??」


「自分の分の肉を他人に分けることができる。これ以上に人間性が高いことを示すエピソードを俺は知らない」


「スミさん、もうちょっと人間について勉強したほうがいいんじゃない……?」


 良い奴判定がガバガバ過ぎる。


 これはわたし以上に悪い人に騙されやすいのでは? とラウラは思った。


「騙されやすそうに見えるけど、人の悪意とかには人一倍敏感だから、スミ君を下手に騙そうとするとすぐにバレてビンタされるよ」


「それって死ぬやつじゃん。今日見たよ」


 死んではなかっただろう、とスミは言うが、あれは「死んでないだけ」とか「死んだほうがマシ」とかいうやつだと思うので、ラウラはスミを騙したりするのはやめようと心に決めた。


 さて、そんなこんなと話しながら食事を続けていると、スミが思い出したかのように言った。


「そういえばレオ、今日はいったいどんなイカサマをしたんだ?」


 ごくごく普通の口調で、聞いてくる。

 ケーキを食べていたラウラも、手を止めてレオを見た。


「スミ君までひどいな。先にイカサマをしたのはジョンのほうだよ?」


「それなら、そのイカサマを逆に利用してハメたんだろ。お前のよくやる手だ。相変わらず、性格が悪い」


 スミの言葉に、レオは困ったように笑う。


「あの、レオさん。結局あの男が使ってたイカサマって、どんなものだったの?」


 イカサマの詳細を知らないラウラが問うと、レオは懐から数枚のカードを取り出した。


「これ、サーティーン・ポーカーで使われてたカードなんだけど、ほら、裏面のここの花びらを見比べてみて」


「んー……? あれ、なんか、ちょっと変かも…….?」


「この花びらの細くなってるところが表面の数字とマークに対応してて、それを見ると表面の数字とマークが分かるようになってるんだ」


「え? ……えー!?」


 言われたラウラはカードを見比べてみて「ほ、ほんとだ……!?」と心底驚いた。


「ま、まさかこんな単純なことだったなんて……。こ、こんなことに気付かずに、わたしは……!」


「なんだ、もしかしてラウラは、これに気付かずに大勝負して負けたのか」


「う……! はい……」


「そうか。……やはりお前は悪い奴じゃなかったようだ。単にバカなだけだったんだな……」


「バカって言うな!!」


 怒ったラウラが吼える。

 スミは両手を合わせて拝んだ。


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