前世ではお世話になりました。今世も宜しくお願いします。
ここで一旦完結になります。
ありがとうございました。
冬休みも後少しという日に、カラオケに行きたい!嫁とデュエットがしたい!という海斗先輩の願いを叶える為にやってきました、カラオケボックスです。
いつものメンバー、愉快な仲間達と菜々達も一緒です。
「いえーーい!」
無表情で手拍子を送る玉田先輩の顔をチラリと見てから、私はマイクを握り締めて歌い出した。
海斗先輩は満面の笑みで私を見ている。私も笑顔で見詰め返した。
歌っているのは童謡だけど…。
「嫁ッ!最高だった!」
歌い終わった海斗先輩は満足そうにしているから…まあいいか。結局私と海斗先輩の知っている曲を照らし合わせて、摺り寄せて辿り着いた曲が童謡しかなかったのだ。
「意外だったな~」
「何がでしょう?」
旭谷先輩がジンジャーエールを飲みながら私を見ている。雪ん子呼びの屈辱はまだ覚えていますよ?
「嫁ちゃんが歌が上手いことと、しかも声も可愛いこと」
「体のリズム感が無いことと、歌の上手い下手は関係ないことが証明されたね」
玉田先輩?!無表情でなんていう毒を吐くのだ?!
「嫁ッ!この歌を歌ってくれ。」
「賜りました」
私は海斗先輩からリクエストを受けた曲を入力する。フフ…翔真と悠真の子守のお陰で某戦隊ヒーローと某変身ヒーローの主題歌の系列と某魔法少女シリーズの歌は夏鈴と彩香のお陰でこれもまた…
完璧に歌える!しかもヒーローショーに子供達と出かけて見たので歌の振りも覚えた!完璧だ!
「おおっ!」
私は振り付きで歌い出した。萌ちゃん花音ちゃん、菜々からも拍手と歓声を受ける。
「人って何か特技があるもんなんだなぁ~」
邑岡先輩っ!聞こえてますよ!
朝からカラオケボックスで歌いまくった私達は夕方前にやっと解散になった。
「新学期までまたね~!」
「気を付けて帰ってね」
私がそう声をかけると笑顔の菜々の背後にはラオウ…旭谷先輩ががズオオッ…と控えてた。本当に気を付けて。ラオウは最強のボディーガードだけど、一皮むけば最強の狼のような気がするんだ、うん。
「少し、歩くか?」
と皆と別れた後に海斗先輩と駅前の雑踏の中を手を繋いで歩いた。
そして世間話をしながらフト見ると…2年の津田川 環先輩のご実家のファストファッションの『モスカル』のショップに目が行った。うん?あれ?私はショウウィンドウを見て気が付いた。
「どうした?」
私が立ち止まったので海斗先輩も立ち止まった。
2人でモスカルのショウウィンドウに貼っているポスターを見る。綺麗なお姉さんが素晴らしいスタイルでモスカルのパンツを履いてこちらを見ている。
「赤いワンピースのお姉さん!」
私の声に海斗先輩が、ああ!と声を上げた。
クリスマスのフランス料理店での修羅場の綺麗なお姉さんその人だった。ショウウィンドウのポスターに写るお姉さんはクリスマスの時に見た時とは違って、薄化粧でシンプルな装いのさっぱりとした美女だった。
フランス料理店で見た時は綺麗なんだけど、すべてが濃い印象の人だったよね。
海斗先輩が津田川先輩にメッセージを送っている。
「津田川さんならこのモデルのことを知っているかもしれんしな。あの指輪も気になるしな」
あ…そうか。あの指輪は魔力を秘めていた。このモデルさんに悪影響を及ぼしていたかもしれない。
メッセージを送ったすぐ後に、海斗先輩の携帯電話が着信を告げる。
「ん?津田川さんから電話か…もしもし?明けましておめでとう。いきなりすまんな、うん。分かった。少し待ってくれ」
と言って海斗先輩はショウウィンドウの写真を撮って津田川先輩に送っている。
「あ、今送った…え?姉?うん、うん。実はなクリスマスのフランス料理店でな…」
海斗先輩はモデルさんがどうやら二股?されていたように見受けられたこと、そして指輪をその男に返していたこと。その男が後で悪態をついていたので気になったこと…などを上手く説明している。
海斗先輩は私の方に顔を寄せた。
「どうやら例の女性は津田川さんの実姉のようだ。…ん?ああ…今、麻里香と一緒なんだ。…うん…うん」
「ええ?!」
暫く電話で津田川先輩と話していた海斗先輩は電話を切った後、私に詳細を教えてくれた。
津田川 美紗お姉さんはお友達の紹介で、あの指輪男と付き合いを始めたそうだ。最初は付き合いは順調にいっていたようだった。ところがここ数ヶ月でお姉さんは人が変わったようになったそうだ。
元々自社ブランドのイメガをしていることもあり、普段からシンプルでカジュアルな服装を好んで着用していたのに、色の派手なフリルの服やら、露出の激しいワンピースばかりを着る様になったらしい。お化粧も派手になり、おまけに仕事も休みがちになって、あの指輪の彼氏にストーカーのような付きまといを始める様になっていたそうだ。
津田川先輩やご家族が諫めても、怒って言い返したり泣き叫んだり…とても普段のお姉さんと同じ人とは思えない変貌ぶりだったそうだ。
「ところがだ、あのクリスマスの日からガラッと様子が変わっていつものお姉さんに戻ったそうだ。美沙さん本人も『何故、あの男に執着していたのかが分からないぐらいだ』と言っているらしい。」
「指輪の影響…でしょうか?」
「恐らくそうだな。現物を見ていないから判定は難しいが、幻惑か誘導…そして憑依も考えられる。」
「憑依?!それって術者が乗り移るアレですか?!」
海斗先輩は大きく頷いた。
私達は今、大通りから路地裏に入ると消音魔法を張って話をしている。話が長くなりそうなので、どこかで座りましょうか…と海斗先輩を誘って、某有名コーヒーショップ店に入ることにした。
「ここは初めてだ!」
「それはようございました。私〇〇ラメル〇〇〇チーノを、先輩はどうされます?」
私が素早く注文をした後も海斗先輩は悩んでいたので、勝手に某店特製ブレンドコーヒーを注文しておいた。
「憑依は傀儡と術式はよく似ているけど用途がまるで違うからな~。傀儡は人形を作って呪う訳じゃないしな。憑依は生身の人や物にとり憑く呪術系統だから、非常に厄介だ」
「今はあの男性の手元に戻って来ているのですよね?」
注文し終わるとスマートに海斗先輩が代金を払ってくれる。さすが元王太子殿下。
私は受け取り口から渡された飲料をトレーに乗せると海斗先輩と窓際の端の席に座った。消音魔法を再び使う。
「津田川 美沙さんの状況を鑑みると、あの男はまた別の女性にあの指輪を渡しているかもしれん」
「そうしたらまた別の女性がおかしくなる…ってことですか?」
海斗先輩はコーヒーを一口飲むと、少し考えているのか目を瞑った。
「う…ん、ケーキの魅了魔法の時にも言ったが呪術もかけようとする対象者が高魔力保持者であった場合は術が効かない…と言ったな」
「はい…あ、そうか。津田川先輩のお姉様は魔力値があまり高くなくて呪術に操られてしまったけど…」
「そうだ、指輪をつけても魔力抵抗値が高い人がたまたま恋人になれば…影響は出ないな。それまではあの男性は、付き合った女性が軒並み派手になってストーカー化してつきまとわれる…という不運に見舞われるということかな」
それも辛いし、どちらにも不幸か。
「良識のある男なら曾おばあ様の指輪をホイホイ渡さないだろう?もしかすると、誰かから付き合う女性に渡せば本性が分かると言われているかもしれないな」
ゾッとした。それって付き合う女性を遠ざけるアイテムになってない?
「俺はあの男性の周りに、嫉妬にかられた女がいるかもしれんと推察するがね」
この時の海斗先輩の読みは当たっていた。
この日から少し先の話になるが、例の指輪の男性がとうとう結婚をして…その結婚式の当日に実姉に刺されるというショッキングな事件が起こったからだ。幸いにして男性は一命をとりとめることになったのだが、その話はまたいずれ…。
さて、年明けの今日から新学期です。
朝の支度を整えて子供達を幼稚園と保育所に連れて行き、海斗先輩と待ち合わせの『シュアリリス学園こっち』の看板の前に向かう。
海斗先輩は先に来て待っていた。小走りで海斗先輩に近づいた。
「おはようございます、海斗先輩」
「おはよう嫁!今日も愛しているぞ!」
新学期から暑苦しいな~。
今年もうちの元旦那は異世界で元気に愛を叫んでいます。
FIN
前世から今世の出会い編、という括りにさせて頂きます。ありがとうございました。