桃太郎は言いました。「私が悪い鬼を退治して参りましょう。」
「お前もすっかり大きくなった。そろそろ魔王討伐の旅に出る時だろう。」ジジィが言った。
お前突然何言い出した?
いや、中身で評価してくれるのはいいよ。
でも、俺、見た目年齢も実年齢もまだ5歳くらいなんすけど?中身はおっさんだけど。
「わしにはもう、お前に教えることは無い。」
お前からは何も教わっとらん。だいたいお前、2年くらい前にイキんで腕相撲挑んできて返討ちにあってベソかいてたやんけ。
まあいいや。
「ありがとうございます。いままでお世話になりました、おじいさん。」一応、ジジィに頭を下げる。
「ワシらがここまで貧しいのも魔王のせいじゃ。」
説明が雑。
「お前は魔王を倒してこの世界を平和にしなくてはならぬ。」
説明が雑。
「桃太郎よ。その歳にして大人にも勝るとも劣らないその胆力。お前は魔王を倒すために神が川に流した勇者に違いない。」
なんか釈然とせんが、たぶんだいたい合ってる。
まあ、ここが潮時なのだろう。こっちまだ5歳だけど。
「わかりました。おじいさん。」俺は胸を張って言った。「必ずや鬼を退治してまいりましょう。」
「鬼じゃなくて魔王な?」
「・・・すみません。魔王を退治して参りましょう。」
「まあ、桃太郎!そんなことが言えるほど立派になって!」ババァが言った。
何も教えとらんのに立派に育っていく子供に少しは疑問を持てや。ネグレクト夫婦。
ジジィはどこからか持ち出してきた自分のお古の着物を俺に着せ、刀をくれた。
「桃太郎や、これも。」
ジジィとババァが二人がかりでサンタが担いでいるような大きな袋を持ってきた。
「これは?」
「キビ団子じゃ。」
知ってた。
にしても、すげえ量だな。早めに誰かにおすそ分けせんと腐りそうだ。
でも、まあ、なんだ。
このじいさんとばあさんは貧しい暮らしだってのに、川から流れてきた訳の分からないガキを5年近くも育ててくれたんだ。
しかも、お古とは言えなんだか高そうな服と刀や、たくさんのキビ団子までくれた。
別に愛してるとか尊敬してるとかまではいかないが、マジで感謝はしてる。
「おじいさん、おばあさん。ありがとうございます。」俺はもう一度二人に深く頭を下げた。
ただ、一つ納得がいかないのは、ジジィとババァが恋人つなぎでずぅ~っと手を握っているという事だ。
なんだったら、時々ババァの親指がジジィの手の甲をやさしくなでている。
時々交わす二人の視線がピンク色だ。
俺の旅立ちに関する何らかの感情よりも、『ようやく邪魔者も居なくなったし、今晩・・・』みたいな嬉しさのほうがありありと伝わって来てむかつく。
「達者でな。桃太郎。」
「はい。お二人もお元気で。」
俺は世話になった老夫婦に背中を向けた。
すべての庭の石が、物理法則に反逆するかのようにせり立っていた。
おまえら、これからどんだけする気だよ!?




