四天王vs桃太郎
「良く来たな。」
「桃太郎。」
「よ。」
うーん。さっきまでかなりシリアスな流れだったような気がするんだけどなあ。
最後の四天王ケルベロスを目の前にして俺は困惑していた。
「ここから先は。」
「絶対に通さ。」
「ん。」
ケルベロスは俺の思っていた犬系ケルベロスとは全然違った。
秀吉が異形と言っていたが、まさにそれだった。
フォルムは頭の付いていないマッチョな人間。
そして、その胸には牙の生えた大きな口が、上、真ん中、下と腹にかけて三つ並んで付いてた。
で、その口が上から順に台詞を分割して喋るのだ。
「我が名は魔王軍四天王」
「ケルベロ」
「ス!」
ケルベロスに謝れ不細工!
あと、一番下にもっと台詞残せよ。
今のはもっと均等に割れたろ。
ひと昔前の保険のCMか!
「お前がケルベロスという事は、この先に魔王が居るという事だな?」
俺はムラマサブレードを抜き放ちながら訊ねた。
「馬鹿め、敵にそんなこと教えるとおしえると思うか。」
「ここで死ぬお前にはついぞ関係ない話。」
「そうだよ。」
ん?
「下の口!お前、あんまり喋るなって言ったろ!」
「余計なこと言うなよ、クソが!」
「ごめん・・・。」
え?こいつら独立してんの?
「ともかく、お前がここから先に進むことはない。」
「ここで朽ち果てるがよい!」
「そうだそうだ!」
一番下のやつにも言う事残しといてやれよ。
「い」
「く」
「ぞ!」
ケルベロスが構えた。
「ずいずいずっころばし・・・」
「ずいずいずっころばし・・・」
「ずいずいずっころばし・・・」
まずい!
「ほっほっほーたる来い!!」
慌てて防御魔法陣を展開する。短3節で三つ。
「ごまみそずい!!」
「ごまみそずい!!」
「ごまみそずい!!」
3本の光の矢が、それぞれ俺の防御魔法陣に命中した。
そして、そのうち一本の矢が魔法陣を破壊してなお突き進み、俺に命中した。
「ぐあっ!」
衝撃で後方にはじき飛ばされる。
「我の矢が魔法陣を抜いた。」
「我の矢が魔法陣を抜いた。」
「真ん中の口の矢だったよ。」
衝撃から立ち上がると、ケルベロスの空気が少し悪くなっていた。
しかし、まいった。
3つの口に同時に呪文を唱えさせたらダメか。
どの口の矢もかなり強力だった。
先行して接敵しないとまずい。
「ずい!」
短節を唱えて敵に突っ込む。
「ほっ!」
「ずい!」
「ずい!」
ケルベロスの前に現れた防御魔法陣が俺の矢を防御し、二本のマジックミサイルが俺を捕らえた。
「ぬあああああっ!」
マジックミサイルのクリーンヒットを受けて、後方に吹っ飛ぶ。
「我れらの魔力はお前にも匹敵し、MPは無限。」
「常にどこかの口が防御魔法を発動し、お前の攻撃を阻む。」
「全ての口がお前よりも優れた魔法の使い手。」
くそう。たちがわるい。
金太郎との戦いの時に使った相手を黙らせる魔法で一つの口を封じて、通りゃんせでいくつか壁を作り相手からの射線を塞いで、防御に徹しながら隙をうかがうか?
いや、そんな時間はない。
速く魔王を倒してネネさんたちを助けに戻らないと。
そうだ、聞いてみよう。
「弱点は?」
「我々に弱点などない。」
「我々は最強の魔法使い!」
「ちょっとのダメージですぐ死ぬよ。」
やっぱり下の口は正直だった!
三つの口が揉め始めたのを見計らってこっそり詠唱を開始する。
「ずいずいずっころばし、ごまみそ・・・
ケルベロスが俺の詠唱に気づいた。
「複節を唱えるような時間を」
「我々がお前に与えると思うか!」
「馬鹿め!」
ここだ!!
この一瞬。集中をきらすな!!
「ずい!」
「ずい!」
「ずい!」
ケルベロスが一瞬で三つの矢を召喚し、俺めがけて放つ。
俺は詠唱を維持しがら矢をギリギリまで引き付けてかわす!右!左!左!
さっきまで俺の居た足元でマジックミサイルが破裂した。
「バカなっ!」
「かわした」
「だと!!」
ケルベロスが驚く。
「・・・茶壺に追われて、」
詠唱も維持できた!!
「ずっころばしの全節が来るぞ!」
「防御を!」
「了解!」
三つの口がほたるこいの全節の詠唱をはじめる。
「・・・ほーたるこい!!」
「・・・ほーたるこい!!」
「・・・ほーたるこい!!」
俺のずっころばしより先にケルベロスの詠唱が終了し、数百の魔法陣がケルベロスの周囲を覆った。
ほたるこいは全節唱えても4節しかないからだ。
そう。
ずっころばしという皆が最初に憶えるのに最後まで最強である魔法が11節まであるのに、防御魔法のほたるこいは4節までしかない。
そして、この世界では、その状況が放置されたままでいるのだ。
防御魔法はだいたい唱えた節の倍くらいの節の魔法を防御できると言われている。
最初かぐや姫と戦った時、彼女はずっころばしの11節で驚いていた。最初は8節だと勘違いした。
おそらく、この世界に伝わっているずっころばしは8節までだ。
「はっはっはっ!4節×3の防御魔法陣だ!」
「古式8節だろうが、この数の魔法陣は通らな」
「い!」
勝ち誇るケルベロスを他所に詠唱を続ける。
「・・・井戸のまわりで、」
「何!?」
「9節目だと」
「!!」
甘い!
「・・・お茶碗かいたの、だーあれ!!」
「「「11!?」」」
三つの口が異口同音に叫んだ。
その瞬間、ケルベロスを取り囲むように数万の小さな魔法陣が次々と現れた。
「11節の分解、短82節。守ってみろよ!」
光の雨がケルベロスに一斉に降り注いだ。
轟音と衝撃の後には、ボロボロになったケルベロスが仰向けに倒れていた。
ケルベロスが白く輝きながら分解するように消えていく。
「さ・・・さすがだ、桃太郎・・・。」
「だが・・・我々を倒したからといっていい気になるなよ・・・。」
「我々は・・・四天王の中でも最弱・・・。」
それ、最後に出てきた奴が言って何か意味あんの?
「桃太郎・・・この先にあるのは・・・お前の死だけだ・・・!」
「魔王様の力に・・・絶望するがよい・・・!」
「頑張れよ・・・!」
下の口がいい奴過ぎる!




